前世の話し2
私が生きてて一度だけ犯罪に手を染めたことがあるの。それってね、本当にやっちゃいけないことで、人として情けないことなのよ。
本当だったら恥ずかしくって言いたくもないし、誰も聞きたくもないだろうけど、私の戒めとして記しておくわ。
相変わらず家族から冷遇される毎日に嫌気がさしていた頃、私にも変化があったの。
それは小学校の卒業間際に起こったの。なんて言うの・・・ほら、第二時性徴ってやつよ・・・保健体育的に言うならね。
吃驚したわ。通学してたら何だか股間が変な感じで「もしかして漏らしたか!?」って慌ててトイレに走ったらもう・・・真赤っか。
クラスメイトの「始まった?」、「え~まだー」っていうやり取りに聞き耳立てたり授業で習ってなかったら泣いてた自信があるわ。
グロよグロ!!R18よ!
そのR18物件を12歳の子供が一人立ち向かうなんて出来るはず無いじゃない。学校でのことだったからとりあえず、トイレで出来るだけの処置をして(笑いなさいよ)、保健室に行ったの。
保健室の先生は女性だったから、言えば助けてくれると思ったのよ。朝の時間、丁度誰も保健室を利用してなかったから恥を偲んで言ってやったわ。
「生理が来た」ってね。
そしたら何て言ったと思う?
「あらまあ、おめでとう」ですって。おめでとうじゃないわよ!!おめでたくなんか一個もないっての。こんなR18物件一人で抱え込む気、私はさらさらないのよ!!
良いから早く生理用品貸しなさいよって気持ちで、もう一回「生理が今、来た」って付け足した私の勇気を褒めたたえたわよ!!
拍手喝采!おめでとう私、よくぞ言った!!偉い、偉いわ!!!
でも、先生も強かったの・・・。不思議そうな顔して、もう一回祝福したのよ!!
もうね・・・ここまで来たらわざとなのかしら?って思うわよね。何で態々あんまり関わりのない保健室の先生に「生理が始まったのようふふ」って報告しなきゃいけないのよ。
普通に考えて困ってるんだなって察しなさいよ!無能か!!
もう私の羞恥パロメーターは限界突破して、危険信号を発してたわ。気が狂う直前よ!!
真赤になった私に対して、「あらやだ風邪?」って体温計出してくるくらいだったらナプキン寄越しな!!って叫びそうだった。
ナプキンお化けになるところだったわ。
もうね・・・、私の敗北。燃え尽きたぜ・・・、真っ白にな・・・。
結局、その日は諦めて休み時間毎にトイレで応急処置してなんとかやり過ごしたの。
勿論、図書館にも寄り道せず真っ直ぐ帰宅したわ。せめて、母親に事情を説明してコレばっかりは助けてもらいたかったのよ。
夕飯の仕度をしている母親に向かってね、言ったの。
「生理が来たから、ナプキン頂戴」ってね。
この時の私の心は凄まじかったわ。母親に声をかける勇気と、生理になってしまったっていう恥が強くて泣きそうだった。
殆どの家がどうかは知らないけど、我が家はトイレにナプキンは常駐されてないのよ。お姉ちゃんもとっくに生理が来てるんだけど、父親とか弟の手前、隠してるみたいだった。
ほら、本来だったらお祝い事としてお赤飯炊くじゃない?(これはクラスメイトのこしょこしょ話を聞きかじった知識よ)でも、お姉ちゃんはそんなあからさまなお祝いをされるのが嫌だったみたいでして無かったの。
徹底的に性に関することを隠していたもんだから、お姉ちゃんのナプキンを人知れず貰ったりすることもできなくて、私はこれこそ上履きや教科書よりも買ってもらうべきものだと思ったわ。
勇気を振り絞った私に母親が言ったのよ。背中を向けたまま、振り向きもせず、トントントントンってまな板で包丁を振り落としながら。
「あっそ」
その声は今でも耳にこびりついてる。凄く冷たい素っ気ない言葉だった。
もうね、ダメだったの。分厚い心の壁を非力な私が砕けるわけなかった。
助けてもらいたかったのよ。
初めてだったの、
どうしたらいいか分からなかったの、
教えて欲しかったの。
怖かったの。
気付いたら私は家を出てた。夕日が眩しくて、でも夜の色と昼の色が混ざった空は綺麗だなあって思いながらとぼとぼと歩いてた。
でも結局、また違和感があってコンビニのトイレに駆け込んだわ。一体今日一日で何回トイレにこもったのか数えるのも馬鹿らしかった。
ちなみに、8回目よ。
熟練の執刀医さながらに適切な処置をして私はトイレから出たの。気分は最低よ。教科書を読んだ限りでは、これが毎月一度、約1週間続くって知って絶望したわ。
R18が毎月気軽に「やあ!」ってやってくるのよ!?気が狂うに決まってるわ。
それにこんな状態が1週間も続くなんて耐えられない。毎日8回以上トイレに籠らないといけないなんて、クラスメイトから「トイレの神様」ってあだ名を付けられるに決まってるわ!!今日だけで「トイレの亡霊」って噂されてたんだから!!
