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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
四章 追憶
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第七十九話


「ご主人様、喉乾いてない?」


「………」


「それとも、お腹空いた? 何か買って、来ようか?」


宿のベッドで横になるフライハイトは甲斐甲斐しく世話を焼く少女を無言で睨んでいた。


苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべ、深いため息をつく。


「包帯、きつくない? 緩めよう、か?」


「………」


言いながらフライハイトの腹に巻かれた包帯に触れようとするが、フライハイトはそれを振り払った。


手を叩かれたヴィーヴルは少しだけ眉を吊り上げる。


「ご主人様、冷たい。包帯巻いてあげたのに、まだ心を開いてくれない、みたい」


「開くわけねえだろ!? そもそもお前に負わされた傷だ!」


「…?」


「何でそこで首を傾げるんだよ!? 俺なんか間違っているか!?」


怒りと困惑を浮かべてフライハイトは叫ぶが、ヴィーヴルには届かなかった。


ドラゴンであることを考慮しても、この少女は頭がおかしい。


フライハイトは心の中でそう判断した。


「ご主人様…」


「ご主人様はやめろ」


「じゃあ………お兄ちゃん?」


「やめろ」


真顔でフライハイトは言った。


そんな呼ばれ方をされたら、どんな噂が広まるか分かったものではない。


大体見た目こそ十五、六歳に見えるヴィーヴルだが実年齢は千を超える。


自分の祖母よりも年上の相手を妹扱いする趣味は無い。


「フライハイトだ。フライハイトと呼べ」


慣れ合うつもりは毛頭ないが、名前くらいは教えていても構わないだろう。


そう考え、フライハイトは自身の名を告げた。


「じゃあ、フライハイト君」


(…君?)


「あなたはもう、私の主様。私の力で幸福になれる代わりに、これから定期的に私へ宝石を献上しないと、いけない」


そう言いながらヴィーヴルはゴソゴソと懐を漁る。


「…こんな感じの魔力を含んだ宝石が、良い。見た目も綺麗な物が良いけど、最悪、魔力を多く含んでいれば………それでいい」


手にした宝石をヴィーヴルはフライハイトに見せた。


それは魔石と呼ばれる鉱物だった。


「ドラゴンに飼われるなんて御免だ。傷さえ癒えればすぐに逃げ出してやる」


「無理。もう契約は、成立した。私から離れたら、フライハイト君は不幸に、なる」


「…現在進行形で不幸なんだがな」


「それは私の力では、どうにも、ならない」


そう言うと、ヴィーヴルは手にしていた宝石を口に放り込んだ。


まるで飴玉のように口の中を転がし、ゴリゴリと音を立てて咀嚼する。


「どんな歯をしてんだよ」


宝石を噛み砕く少女など、悪夢でしかない。


目の前の少女が怪物ドラゴンであることを改めて理解した。


「…俺が言うのも何だが、人間を喰ったりはしねえのか?」


「一言で言うなら………偏食」


ぽつり、とヴィーヴルは告げた。


単純な趣味趣向の問題だと。


別に人間に対して情が湧いた訳では無い。


千年以上生きるヴィーヴルにとって、人間は命短い羽虫のような物。


殺すことに躊躇いは無く、かと言って積極的に殺そうとも思わない。


好きにも嫌いにもなれないが、生きる為に必要な存在。


それがヴィーヴルにとっての人間と言う種だ。


「ハッ、ドラゴンが財宝を好むなんて言い伝えは、竜退治に夢見ている馬鹿の妄想だと思っていたがな」


まさか本当に財宝を好むドラゴンがいるとは。


人間を喰らうと言うドラゴンの本能すらも忘れるくらい熱中する程に。


「…お前以外の六天竜にもそんな変わり者がいるのか?」


「居ない、と思う」


「何だ、随分と自信なさげだな?」


「もう何百年も、会ってないから」


ヴィーヴルの言葉にフライハイトはそんな物か、と頷いた。


歴史を紐解いても、六天竜が共同で事件を引き起こしたと言う話は聞いたことが無い。


一体一体が災害級の怪物揃いだが、それ故に互いに深く干渉することを嫌っているのだろう。


ヴィーヴルのようにそもそも他の六天竜に興味が無いのかも知れない。


「………」


そこまで聞いてからフライハイトは一つ思った。


コレはチャンスなのでは無いか、と。


まだまだ情報が少ない六天竜に関する情報を得る絶好の機会だ。


六天竜同士に仲間意識は薄く、同胞の情報を売ることに躊躇いは無いだろう。


「ヴィーヴル」


「…何?」


「お前が知る中で、最も危険なドラゴンは誰だ?」


「危険?」


言われてヴィーヴルは考え込むように頭を捻る。


「六天竜で一番強いのは、ファフニール、だけど…」


そのファフニールは少し様子がおかしかった。


危険かどうかで言えば、無害だろう。


「ティアマト、かな…?」


「ティアマト…」


その名前はドラゴンスレイヤーであるフライハイトも知っていた。


千年以上前から存在が確認されている古いドラゴンの一体。


目撃情報は王国中に存在するが、交戦記録は残っていない。


何故ならティアマトと交戦した者は、一人として生き残っていないからだ。


「六天竜の中でも千年以上生きているのは、ファフニールとティアマト、それに私くらい、だから」


「………」


「…私は人間を全然食べないから、二人に比べたら、魔力はずっと少ない、けど」


逆に言えば、ファフニールとティアマトはヴィーヴルを超える魔力を持っていると言うことだ。


本調子で無かったとは言え、フライハイトを一撃で倒したヴィーヴルよりも。


「…どんな怪物だ。そいつは」

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