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悪役令嬢ホモに嫁ぐ  作者: 顔なし
4/11

前世の話し4



どうやら、男性と私は趣味が合うみたいで少しづつ距離を縮めていったの。

と言っても相手は大人だから私に合わせてくれているっていうのが正しいところね。

男性はいつも仕事終わりの夕方、スーツ姿のままふらりと図書館にやってくる。30代くらいのその男性とはお互いに名乗りあわず、図書館で二人揃った時に少しだけ会話する。

最初はそれこそ会釈するだけだった私も、相手のコミュ力の高さにつられ、今では「この本はラストが嫌いです」「この本はキャラクターが活き活きしてて好きです」って感想も言えるくらいになったわ。


え?言い方が硬い?うっさいわね内弁慶なのよ!!

・・・ふぅ、分かったわよ、陰キャと言いたければ言えばいいわ!!でもね、陰キャがいるから陽キャが映える!!陽キャがいるから陰キャが映えるのよ!!

だから感謝することね、この私という陰キャに!!!

私と同じ陰キャは、握手しましょう。

挫けてはいけないわ、陰キャこそ縁の下の力持ち!

想像してご覧なさい、陰キャがいない陽キャだけの世界を・・・・・・どう?五月蝿そうでしょう?内弁慶の私には地獄でしかないわね、あぁ止めてっっ!私の弁慶を虐めないで!!痛い、弁慶が痛い!!

・・・おっと、熱くなってしまったわ。失礼BABY、私はクール。私はCOOOOLよ!!


本の感想を述べる私に男性もにこにこの笑顔を浮かべて「じゃあこの人の書いた小説が合うかもね」って教えてくれるの。

なんて言うのかしら・・・、歳は離れているけど自分に兄がいたらこんな感じだったかもと想像したわ。どう考えても現実のお姉ちゃん同様、実在したら虐められるだろうと思うけどね。

理想って大事よ。何事も現実があって理想があるの。現実が嫌だから理想を夢見て妄想に逃げるのよ。

なんて、他の人がどうかは分からないけど私の場合はそうなの。はぁ、つまんないこと語っちゃったわ、忘れて。


男性から勧められる本は全部私の当たりだったわ。マイナーなモノまで勧めるんだから、男性の読書量には驚かされた。

それに対抗心がメラメラと燃え上がった私は、男性がどういうものが好きか分からないから、一方的にお勧め図書を紹介したの。それでも、男性は嫌な顔一つせずに「ありがとう、読んでみるね」と大人の対応をしてくれたわ。

そうやって、お互いのんびりと親交を深めて気付けば二年の月日が経った。

私は中学三年生に上がって、将来について真面目に考えないといけない時期に差し掛かっていた。

その頃には、男性ーー葉山 蓮太郎さんとお互いに名乗りあって時にプライベートの話しをすることもあった。


「皆、進路についてはもう考えてあるか?受験なんてあっという間だ、進学先をどうするのか、仕事に就くのか就かないのか、自分で納得いく答えを見つけなさい。進路について悩んでいるなら、何時でも先生に相談しに来ていいから」


配られた進路調査票を見て私は固まった。敢えて考えないようにしていた現実が眼前にそびえ立っていた。

これ以上、見ないふりも出来なくて私は進路調査票を家に持って帰ったの。

こればかりは、私一人で抱えることのできない案件だったからよ。

授業が終わったら直ぐに図書館へと通っていたけど、今日ばかりは寄り道せず帰ったわ。

葉山さんには悪いかなとチラっと頭を掠めたけど、約束しているわけじゃないし、勿論、お互い会わずに帰る日だってある。だから気にしないことにしたの。


お姉ちゃんや弟が部活に入っているから帰宅は何時も七時過ぎで、その時間に合わせて夕食が出来上がるの。だから、私が寄り道せず帰れば五時半くらいだから、母親はまだ料理を作らずテレビでも観ているはずなの。時間を潰している今なら、母親と進路について話すことができると思ったのよ。

「相談」じゃなくて「話し」あるいは「確認作業」になるだろうけどね。

予想通り、帰宅すると母親はリビングのソファに座ってニュースを観ていたわ。虐待についてのニュースだったから、なんだか変な気分になっちゃった。

「・・・あの・・・、お母さん・・・・・・進路について話したいことがあるんだけど・・・」

母親は私を見ることなく、テレビのチャンネルを変えていく。報道番組、ご当地番組、アニメーー・・・・・・最後に観たいものが無かったのかテレビの電源を切って、卓上にある新聞を読み始めた。

「あの、あのね・・・・・・、私、進学したいなって考えてて・・・、だから、その・・・高校の学費を用立ててもらいたくて・・・・・・」

もしもダメだと言われたら、奨学金も考えていたの。ほら、やっぱりいくら進学の為と言えど借金ではあるから保証人が必要で、それを頼めるのなんて必然的に両親しかいなかったのよ。

私が進学したいと思ったのは、「それが当たり前のことだから」だった。

ハローワークにこの間行ってみて吃驚したわ。大体の求人が高校卒業若しくは大学卒業が必要で、高校か大学で給料も違うしその上、運転免許が必須な所が多かったの。

・・・私、無知も大概よね。進学が無理なら仕事でも・・・ってハローワークに行ったらこのザマよ。世間様が求めてるのは教養と専門スキルがある人間なのよね。アルバイトも考えてはみたけど、到底、一人で生活出来るほど稼げる仕事なんてあるはずなくて、早々に諦めたわ。諦めて、進学の路を選んだの。


