前世の話し3
どうも、ご機嫌如何かしら?
ナプキン女こと、高梨和希よ!!
無事中学生になったわ。これでようやくボロ雑巾服から脱却されたのよ、制服って素晴らしいわね、考えた人には肩叩き券をあげようかしら。
一回100円30分よ!!
30分、500円でも可!!!
・・・値上げしてても誰も客がつかないから話しを戻すわ。これだから不景気って嫌よね、心が侘しくなるんだから。
制服って言ったって、結局、お姉ちゃんのお古だから当然どこもかしこもサイズが合ってなくてブカブカなのよね。所々ほつれてるけど、目をつぶってもらうしかないわ。
ようするに無いよりマシってこと。
鞄と教科書諸々お古だったことには、今更驚くこともなかったけど、自分の為の新品って憧れちゃうわね。
全身お古の完璧コーデで挑んだ中学校生活は以前とあまり変わりなし。
小学校卒業間近の「ナプキン女」っていうあだ名が入学当初既に広がっていて、同級生からは必要最低限しか話しかけられなかったの。
でもそれが良かったのかもしれない。
だってほら、今更私に友達?みたいな人が出来たとしてもどう接していいか分からないわよ。家に呼ぶことも出来ないし、お金が無いから一緒に遊びに行くことも出来ないわ。
それに最新のお笑い番組もドラマも、今流行りの俳優やアイドル、音楽も動画もないないづくしの私には知る手段の出来ないものだしね。テレビも観れない私にスマホやパソコンなんて夢のまた夢ってやつよ。簡単に言うと同級生との共通の話題が出来ないの。テレビとか動画やネットの情報が最たるものね。
人付き合いのことで頭を悩ますくらいなら、やっぱり本の世界へ迷い込んだ方が幾分もマシ。
中学校に上がってからは、県立図書館に通うことを覚えた私は日に5冊本を読んで借りてを繰り返していたわ。
1年で365冊以上読むことを目標にしてたの可愛いもんでしょ?
ま、本以外に生きがいがなかっただけの話しなんだけどね。
そんなある日のこと、いつも通り本を探して本棚を行ったり来たりしていたの。
今日の気分はミステリーよ。
恋愛小説にこの間までハマってたの。可愛い女の子が学園の人気者に追いかけられたり、逆ハーとか悲恋ものとか・・・最初は読んでるだけでドキドキして早く続き!!はよっ!!ってなってたんだけど・・・恋愛小説って読みすぎると胸焼けするのね。
ホラーだったり殺人事件とかの推理小説だったりを読んでこの胸焼けを解消しなければ晩ご飯が美味しく食べられないわ。
相変わらず米と卵というTKGにするしかないメニューだけどね!!
だからこそ、メンタルヘルスは私にとって大事なのよ。
はーいリスパダール処方しましょうね~。
「キミ、いっつも図書館に居るね」
あら嫌だわ〜、図書館なのに静かにすることも出来ないなんてマナーのなってない奴がいたもんね。まぁ、学校の図書館と違って県図書(県立図書館)は、一般市民が利用するから色んな人が居るものね、仕方ないのかもしれないわ。
「ねぇ、キミだよキミ」
ぷぷぷ、無視されてるわ。やだ、良い声なのに無視されてるなんてそれこそいい気味ね。にしても、相手の人は誰なのかしらずっと無言だわ、もしかして耳が遠いのかしら。
私が熱心に小説コーナーの棚をチェックしつつ、つらつらと想像を巡らせていると大きな手に肩を掴まれたの。
「ふよふぁあっっ!」
・・・・・・弁明させてくれていいのよ?
人間ね、本当に油断して自分の世界に浸っている時こそ、突然の刺激に心底驚くものなの。
うわー、声裏返ったなーとか変な声出たわーとか思ってもね、そこはスルーするものなのよ。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・スルーしろ、してください!!
私が驚いたことに相手も驚いたみたいで肩に手を置いた男性は、目を真ん丸にしていたわ。
スーツを着て、どう見ても社会人の大人である相手に私は警戒した。
だってどう頭を振ってみても、頭を転がしてみても、ヘッドスピンかけてみても知らない人なんだからしょうがないわよね。ストリートダンス極めようかしら。
やだ・・・目が回る・・・。
「はは、怖がらせてゴメンね。つい、珍しくて声を掛けただけなんだよ。だから、睨まないで欲しい・・・かな」
男性は降参って両手を軽く上げた。
一つ、誤解を招いたみたいだから釈明するけど、実は私って目が悪いのよね。
だって、考えてもみなさいよ。自分の部屋が押し入れでそこでハンドライト片手に本読んで日中も本読んで・・・そりゃ嫌でも視力落ちるわよね。
気が付いたら黒板の文字が霞んでいるんだもの驚いたわ。
学校生活にも支障が出るし、ダメもとで母親にもう一度アタックしてみたの
「眼鏡欲しいな〜チラチラ」ってね。いや、実際こんなラフに言ってはないけど、ニュアンス的には同じよ。
お願いしてみたって買ってくれないのは目に見えていたしね。目は悪いけどね!!
例外として購入してくれるのはナプキンくらいよ。小学校のあの騒動以来、こまめに補充してくれてるの。そこだけは感謝ね。
ふふ、今だってもしもがあっちゃいけないから鞄にナプキンを忍ばせているわ。まるでお守りね、ふふふこんなお守り絶対嫌だわ。
開運祈願にしてちょうだい。どう考えても私のステータス運がマイナスだもの。
結果として、やっぱり眼鏡は買ってもらえなかったわ。だから私は遠くのものを少しでも見えるようにって目を眇めてしまう癖がついたの。このせいで目つきが悪いと先生から注意を受けるし、なんだか余計目が悪くなった気がするわ。悪いことづくしね。
因みに、後ろの席じゃ本当に見えないから教卓の前の席に移動したの。先生とよく目が合うわ。
・・・あらやだ、先生・・・鼻・・・毛・・・。
と、いうわけで男性を見た時についつい癖が出てしまったのよね。実際、顔もぼんやりとしか見えなかったし。
「いえ・・・」
なんて言ったらいいのか分からなかったから、ついつい素っ気ない返事になっちゃったわ。
こういう所で、人付き合いをしてこなかった代償が払われるのね。
高くついたもんよ、お釣りはいらないわ。
持ってけドロボー!!二度と来んな!!!
素っ気ない返答にも、睨みも男性は気にかけなかった。
私が借りる予定で手に取った本に気づいて男性は笑ったの。その笑い方が凄く・・・、なんて言うのかしら、自然に内側からもれ出てきた力の抜けた笑顔だったから、凄くビックリしたわ。
ほら、私って基本的に嘲笑しか受けてこなかったから、コミュニケーションとしての笑顔を向けられたのって初めてだったのよね、
「それ、その小説、僕もこの間読んだよ。読んで損は無い、お勧めだよ」
男性はそう言うなり、ひらひらと手を振って去って行ったわ。
私は呆然としながら無言で手に持っていた小説に視線を落とした。
有名なミステリー作家が書いた小説は、きっと本好きなら誰だって読んだだろう、それ。
でも、なんだか・・・少しだけ、読むのが楽しみになったわ。
それ以来、私はこの男性と図書館でお互いのお勧め図書を紹介しあう仲になった。