亡霊から神様に格上げしたのは、まだ神様の方がマシかなって思った私のささやかな希望よ。
でも、本当に冗談抜きで私、困ってたのよ。どうにかして一人で乗り切らなきゃって。
せめて、卒業式まであと一月だったから「トイレの神様」に格上げされないようにしたかったの。
それで・・・、コンビニって色々あるじゃない?日用品からお菓子から飲み物、食べ物って。あんまりコンビニに入ったことない私は、折角だったからコンビニを物色してたの。
そしたら、あったのよ。私が喉から手が出るくらいに欲していたナプキンが・・・っっ!!
驚いたわ、コンビニでナプキンが買えるなんて。喜んだはいいものの、直ぐに肩を落としたの。
だって、消費税込で一つが400~500円くらいするのよ。買えっこなかったし、そもそも私は12歳になってお金を持ったことがなかったの。
絶望よ!これを絶望と言わずしてなんて言うのよ!!ガッカリよ!!
どのくらい生理用品の前で立ってたかしら、諦めきれなかったのよね。カウンターをチラって見たら、ダルそうにバイトしてる大学生くらいの男性店員だけだった。
だから・・・、私、思わずナプキンを服の下に隠して店を出たの。大疾走よ!!
当時の私は知らなかったんだけど、こういう万引きを防ぐためにレジを通してない商品を外に持ち去ったら「ビーーーーー」ってブザーが鳴るのね。私が悪いのは承知してるんだけど、その音を聞いた私は、ビックリして逃げる足を速めたわ。
それでも、子供の足なのよね。それに私って栄養失調気味だったし、運動も苦手でその上、生理中よ?応急処置したといえ、患部が思わぬことになったら辺りは血の海になっちゃうから可愛らしい女の子走りしか出来なかったわ。〇ちゃん走りじゃないわよ。
コンビニから弾丸の如く追いかけてきたお兄さんに呆気なく捕まった私はそのままレジ奥の休憩室に連れて行かれた。
気分はまさに死刑台へと向かう囚人のそれ。なんてことしちゃったんだろうとか、両親に怒られるとか、警察に捕まって一生を塀の中で暮らして規則正しい生活を送るんだわって色々考えてた。
でもね、最後には、囚人の方がご飯も3食ついてるし今の暮らしよりはマシかな、なんて呑気に思ってたの。救いがないわよね。
まぁ、私の年齢を考えると初犯だし、最悪、児童相談所止まりだったんじゃないかなって思うわ。だからって、犯罪は良くないのよ。私もどれだけ追い詰められてたからと言えどナプキンを、ナプキンを!!(大事だから2回言ったの、煩かったらごめんあそばせ)盗むなんてとち狂ってたと思うわ。
事務所の机でお兄さんに「何取ったの?」って言われて、顔を真っ赤にさせながらお腹に隠し持ってたナプキンを机に置いた時が人生最高潮に恥ずかしかった。お兄さんも最初は「え?」って目を剥いた後に、気まずそうに頭をかいてたから申し訳なさもマントル突き抜けたわ。
でもね、お兄さんは優しかった。勿論、親には連絡を取らされたけど、「困ってたんだよね」って代わりに商品を購入してそれを私にくれたのよ。
初めてナプキンを手に入れた私は震えたわ。コンビニのお兄さんは私にとって正しく神、ナプキンの神様だったのよ!!「へへー」って地に頭を伏せて敬いたかったけど、それより先にトイレで女の子の用事を済ませたかったから鬼気迫る顔でトイレへダッシュした。
お兄さんちょっと笑ってたわ。
その顔がなんだか可愛かったから「まぁいいか」って思ったけど。
無事にナプキンを試行錯誤で装着した私はようやく人心地つけて、お兄さんに迷惑をかけたことを心から謝ったわ。その頃には、母親も駆けつけて平謝りよ。
お兄さんバイトのはずだから、「今回ばっかりは見逃すけど、もう二度としちゃだめだよ」なんて自己判断で許してくれたけど、本当はマニュアルで警察に通報しなきゃダメだったんじゃないかなって後々気が付いた。
一通り謝り倒して、コンビニを出た後は、自業自得なんだけど地獄だったわ。
二週間はご飯を出して貰えなくて、あと初めて叩かれたの。
「恥をかかすな」とか「出来損ない」だとかなんだか色々言われたけど、今回ばかりは私が悪いのは分かってたから、全部受け止めた。
こんな馬鹿なことする私は家族にとって「恥」で「出来損ない」なんだってよく理解できた出来事だったわ。
それに、ちょっと今回ばっかりは私もそう思ったわ。犯罪はダメね。
そうして、何故かこの事件は学校で広まって私は見事、「ナプキン女」という安直なあだ名を手に入れた。