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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
一章 竜殺し
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第八話


ワイバーンを倒した後、村人に別れを告げてリンデ達は村を後にした。


村人達は二度も村を救ってくれたリンデを引き留めようとしていたが、リンデは丁寧に断った。


思っていたよりも時間を食ってしまった為、先を急いでいたのだ。


「………」


やや早足で先を進むリンデに、レギンは無言で後に続く。


しかし、その視線は前方のリンデではなく、自身の手元に向いていた。


時折、パラパラと紙が揺れる音も聞こえる。


「…何か静かだと思ったら、それどうしたんですか?」


「ん?」


リンデに尋ねられ、レギンは読んでいた本を閉じた。


「さっきの村から貰って来た。どうも、俺は世情とやらに疎いようだからな」


そう言って再び読書を再開するレギン。


貰って来た、と言うが、黙って持ってきたのではないことをリンデは祈った。


(と言うか、それよりも…)


「…字が読めたのですか」


「馬鹿にするなよ。俺を誰だと思っている」


「ドラゴンだと思っているから、驚いているんですよ…」


聞く所によると、人間の頭には幾つもの部屋があり、記憶とは種類によって別々に保管されているらしい。


なので、例え親しい者達の記憶を全て無くしても、それ以外のことは覚えていることもある。


コレも多分、そのケースなのだろう。


(まあ、人間の言葉を話すドラゴンが居るのですから、人間の文字が読めるドラゴンが居てもそんなに不思議では無いのかも)


そう考えると、然程驚くことでは無い気がしてきた。


村や町に入る度に一つ一つ教える必要が無くなったと考えれば、むしろ良かった。


「む。ドラゴンスレイヤー」


「何か言いました?」


「いや、今読んでいる本にドラゴンスレイヤーが出てきた」


言われて見ると、開いている本の挿絵には竜を倒す騎士が描かれていた。


(ドラゴンが、ドラゴン退治の本を読んで面白いの?)


思わず顔を引き攣らせるリンデとは裏腹に、レギンは興味深そうに続きを読み進めている。


現実とフィクションは区別するタイプのようだ。


「そう言えば、お前もドラゴンスレイヤーと呼ばれていたな。それは何者だ?」


「読んで字の如く、ですよ」


竜を滅ぼす者(ドラゴンスレイヤー)


それは物語としてはポピュラーな題材であり、リンデも何冊か竜退治の本を読んだことがある。


故郷を滅ぼされた青年が冒険の果てに、邪竜を倒す物語。


人々を苦しめていた悪竜を滅ぼし、その財宝を手に入れた男の物語。


しかし、現実に存在するドラゴンスレイヤーは少しだけ意味が違う。


「ワームやワイバーン程度なら私のような騎士でも何とかなるかも知れませんが、百年を超える成体のドラゴンには普通の人間では歯が立ちません」


「まあ、そうだな」


パラパラと本を捲りながらレギンは頷く。


この本には、平凡な田舎で暮らす少年が剣を取り、最終的に邪竜を打ち倒す物語が書かれているが、現実はそこまで甘くない。


どこにでもいる田舎者がどれだけ努力した所で、ドラゴンには勝てない。


努力や勇気では覆せない格差と言う物がこの世にはある。


「人間の中で稀に生まれる魔力を多く身に宿した者。そんな素質を秘めた人達が『滅竜術』を習得し、ドラゴン退治の偉業を成した者」


まるで物語の主人公のように、人を超えた怪物を倒した存在。


魔力の化身であるドラゴンを殺し、その血を浴びた存在。


「そんな英雄を、この国ではドラゴンスレイヤーと呼ぶんです」


それは称号であり、同時に役職でもある。


ドラゴンスレイヤーに認定された者は、王都に住まう国王に直々に仕え、この国全ての人々をドラゴンの脅威から護り抜く役割を与えられるのだ。


「私は、その見習いみたいなものです」


「滅竜術を使っていたようだが?」


「ですが、私はまだドラゴンを退治できていません。成体のドラゴンを自身の力で倒し、その返り血を浴びるまではどんな人間であれ、ドラゴンスレイヤーとは認められないんです」


「通過儀礼、と言うやつか」


「竜の血には魔力が多く含まれていますから、それを浴びると言うことは自身の魔力を強化することにも繋がるんです」


「…なるほど」


実力の証明と実益を兼ねていると言うことだろう。


意外と考えられている通過儀礼だ。


(ん?)


「おい、竜血を浴びるのがドラゴンスレイヤーと認定される条件なのだったな?」


「ええ、そうですよ。竜血を浴びるってことは、ドラゴンを倒したことの証明ですから」


そう繰り返すリンデは気付いていないようだ。


レギンは眉を動かしながら、リンデの顔を見つめる。


「俺、お前に血を浴びせたが?」


「………………へ?」


ぽかん、とリンデは口を開ける。


言われてみれば、その通りだ。


最初に戦った後、リンデはレギンの血を浴びている。


まあ、倒して返り血を浴びたのではなく、死にかけのリンデにレギンが自ら血を与えたのだが。


「その場合はどうなるんだ?」


「…ど、どうなるのでしょう?」


「俺に聞かれても困る」


レギンにコテンパンにされたので、実力の証明には当然ならない。


だが、リンデは竜血を浴びた。


それにより、リンデの魔力は何らかの影響を受けている筈である。


「うーん。この場合、どうすればいいのかな? 王都で聞いておけば良かった…」


長い歴史を誇るドラゴンスレイヤー達も、流石に献血に応じてくれるドラゴンが居るとは想定していなかっただろう。


うんうん、と唸るリンデを見て、レギンは大きくため息をつく。


(ドラゴンスレイヤー、か)


圧勝したとは言え、リンデはレギンに手傷を負わせる程度には実力があった。


その彼女が見習いとしか認められないドラゴンスレイヤー。


もし、それが目の前に現れたらレギンは勝つことが出来るだろうか。


(まあ、その時はその時だ)


少なくとも記憶を取り戻すまでは死ぬ気は無い。


レギンはそう心の中で宣言した。

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