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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
五章 悪竜
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第九十七話


「く、ううう…! ふ、ううう…!」


リンデはエーファの手を握り締めながら、何やら唸っていた。


瞼を閉じ、額に汗を浮かべるリンデは真剣そのものだ。


「…何か変わったか?」


「いや、特には」


レギンの声にエーファは困ったように頬を掻く。


「はー…」


遂に力尽きたのか、リンデは脱力して座り込む。


心配して駆け寄るエーファを余所に、レギンは胡乱気な視線をヴィーヴルへ向けた。


「本当にこんな方法で強くなれるのか?」


「可能性は、ある」


自信があるのか無いのか読めない顔で、ヴィーヴルは淡々と言う。


この珍妙な行動は、ヴィーヴルの提案で始めたことだった。


『ラインの乙女』にはドラゴンスレイヤーを生み出す力がある。


人間に魔力を与え、竜と戦う力を授ける能力だが、それを既にドラゴンスレイヤーである人間に与えたらどうなるか。


その無尽の魔力の恩恵を受けて、今以上に強大な魔力を操れるようになるのでないか。


そんな推測から始めたこの実験だ。


「『魔力流出』は出来るのに、どうして魔力を送ることが出来ねえんだ?」


「…魔力流出は、蓋を外すだけで良いから楽なんです」


「蓋?」


首を傾げたフライハイトに、リンデは木の枝を拾って地面に何かを描いていく。


「例えば、私の魔力がたっぷりミルクが入った瓶だとすると、この蓋を外して中身を地面に捨てることが『魔力流出』」


ガリガリ、と簡単な絵を描いて説明するリンデ。


地面には蓋が開いて中身が零れているミルク瓶が描かれている。


「魔力を誰かに与えるのは、コレをコップに注ぐような感覚なんです」


ミルク瓶の横に小さなコップが描かれた。


瓶から零れるミルクは、コップに触れてもいない。


要するに、魔力を適当にぶちまけるのは簡単だが、特定の場所に注ぐのは難しいと言う話だろう。


「レギンの時は、上手くいったのですが…」


リンデはティアマトと戦った時のことを思い出す。


槍だけになったレギンに対し、リンデは手で触れることで魔力を注いだ。


あの時と同じ感覚で行ったのだが、エーファには上手く魔力が通らない。


「そもそも他者から魔力を吸収して生きるドラゴンと、自前の魔力のみで生きる人間とでは色々と違うのかもね」


「竜血を浴びた人間が、誰でもドラゴンスレイヤーになれる訳じゃねえ。それと同じか」


ラインの乙女の影響で魔力を与えられた人間も居るのだろうが、それでも人間である限り才能と言う物はあるのだろう。


リンデの例えで言うなら、瓶の深さだ。


どれだけ魔力を溜め込むことが出来るか。


ドラゴンスレイヤーとしての『器』


それが関係しているのかもしれない。


「それでも、保有する魔力が増えるのは、一番手っ取り早く強くなれる方法だ」


「それは、そうだけど」


戦法や戦略次第で魔力の有無は覆すことは出来るが、短時間で身に着く物では無い。


レギン達の敵はザッハークだ。


ザッハークは同じ六天竜であるレギンやヴィーヴルを狙っている。


そう遠くない内に、再び戦うであろうことを考えると、時間を掛けている余裕は無い。


「だったら、レギンに魔力を送ってみますか?」


ポン、と手を打ってリンデは名案とばかりに呟く。


反対に、視線を向けられたレギンは渋い顔を浮かべた。


「あまり、過度に魔力を取り込みたくはないな」


「どうしてだ?」


「…人型を保てなくなる」


レギンは己の手を見つめてそう呟いた。


リンデの魔力を与えられれば、幾らでも魔力を強化できるだろう。


だが、そうすればいずれレギンは己の魔力を抑えきれなくなる。


「ッ」


レギンが恐れていることに気付いたエーファは顔を歪めた。


以前、エーファが語っていたことだ。


レギンは竜化する度に、理性が失われていく。


心が凶暴な竜へと戻ってしまう、と。


膨大な魔力を得た状態で竜化すれば、どうなるか分からない。


最悪、ザッハークと戦う前にレギンが敵に回る可能性すらある。


