12話 冬眠
飛竜との餌の奪い合いから数ヶ月。
俺は今非常に眠かった。
近くの沼地は氷始め、祭壇に置かれる供え物も少し減った。
そう、冬が来たのだ。
ということはこの祭壇に供え物を置いてくれる謎の人たちも、恐らく冬の蓄えに備えているんだろう。
前世の日本なら冬だろうが安定して食料が得られるが、野生の俺にとっては冬は眠りの時期だ。
だが、眠る前にやることがある。
それは冬を越すために栄養を得ること。
といってもこの時期は動物たちも、皆蓄えのため動いているので水を飲みに来るのは少ない。
ここは質より数で補おう。
沼に棲む魚を絶滅しない程度に食べるのだ。
そうすることで一つ一つは小さくとも、纏めれば立派な蓄えになる。
塵も積もればというやつだ。
毎年毎年やってるが、やはりこう越冬は大変だ。
もしかしたらあの飛竜も、少し早めの越冬の準備をしていたのかもしれないな。
まあだからと言って俺の肉を横取りしたのは許せないが。
いやそもそも祭壇の肉だから俺のじゃないけどね。
絶対いつかリベンジするからな。
そう思いつつ、俺はせっせと蓄えを始めるのであった。
数週間たって、本格的に冬が始まろうとしていた。
それを示すかのように、俺の眠気の深さも日々増えていく。
蓄えも大分溜まり、もういつ眠ってもいいのだがまだ心配なので食をやめてはいない。
失敗して永眠なんて笑えないからな。
蓄えられるだけ蓄えるのだ。
そうそうこの数週間で祭壇がパワーアップした。
木から石になったのだ。
何があってそうなったのかはわからないけど、きっと祀るものへの感謝かなにかでパワーアップさせたのだと思う。
まあ俺には関係ないけれど。
今日も今日とて祭壇にある供え物を奪う。
我ながら罰当たりだが、腐らせたり飛竜の餌にするよりは良いだろう。
そうしてさらに蓄え、眠気も限界に達してきたのはさらに数週間後だった。
もう流石に十分だろう。
そう思った俺は巣穴に篭る。
さあ後は春まで眠るだけだ。
餓死が怖いが大丈夫だろう。
なんせあれだけ食べたのだからと自分に言い聞かせる。
いつも冬眠前は緊張する。
いってしまえば仮死状態になるようなものだから。
それでも毎年やって来たんだ、大丈夫さ。
そう心の内を決めると、俺は重たくなった瞼を閉じて、春までの深い眠りについた。
次に目覚めるとき、まさかあんなことになるとは思いもよらないで。