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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
四章 追憶
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第七十六話


鉱山街『シュトルツ』


先日レギン達が訪れた際には霧に包まれていた街だが、現在はその霧も晴れている。


石に変えられていた人々も元に戻り、街は本来の形を取り戻していた。


「………」


そんな街を歩く人影があった。


騎士風の赤い鎧と、地面に引き摺る程に長い赤のマントを羽織っている男。


フライハイトだった。


「たっく、わざわざこんな所まで一人で来る羽目になるとはな…」


街並みを眺め、フライハイトは不機嫌そうに呟いた。


フライハイトが王都を離れ、シュトルツを訪れた理由は一つ。


新たな魔剣を手に入れる為だ。


本来なら王都に居る専門の鍛冶屋に作らせる所だが、都合の悪いことに今の王都では魔剣の材料となる『魔石』が不足しているらしい。


鉱山街であるシュトルツがドラゴンに占拠されたことが原因だったが、その問題は既に解決された。


いい加減王都で暇を持て余すのも限界が来ていたフライハイトは居ても立っても居られず、魔石を求めて自らシュトルツを訪れたのだった。


「…まあいい。気分転換にはなった」


腰に下げた剣の柄に触れながら、フライハイトは息を吐く。


ちなみにこの剣は魔剣では無く、王都で入手した普通の剣だ。


竜退治をする訳では無いが、一応の護身用として王都を出る時に購入した。


一般人からすればそれなりに値が張る代物だが、フライハイトは使い捨て目的で持ち歩いている。


既に実家とは縁を切っている身だが、ドラゴンスレイヤーとしての収入故にフライハイトの金銭感覚はややおかしくなっている。


「…あん?」


ふとフライハイトは首を傾げた。


シュトルツで採掘された様々な鉱石を売る店が並ぶ中、物陰に隠れるように怪しげな男が立っていた。


「どうです? 綺麗でしょう? 全て、魔石を加工して作られた宝石ですよ」


宝石商と思われる男は、客である少女にケースの中身を見せる。


「…安い」


「そうなんですよ。ウチは安く仕入れる伝手がありまして。特別に余所よりも安くご提供できるんです」


値段を見て思わず呟いた少女の言葉に、男は気を良くして答える。


確かに、宝石に付けられた値札は他の店の半額以下だった。


宝石の光に目を奪われたかのように、少女は金貨を入れた袋を取り出そうとする。


「偽物だろう?」


それに待ったをかけるように、フライハイトは割って入った。


「に、偽物? 私の商品がですか?」


「惚けても無駄だ。見れば分かる」


言いながらフライハイトはケースの中に入った宝石を一つ取る。


「あ、ちょっ…」


「ふんっ!」


フライハイトが握り締めると、それは簡単に砕け散った。


本物の魔石がこれほど脆い筈がない。


コレは外見だけ似せた贋作だ。


「魔石は宝石のような美しさから好む貴族も多い。だからたまに出るんだ、お前みたいな贋作売りが」


幼少期に学ばされた知識が活かされるとは思わなかった。


あまり思い出したくない記憶ばかりだが、たまには役に立つようだ。


「…早く逃げた方が良いんじゃないか? この街の人間は仕事に誇りを持っている職人ばかりだ」


じろり、とフライハイトは贋作売りの男を見る。


「捕まれば、きっと命はないと思うぞ」


「ひっ…!」


短く悲鳴を上げると、贋作売りの男は慌ててその場から逃げ出した。


それを見てからフライハイトは深いため息をつく。


「危ない所だったな、嬢ちゃん」


「………」


「コレに懲りたら、今度からは親と一緒に買いに来るんだぜ?」


「………」


(…随分と無口な奴だな)


