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悪役令嬢ホモに嫁ぐ  作者: 顔なし
9/11

家族を知る



皆さんおはよう、こんにちは、こんばんは、私です!!

貴方の心の天使、高梨 和希でございます!!

私が当選したあかつきには、明るい街づくり、働き方改革、子育て世帯に優しい社会を実現します!!ワーキングプアなんて許しません、正社員雇用の拡充を目指し・・・

え?意味が分からないって?大丈夫よ、安心して。私も分かってないから!!

・・・ふぅ、その場のノリで生きるってダメね。

しょうもないことしか思い浮かばないんだから・・・私って天才じゃない?


それはさておき、私がどうしてこんなにテンションが高いのかというとーー・・・


「おはようございます、シシアールスティア(シシィ)お嬢様。今日も良いお天気ですよ」


乳母こと、ジャミーラは私を抱き上げて朝の挨拶をした。

「あー、うぃあー」

私なりに「おはよう」と返してみたものの、やはり思うような言葉を紡げない。

必死に返答しようとする私を愛おしげに見つめて、ジャミーラは微笑んだ。


先日の一件から、この世界の片隅に産まれ落ちたのだ、とようやく事実を受け入れることができた。

そのせいかは分からないけれど、今まで何を言っていたのか理解できなかったジャミーラ達の言葉が分かるようになった。ふしぎ⚫戯。

言葉が分かるってありがたい。

自分の名前がシシアールスティアとかいう長い名前であることが知れたし、乳母の名前もようやく分かったしね。


そうそう、それと新発見があったのよ。

あのダークブラウンの男性、彼はだいたい一日に一回、若しくは二日に一回私の様子を確認しに訪れるのだけれど、私の父親らしいの。

雰囲気のあるイケメンだな〜って思っていたら、「旦那様 」とジャミーラが話し掛けていたからたまげたもんよ。

となると、イケメンの父親をもった私は・・・美人確定・・・ということ?

裕福そうだし、イケメンの父、美人確定の私・・・・・・やだ・・・、勝ち組じゃない。何と勝負しているのかは不明だけれど。

ふふ、ジャミーラ、ごますりなら今から存分にしてくれても良くてよ!!でも、ごますりがなくても個人的にジャミーラのことは大好きなので一生側にいてください!!

いっぱいちゅき!!


私が阿呆な顔をぶら下げてニヤニヤしている間に、ジャミーラは綺麗な衣服を慣れた手つきで私に着せていく。

「さぁ、お着替えもできましたし、何時でも旦那様にお会い出来ますね」

そう言ってジャミーラは私の髪に薄茶色のリボンを結んだ。

自分のために用意された服を身に着けた私は、静かに喜びに打ち震えた。

今まででは考えられないことだ。

「和希」と誰も呼ぶことの無い名前を持って生きていた時、私に与えられた物はお姉ちゃんのお下がり。何一つとして、私のために用意された物なんてなかった。

それが今では、「シシアールスティア」と呼ばれ慣れないけれど私の名前を呼んで、私のために尽くしてくれる人が、私のために用意された物がある。


これを幸福と言わずなんと言う。


嬉しい。

嬉しい、嬉しい!

ジャミーラが髪に付けてくれたリボンの色がおばあちゃんの選ぶような渋い色合いでも嬉しいわ!

でも、もっと可愛い色があったと思うんだけれど、どうしてこの色を選んだのかしら?

ジャミーラのセンス?


