前世の話し
だいたい、私って運がないの。
生まれてこのかたついてたことって言えば、一応雨風凌げる家があったことくらいかな。
それでも、父親とか母親とか言う人達はだーれも私のことかまっちゃくれなかったけど。お姉ちゃんや弟は両親と同じテーブルでご飯食べれるのよ。
でもね、私は別。
皆があったかーいシチューだとかお鍋だとかとにかくそんな豪勢な食べ物食べてるテーブル横の床で私はご飯と卵だけ。シチューの芯から温まりそうな優しい匂いやお鍋のグツグツ煮える音を聞きながら食べる白米の虚しさったら・・・余計私を惨めにした。
寝る所も私は皆と別。皆がふかふかに干されたベッドで寝てるのに、私は押し入れの狭い一角で黴臭いタオルケット一枚で寝てた。
はっきり言って、どこの猫型ロボット?って感じよね。まあ、私には夢いっぱい溢れるポケットも自分だけの秘密の引き出し机も眼鏡をかけたドジな友達もいなかったけど。
でも、埃っぽい押し入れで体を縮めて眠る瞬間が1番ホッとした。
家の中は何だか気が張って、何時もそわそわびくびくしていた。両親はそれこそ殴ったり蹴ったりなんてことしやしなかったけど、私を見る目はとても冷ややかだった。ご飯と卵だけの食事で5分以上時間をかけると「まだ居るの?」っていう雰囲気ばりばりで舌打ちするの。
それ聞くと、もうダメ。
折角のご飯も喉を通らなくなって、卵の黄身の甘さが辛くって勿体ないなって思うんだけど食器を片付けて押し入れに戻るのよ。私がダイニングルームを出るとどっと笑い声が飛び出すものだから、耳を塞いで慌てて戻ってた。
他の姉弟も私を冷遇した。
何時も私が着てるのはお姉ちゃんのお下がりの服。それも気付いたら何処かに隠されていたり、汚されたりして殆どが使い物にならないくらいボロボロだった。犯人は姉弟だったけど、私が何を言っても意味が無いのは分かってたから、ただ黙ってボロボロにほつれた服を身に付けてた。
何も着ないよりかはマシだから仕方が無かったけど、正直辛かった。小学校低学年の時に、同級生の子達から「何で雑巾着きてるの?」って言われた時は、何も言えなかった。
早く中学生になりたいって強く思ってた。
だって、地元じゃ小学校は私服で中学からは制服になるから。私の中でそれだけが救いだった。
でも、はっきり言って私は学校という場所が好きじゃなかった。
まともな食事と言えば小学校の給食で、着ている物もボロ雑巾と揶揄されるようなみすぼらしい恰好。碌に食べられないから、体はガリガリでミイラみたいってからかわれて、美容院に行ったことない髪はあっちこっち好きな場所に伸びてはねていた。ついたあだ名は某ホラー映画の幽霊の名前。
それも最初は映画なんて観たことなかったから、何を言っているのか訳が分からなかったけど、直感的に良い意味じゃないことは理解していた。
ま、今思えばクラスで浮いた存在だった私がからかいだったり虐めの標的になるのは当たり前だったんだよね。人間、悪い意味で目立つ存在は排除したくて堪んなくなるのよ。若しくは、自分が優位だと自分自身の存在を確認する為に、虐めるの。
授業中は問題ないけど、休み時間だとか班分けしての校外学習なんて時は最悪。皆私にちょっかいかけてくるから鬱陶しいのなんの。私のことが気に入らないなら見ないふりしてたらいいのにね。
悪口くらいの虐めなら嫌だったけど耐えられた。だけど、物に関することだけはダメ。上靴を隠されるとか、教科書を破かれるなんてされたらもう終わり。お手上げよ。
両親に新しい教科書や上靴を買ってってお願いするのにどれだけの勇気が必要か!