礼の言葉どころか、反応すらしない少女の様子にフライハイトは訝し気な顔をする。


人見知りしているのかと思えば、そう言う訳でもなさそうだ。


踊り子のような露出度の高い格好をした少女は、感情と言う物が一切感じられない顔をフライハイトへ向けている。


「まあいいや。それじゃ、次は気を付けろよ」


そう言ってフライハイトはその場から立ち去った。








「…思ったより高くついたな」


その後、目的の魔石を手に入れたフライハイトは思わず呟く。


何でも、以前街を占拠したドラゴンが鉱山を荒らしていたらしく、取れる量が激減しているようだ。


それ故に魔石の値段が高騰し、通常の数倍の値段となっていた。


とは言え、フライハイトにとってはそれでも手が出せない程の値段では無かった。


予想以上の出費に気が滅入るが、取り敢えず魔剣五本分の魔石は揃った。


あとはコレを持ち帰って王都で魔剣を打たせるだけだ。


「…そこの、あなた」


「?」


声をかけられ、フライハイトは振り返る。


「私にそれを、渡して」


「何だ? 物乞いか?」


フライハイトは少し驚いたように呟き、少女の顔を見た。


「さっきの嬢ちゃんじゃねえか。望みの宝石が買えなかったのか?」


「…む。目利きの人、だった」


言われて少女も相手に気付いたのか、少しだけ申し訳なさそうに肩を下げた。


「あなたを襲うのは心苦しいけど、背に腹は、かえられない…と言うかお腹と背中がくっつきそう…」


くきゅるる、と少女の腹から音が聞こえる。


どうやら腹を空かせているようだ。


「何だ、腹減っているのか?」


「…減ってる。死にそう」


「はぁ、仕方ねえな。飯くらいなら俺が奢ってやるよ」


「本当に?」


表情の無い顔に僅かに期待が浮かんだ。


「じゃあ、あなたの持っている宝石が………食べたい」


「…何だって?」


聞き間違いか、とフライハイトは耳を疑う。


幾ら宝石が好きだからと言って、それを食べるなんて聞いたことが無い。


「…駄目?」


「いや、腹壊すぞ」


「…やはり戦うしか、ない」


グッと小さく拳を握る少女。


可愛らしい仕草に反して、その身から膨大な魔力が放たれた。


「ッ! この気配…! お前、ドラゴンか!」


「私、ヴィーヴル。六天竜」


名乗りながらヴィーヴルはフライハイトに迫る。


靴も履いていない足でペタペタと歩き、構えも何も無く近付いてくる。


(六天竜だと…! 何で、こんな所に…!)


混乱しながらもフライハイトは腰の剣を抜く。


「滅竜術『紅剣脈動フルンティング』」


最も得意とする滅竜術を発動させるフライハイト。


魔剣では無い為、効果は半減だがそれでもドラゴンを斬れる程度までは強化出来る。


(先手必勝…!)


隙だらけで懐に入ってきたヴィーヴル目掛けてフライハイトは剣を振り下ろす。


油断していたのか、ヴィーヴルはそれを躱せず、刃はその頭部を捉える。


瞬間、軽い音を立てて剣は砕けた。


「…は?」


フライハイトは目を疑う。


ヴィーヴルが何か反撃した訳では無い。


ただ単純に、ヴィーヴルの体が硬すぎて剣の方が破壊されただけだ。


人間体であっても身体を見えない膜となって包んでいる竜の鱗。


ヴィーヴルのそれは、六天竜の中でも上位の位置する。


「えい」


気の抜けるような掛け声と共に、ヴィーヴルの小さな拳がフライハイトの腹部に触れる。


「ぐ、ぶ…!」


途端、フライハイトの体がくの字に曲がり、崩れ落ちた。


ボキボキと骨が折れる音が体から聞こえる。


(何、だ…?)


痛みより先に疑問が浮かぶ。


衝撃は殆ど無かった。


ヴィーヴルの拳は、見た目通りの威力しか無かった筈だ。


それなのに、まるで小枝をへし折る様にフライハイトの骨を砕いた。


「勝った」


仰向けに倒れたフライハイトの上に乗りながら、ヴィーヴルは勝利宣言をする。


「それじゃあ、勝者の権利を、行使して、あなたの宝石を…」


そこまで言ってからヴィーヴルは言葉を止めた。


何か考え込むように口元に手を当てる。


(この人、宝石の目利きが出来る。とても便利)


じろじろと値踏みするようにフライハイトの顔を見るヴィーヴル。


(最近宝石が高くなって、買えない。でも、この人は多分お金持ち。元々運が高い人には、私の能力も強い効果が働く)


ヴィーヴルの顔が段々とフライハイトへ近付いていく。


(この人、実は優良物件では?)


ポン、とヴィーヴルは両手を鳴らした。


何やら考えが纏まったように、フライハイトの体から下りる。


「勝者の権利を、行使して、あなたを、貰う…」


「………今、何て言った?」


「今日からあなたは、私のご主人様。拒否権は、無い」


宣言するようにヴィーヴルはそう告げた。

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