「じゃあ、他にドラゴンと言えば…」


「………」


「…?」


思わず全員がヴィーヴルの顔を見つめる。


注目を浴びたヴィーヴルは不思議そうに首を傾げた。


「お前が魔力を得てパワーアップするって話だよ」


「…えー」


表情は変わらないまま、露骨に嫌そうな声を出すヴィーヴル。


「何だ、えーって」


「…私にとって、魔力を得るってことは、食事と同じ、なの」


ポツポツとヴィーヴルは呟く。


「…それで?」


「…いくら体に良いからって、口を通さずに、直接栄養を注入するなんて、どうかと思う」


不満そうにヴィーヴルは息を吐いた。


要は、魔力を注入される感覚が気持ち悪いだけだった。


「よし、俺が許可する。やっちまえ、リンデ」


「オーボーだー」


「えっと、良いんですかね?」


フライハイトに言われてリンデはヴィーヴルの手を掴んだ。


ヴィーヴルは嫌そうな声を上げたが、抵抗するのも面倒なのかされるがままだ。


やや戸惑いながら、リンデは魔力をヴィーヴルへと送り込む。


瞬間、ヴィーヴルの体が光った。


「…は?」


「え…?」


突然のことに固まるレギン達。


光に包まれたのは一瞬であり、思わずリンデが手を離すとすぐに収まった。


「………」


しかし、光の中から現れたヴィーヴルの姿は変わっていた。


元々ヴィーヴルはリンデとそう変わらない年頃に見える少女だったが、明らかに変化している。


年齢は二十歳くらいだろうか。


幼い姿のヴィーヴルがそのまま成長したような顔立ちの女だった。


額に埋め込まれたダイヤ。


身に着けた服はそのまま。


誰もが振り返るような美女だが、人間とは決定的に違う部分が一つある。


それは下半身。


宝石のように完璧な女性の胴から下が、ダイヤの鱗に覆われた異形へと変わっている。


足は無く、竜と言うよりは蛇に近い胴体だが、背にはコウモリのような羽根も生えていた。


「…わお」


自分の姿を見下ろし、ヴィーヴルは薄い反応をした。


本人は驚いているのかもしれないが、いつも通りの無表情だ。


「お、お前、それが本当の姿なのか?」


「そう、みたい?」


「何で疑問形なんだよ」


「久しぶり過ぎて、忘れてた」


呑気な様子でヴィーヴルは答える。


きょろきょろと自身の体を珍しそうに眺めてから、フライハイトへ視線を向けた。


「でも、これなら私の力も少しは増す………かも」








「………」


同じ頃、ザッハークはある森の中に居た。


周囲には人間の残骸と、骨だけになった竜の亡骸がある。


他者を喰らうことで魔力を取り込むザッハークにとって、人も竜も関係ない。


何人でも何体でも、出会った者は全て喰らってきた。


「…不快だ」


思い出すのは、ヴィーヴルを狙った時のこと。


ザッハークの竜紋『フェアフルーヘン』で弱らせ、確実に殺せる筈だった。


六天竜であるヴィーヴルを喰らえば、今以上の力を得ることが出来ただろうに。


「………」


いや、そうではない。


ヴィーヴルを逃したことは確かに口惜しいが、それだけではない。


ザッハークは同じ六天竜を過小評価していない。


ヴィーヴルを取り逃がす可能性も十分にあると考えていた。


だが、


「あの人間…」


ザッハークは足下に散らばっていた竜の骨を踏み砕く。


たかが人間がヴィーヴルを庇い、結果的に取り逃がした。


竜血を浴びせることで弱体化させようとした狙いまで見抜かれた。


ヴィーヴルだけならまだしも、たかが人間がザッハークを出し抜いたのだ。


「ラインの乙女とファフニールを優先するつもりだったが…」


あの人間は先に殺す。


考え得る限り最悪の方法で処刑してやる。


ザッハークは誰よりも人間を見下している。


故に、自身に逆らう人間を絶対に認めない。


その心が折れるまで、甚振り続けると決めた。


「………」


ふと、ザッハークはあることを思い出した。


そう言えば、以前にもこんなことがあった。


非力な人間の分際で、ザッハークに逆らい続けた者。


どれだけ甚振っても、決して心が折れなかった忌々しい娘。


あれは確か、十五年前・・・・の…

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