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11話 因縁

 沼での平和な日々は変わらない。

 魚を追う鳥を追い、たまに水を飲みに来る動物を喰らう。

 スローライフとはこういうことを言うのだろうか。

 今日も今日とて祭壇へ向かう。

 相変わらずそこには肉が置いてあり、それを俺は食べようとしていた。



 その時だった。



 さっと俺の視界を塞ぐように何かが現れて、次の瞬間には肉が消えていた。

 何ごとかと思い辺りを見渡せば、いた。

 それはあのトラウマ。

 俺の記憶のそこに焼き付いたあの飛竜の同種だった。

 おそらく同一個体ではないだろう。

 それでも俺は恐怖を思い出していた。

 トラウマというものは、月日が流れても消えないものだ。

 だが、俺の中の本能は違った。

 フツフツとマグマのようにどろどろと煮えたぎった感情が渦巻く。

 それを俺は久々に感じる感情だった。


 怒りだ。


 俺の食事を奪ったやつに対する怒りだった。

 そしてそれは俺の中で次第に大きくなり、やがて恐怖を押し殺す程になっていた。

 俺は唸り声をあげる。

 対して宙に浮く奴は、これは俺のものだと言うように俺を威嚇する。

 互いに譲らない。

 生物界ではこういう獲物の取り合いが発生し、どちらも譲らない場合は、大抵争いが起こる。

 先に手を出したのは俺だ。

 ワニは鈍重なイメージがあるがそれは間違いだ。

 実際は敏捷性に長けていて、瞬発的な動きは恐ろしいほど早いのだ。

 さらにその跳躍力は、水中からでも後ろ足が宙に浮くほどである。

 その跳躍力で俺は飛竜へと飛び掛かる。

 飛竜はそれを回避するため、素早く飛翔する。

 俺の顎は空を噛み、あえなく着水。

 反撃にとばかりに飛竜が深く息を吸い、頭を後ろへ反らす。

 反射的に何が来るか分かった。

 俺は急いで水中へと避難する。

 それにあわせて飛竜の口から烈火が吐き出された。

 火炎ブレスだ。

 ファンタジーのワイバーンと言えばやはりこれが代名詞だろう。

 実際に味わうと恐怖しかないが。

 その恐怖を俺の闘争本能からわき出る怒りが、心の隅へ追いやる。

 体の大きさならば俺の方が圧倒的に大きい、しかし飛竜は空を飛べる。

 何か一撃当てられればそれでKOをとれそうな気がするが、飛竜は身軽に空を飛ぶ。

 跳躍を回避されてしまうのであれば、空へ飛んだ奴への対策は俺にはなかった。

 人間なら銃とかあるんだろうが、生憎俺はワニだ。

 飛竜は今のブレスで俺が逃げたとでも思っているのか、悠々と空へ飛んでいってしまった。

 悔しかった。

 ダメージを負ったわけではないが、馬鹿にされたみたいで腹も立つ。

 しかし、どれだけそう思っても肉は帰ってこないし、この気持ちは晴れることなかった。

 次会うことがあったら、このリベンジは必ず果たす。

 そう思いつつ、今日のところは巣へと引き返すしかなかった。

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