「自分で賄いなさいよ。義務教育が終わったら、この家から出て行って」


母親は私を見ずに拒絶した。

「え・・・・・・」

思わず絶句した私に向けて母親が視線を向ける。それは、小学校卒業前の事件以来、久し振りに向けられた視線だった。

「ほんと、早く死ねばいいのに。なんで生きてるのかしら・・・。本来だったら、児童相談所でもなんでもアンタを放り捨てたかったわ。それをしないだけ感謝しなさいよね、私から話すことはもうないからとっとと消えなさいよ。目障りなの、この穀潰し」

投げ付けられる言葉のナイフに私はボロボロだった。どうしてこんなに嫌われているのか分からない。分からないけれど、母親にとって私は憎むべき対象なのだと、その目がありありと物語っていた。

「な、なんで・・・・・・?お母さん、私・・・何か・・・した?お母さんが嫌なことしてたの・・・?」

呼吸が上手くできなくて、肩が上がる。スカートを握りしめた手は、誤魔化すこともできずにみっともなく震えていた。

「お父さんの遺言さえなければ・・・、もういいからさっさと消えて。貴女がいるだけで私は不幸なのよ」

動くことが出来なくて震える私を一瞥して、舌打ちをすると母親は私を押しのけてリビングから出て行った。

パタンと閉じた扉が母親からの完全なる拒絶だった。

足に根が生えたようにリビングで立っていることしかできない私は、ボタボタと涙を零した。

伸びっぱなしの髪が邪魔で、結局この三年間成長しなかった私にダボダボの制服は不格好で、誰も友達は出来なくて、何時もひもじい思いをしてて、皆と同じ食卓に着きたくて、ちゃんと家族になりたくて、笑いかけて欲しくて、愛して欲しくて、笑いかけて欲しくて、助けて欲しくて。

お母さん、私は・・・

ただ無償の愛が欲しいだけなんです。





※主人公の祖父(母方)は既に死んでいます。


母親は亡くなった祖父を好きではありませんでした。何故なら、彼女もまた愛されたことがなかったからです。

祖父はギャンブルに酒に煙草、女遊びに手を出して勤めていた会社も女癖の悪さから問題を起こし退職しています。

祖母は母親を産んですぐ産後の肥立ちが悪く他界しており、ダメダメの祖父を支えるのは母親しかいませんでした。

母親が成人すると共に家を出て夫と出会い結婚しました。自分の子供を産み、自身の幸せに浸っているときに音信不通であった祖父の件で市役所から連絡が入ります。

仕事をせず、酒に逃げてばかりの父はその内、精神的に不安定となり精神科病院で入退院を繰り返していました。

今までの不摂生が祟ったのか、食道癌を初めに体中に転移した癌に蝕まれ、救急病院で呆気なく亡くなりました。

生活保護であった為、市役所から亡くなったので葬儀の手続きをお願いしたいという連絡が入ったのです。

母親は悩みに悩んだ末、最後くらいはと遺品整理から葬儀の手配まで行いました。

遺品整理をしている時に、母親は机の引き出しから遺書を見つけます。

そこには、今までの自身がどれだけ身勝手であったか、沢山人に迷惑をかけたこと出来たら人生をやり直したいが、病気が見つかりそれもかなわないことが汚い文字とも呼べぬ程崩壊した字で綴ってありました。

死ぬのは怖い、しかし、最後にまた自分の子供に会いたいと書かれた祖父の遺書に母親が複雑な心地で読み進めていると、「ーー会いたい、和希」と母親ではなく別の名前が記されていました。


「自分は、一時期混乱して精神科病院に入院した。その時に出会った女性と恋に落ち、愛し合った。私達の愛は結晶となり、この世に誕生した。私の、世の人々の希望となるように和希と名付けた。今、愛した女性は産んだことでまた気持ちが不安定になったようで長らく入院している。私も病気を持っていて育てられそうにない。和希は、児童養護施設で預かってもらっている。出来るなら、晶子、この遺書を読んでいるなら和希を私に代わって育てて欲しい」


母親ーー晶子は、遺書を破り捨て遺品を全て燃やしました。

全てを忘れてしまいたかったが、自分もまた母となり子供を育てる喜びを知った母親は和希の存在を記憶から消すことは出来ませんでした。自分の子供が泣く度に、笑う度に、駄々を捏ねる度に会ったことも無い和希が母親を責めました。

苦しむ姿に見ていられなかった夫が母親の背中を押します。「悔いのないようにしたらいい」と。

その言葉に励まされ、市役所の生活福祉課の担当者や祖父が入院していた病院を頼り半年後、母親は和希と出会いました。

まだまだ小さく言葉の意味をしっかり理解出来ない和希を抱いて母親は自宅に連れて帰りました。祖父に代わって愛するために。

しかし、日が経つにつれて母親は和希を見ることが出来なくなりました。祖父の愛の結晶が和希だというなら、自分は祖父にとって何だったのか。体の良い道具くらいにしか思われていなかったのではないか・・・、今回のように。母親は祖父に愛されたことがありませんでした。

だから、それでも祖父が母親を愛していたというのならーーー、母親は祖父にされた通りのことを和希に行いました。それが祖父の愛だと言うのなら、和希も幸せだろうと自分自身を誤魔化して。


夫は母親を止めません。「悔いのないようにしたらいい」と背を押した張本人でもあり、和希を見る母親の視線に言葉も無かったからです。

そうして、一つ一つが歪み崩れて、母親は限界を感じていました。

和希への憎しみが妬みが止まることなく、ただただ彼女を害する存在にしかなりえない自身が次に何をするか分からなかったのです。だから、「中学を卒業するまで」という期限を設けました。


母親は年の離れた妹を愛することが出来ませんでした。しかし、自分達の関係を伝えないことこそが彼女にとって出来る唯一の愛でした。





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