でも、言った所で無視されて結局、学校の中を来客用スリッパで移動するしかなくなって、それに違和感を覚えた教師が私を問い質してようやっと虐めを受けていることが発覚されたわけよ。
いやおっそ!!気付くのおっそ!!ってどんだけ心の中で突っ込んだことか。
それでも、気にかけて私に声を掛けてくれたあの教師には感謝してる。その教師はまだ社会人なりたての若い人だったから見ないふりをしなかったんだろうなって思う。
だって、その教師以外の年配の人達は腫れ物を触るように私を扱ったんだから。気付いてたけど、大事にはしたくなかったし、自分達のために無事卒業して欲しいくらいにしか思ってなかったんじゃないかな。これに関しては想像だから、なんとも言えないけどね。
そんなこんなで、若い教師が頑張ってくれて私は虐められることはなくなった。と言っても、直接的な被害がなくなっただけで、たまに悪口が出たり、無視されたりは続いたけどその程度だったら我慢できた。
もう私に構う同級生がいないから学校ではのびのびと過ごした。特にお気に入りの場所が図書館。
本は凄い。
物語の世界を私も体験できるから。大好きな女の子の為に、悪者と戦う主人公をドキドキハラハラしながら見守って、頭を捻りながら連続殺人事件の犯人を推理して、魔法を使って世界を旅する魔法使いと共に空を駆けた。
ま、これら全部が妄想と言われるものなのは分かっている。あるいは現実逃避。
だけど、現実があんまりにも侘しかった私にはこの逃避が必要だった。
夕方、図書委員が一人受付で座るくらい人影の少ない図書館で胸いっぱいに紙の匂いとそこにやや含まれる埃っぽい匂いを吸い込んで、「さぁ、今日はどんな世界に旅立とう!」って本を探す時間が好きだった。
あんまり早く帰っても家には居場所がないし、遅く帰ったら帰ったでご飯が出てこなくなるから、夕食の時間を狙って帰るのが私の日課だった。それでいうと、図書館はちょうどいい時間潰しになった。物語の舞台に魅入ってよし、宿題をしてもよしの良い環境。当然私は図書館の常連となっていた。
帰宅の時間になったら、渋々家に帰る。正直、家には食事と寝る為に帰ってるようなものだった。美味しそうな夕食を横目にご飯をかきこんで押し入れに入る。押し入れの中は暗いから、家で探し出したハンドライトで図書館で借りた本を読んでいた。でも、図書館の時みたいに世界に入り込むことは出来なくて、家族の声や気配にビクビクしながら読んでいたから全然集中出来なかった。
私が読書が好きとバレてしまえばライトや本を奪い取られただろう。
最初から、この家で優しさなんてもの私に与えられたことはなかった。どうして私だけこんなにも待遇が違うのか、どうして家族から愛されないのか図書館で色々な本を呼んで勉強したけど一向に答えは出なかった。
それでも知恵はつくもので、母親が不貞を働いて出来たのが私なのかとか、実はこの家族とは一切血が繋がっていなくてたまたま両親が引き取ったのだとかそういった想像を膨らませていた。
私としては、産みの親と理由があって離れ離れになってしまった説を推してたわ。その方が何か辛いことがあった時に、「本当のお父さんとお母さんが助けてくれる・・・」って自分を慰めることが出来たから。
結論を言うと、そんな人達は私の前に現れなかったわけだけど。
家族が寝静まってから、私はお風呂に入ることを覚えた。これは何時だったか忘れたけど小学校高学年の時くらいね。ついでに育ち盛りでもあったから、冷蔵庫からバレない程度に食べ物も拝借していた。
人間、どんな環境でも生きてりゃしぶとくなるもんなのよ。
皆私を見習ったらいいわ、冗談だけどね。
というわけで、夜中ごそごそしてから漸く就寝して通学しての繰り返しの毎日を送っていたの。
それが私、高梨 和希のしょうもない日常だった。
箸休めに書いたので、続きは未定。
基本どう考えてもギャグゥでいくよ。