16話 情報交換
「私の冬の頑張りは? 神に嫁ぐ覚悟は? なんだったの……」
俺の巣穴こと滝の裏の洞窟で、巫女ことミーシャさん(名乗って貰った)が凄く落ち込んでいた。
勝手に神だと勘違いした向こうの責任だけど、なんか申し訳ない気がする。
あのあと巣穴についた俺たちは、互いに情報を交換しあった。
俺は数十年前に来て暮らしてるだけということを。
ミーシャさんは、俺がミーシャさんをオークから偶然助けたことが原因で、村に昔から伝わる沼神として信仰されているということや、沼神について、自分こと巫女についてを話した。
豊穣の神として崇められるなんて思いもよらなかった。
それもただ暮らしているだけで。
しかしその伝承、やたらワニっぽいな。
もしかしたら本当に昔、俺みたいにワニのような何かに転生して、この村で神をしたのかもしれない。
そう思っても仕方ないほど、俺ことワニに都合がよかった。
都合が良すぎで不気味だ。
まあなんにしても、ミーシャさんの覚悟は無に帰ったということだ。
こんなワニに嫁がなくていいということだしね。
欲望を言えば嫁いでほしいけど……。
性欲がなくたって、こんな美少女が嫁とか考えるだけで最高の幸せだよ。
まあ種族が根本から違うけど。
俺に至っては人型ですらないし。
「いや、今さら帰って実はこうこうなんて話したら貴方殺されちゃうよ? 事情があれだけれど私の命と貞操の恩人? 恩竜? とにかくそれであることには変わらないから、死なれるのは辛いよ」
そんなことを言ってくれるミーシャさん。
あ、敬語はやめてといったら素に戻してくれた。
神でもないのに敬語する必要もないということで。
俺もこっちの方が話しやすい。
なんにしても、ミーシャさん曰く俺はこれからミーシャさんを嫁に貰った体で神として過ごさねばならないらしい。
でなければ神ではないということで、神を偽った怪物として殺されてしまうようだ。
そっちが勝手に勘違いしただけじゃんと言う話なのに、理不尽だ……。
でも神としての振る舞いなんて知らないぞ?
ましてや動物としてのは生前の知識をフル活動させてもわからん。
高校生までしか生きてないから、そこら辺の人生経験足りないし。
「そこは私がカバーするよ。エルフだとまだ子供だけど、かなり生きてるからね」
なるほど、それっぽく俺の言ったことを訳してくれるらしい。
それなら余程変なことじゃない限りなんとかなりそうだ。
しかし神としてやることってなんだ?
今までと同じように生きていればいいのか?
「たぶん……村に危機があったら助けるとか、そうことでもないなら、なにもしなくてもいいんじゃないかな?」
首をかしげて呟くミーシャさん。
なんにしても、俺の生活は変わらなそうだ。
とにかく形だけだけど、俺の嫁になってしまったミーシャさん。
責任はしっかりもって守らないとな。
怪我なんてさせないように気を付けなきゃ。
そういえばミーシャさんの食事はどうなるんだろう。
それを聞いてみると、お供え物と一緒に付いてくると説明してくれた。
なら一緒にお供え物を取りに行かないとな。
なんにしても、こうして俺とミーシャさんの共同生活は始まった。