内心で首を傾げている間にジャミーラは授乳を済ませて、私はゲップをさせられていた。


なんという早業だろうか、げえっふぅ。


「あぁ〜うぅぅ・・・」

満腹感から再度眠気に襲われた私は、もう一度夢の世界へと旅立つことになったのだったーー・・・。




夢の中で、私は『私』(和希)だった。

変わりのないボロボロに糸がほつれた服から、木の枝のようにひょろりとした手足が生える。

好き勝手に伸び続けた髪はろくに手入れがされておらず艶がなく、鬘のような作り物めいた質感になっている。

栄養が足りていないことを証明するように、唇はカサカサで肌色は蝋のように白く、吹き出物が顔の至る所に鎮座して、より不潔さを際立たせていた。


これが愛を与えられなかった人間の「成れの果て」であるなら、次の『私』(シシアールスティア)は何だろう。


私の為に用意された衣服、私に仕える乳母ーーー・・・・・・今の私は愛されているのよ。

愛されて、いるのよ。





「ーーーまだ、・・・・・・は寝ているのか」


低く落ち着きはらったその声が頭上から降り落ちる。

その声は、私の父親のものだった。

「はい、朝の栄養を摂られてから、何度も起きて寝てを繰り返されております」

女性の幾分か高い穏やかな声は、乳母のジャミーラのものだ。

どうやら私が寝てから父親が部屋に訪れたらしい。普通に起きてしまえば良いのだが、タイミングを逃してしまい目を閉じたまま彼等の会話を盗み聞きすることにした。

「それにしても、寝過ぎではないか?一向に起きないじゃないか」

私の顔にサラリとした髪が触れる。どうやら父親が至近距離で覗き込んでいるらしい。

擽ったい上に、香水の良い香りと父親の息遣いを身近に感じて私は鳥肌を立てた。と言っても柔らかい布に包まれている為、私が鳥肌を立てていることに誰も気づかない。

「産まれたばかりの人というのは、そういうものでございます。きっと生きる為の英気を養っておられるのですよ。時期がくれば、私達と同じような生活リズムになりますから」

「・・・そういうものか」

「そういうものです」

ジャミーラの説明に納得したのか、父親は私から顔を離した。それによって、心持ち私の体から力が抜ける。

「そういえば、奥様のお加減はいかがでしょうか?お嬢様も早く奥様のお顔を見たいのではないかと・・・」

おずおずとジャミーラがそう口にする。すると父親は黙り込み、返答する気配は無い。ただ室内には、二人の衣擦れの音だけが落ちる。

奥様というと、私の母親に違いない。

思い返してみれば、今まで見たことのある人達は、乳母と父親、他使用人でその数は十人も満たない。

勿論、その中に母親の姿は無かった。

ジャミーラの話しぶりから、産後の肥立ちが悪いのか体調が優れず、顔を出すことができ無かったのだろうと答えを出す。

色男である父親と結婚したというのだから、母親もかなりの美女に違いない。

母親の姿を思い浮かべてみても、瞼の裏に浮かぶのは、私に背中を向けて台所に立つ、あの人の姿だった。

言葉をかけても無視をされ、たまに向けられる視線は憎い人間を見る、ナイフのように尖ったものだ。


次の母親もそうだったらどうしよう・・・


ぬるま湯に浸っていたような気持ちが一気に冷めていく。

私は無力だ。

どれだけ自由な私を演じても、結局はこうして自分のことさえ守れない。

「ーー・・・・・・そうだな、天気の良い日にでも外を散歩してみろ。そんなに会わせたいのなら、会えるだろうさ」

父親の指先が私の髪に触れる感覚、いささか強い力で引っ張られ私は思わず目を開けた。

驚いた私の顔が、父親のレモングラスの瞳に映る。

「ふん、寝たふりとは、小賢しいことをする」

私は息を飲んだ。

綺麗な顔のつくりは、表情が無いと冷たい印象を与える。

しかし、私は恐怖を覚えるよりも前に、口をあんぐりと開けて見つめ返すしかなかった。

父親の指には、朝ジャミーラによって結ばれたリボンが摘まれていた。

それは、彼の瞳と同じ色であった。

「まあ!旦那様、乱暴なことはおよしください。怖がって泣いてしまいますよ」

父親はジャミーラに私から外したリボンを放り投げる。既に私への興味を失せたのか、彼は部屋の扉へと足を進めた。

「無理に似合わん色を着けるな」

そう言って、扉が閉まる音がしたと思えば、ジャミーラが呆れたように呟いた。



「旦那様の色では無いですか・・・」


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