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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
四章 追憶
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第七十二話


「………」


リンデが出ていった後、グンテルは一人机に座って書類に目を通していた。


研究所で作られた様々な薬について書かれた資料を読みつつ、視線をドアへ向ける。


「…盗み聞きは感心しないな」


「気付いていましたか…」


諦めたように言いながら、ハーゼは部屋へ入ってきた。


「私は戦士では無いが、人の気配には敏感でな。最初から気付いていた」


読んでいた資料を机に捨て、グンテルは言った。


盗み聞きされているのを理解しながら、グンテルはリンデにあんな話をしていたのか。


ハーゼは思わず、グンテルの顔を見つめた。


「あなたは、リンデの父親なのですか?」


「…ふっ」


ハーゼの問いにグンテルは意味深な笑みを浮かべる。


グンテルのこんな表情を見るのは初めてだった。


普段は不機嫌そうな表情を浮かべ、誰に対しても攻撃的なグンテル。


今のグンテルからはそんな雰囲気を一切感じない。


あの態度は、周囲を欺く為の演技だったのだろうか。


「私にあんな大きな子供がいるように見えるか? 私はこう見えても、二十九歳だぞ?」


険しい表情ばかり浮かべている為に老けて見られることが多いが、グンテルはジークフリートと同い年だ。


絶対に無い、とは言い切れないがリンデほどの子供がいるような年齢では無い。


「大体、私の娘と言うのなら相手は誰だ?」


「それは…」


グンテルの言葉にハーゼは考え込む。


リンデとグンテルの顔はあまり似ていない。


だとすれば、リンデは母親似と言うことになる。


リンデに似ている女と言えば…


「まさかとは思うが、私が実の妹に子を産ませたとでも考えているのか?」


「い、いえ、そこまでは…」


「言っておくが、リンデは妹の子でも無い」


断言するようにグンテルは告げた。


「我が妹、クリームヒルトは私より二つ歳下だった。十三年前の時点で十四歳。物理的に有り得ん」


リンデの年齢から考えて、クリームヒルトが十二歳の時に生まれた子供と言うことになる。


それは流石に有り得ない話だろう。


「では、あの子は一体…?」


「…知りたいか?」


グンテルの鷹のように鋭い目がハーゼの目を射抜く。


その視線を見て、ハーゼは好奇心で尋ねたことを後悔した。


「丁度いい。貴様には幾つか仕事を頼みたいと思っていたところだ」


「…仕事?」


「ああ、貴様にしか出来ないことだ」


グンテルは机の引き出しを漁り、一枚の紙を取り出す。


「貴様は既にドラゴンスレイヤーを追放された身だ。私の部下となっても問題はあるまい」


そう言ってグンテルは取り出した紙をハーゼに渡した。


無言でそれを流し読みしていたハーゼの顔が、段々と険しい物に変わっていく。


「…一体何の為に、こんな物を…?」


「私には、どうしても殺さなければならない者がいる」


強い決意と殺意を浮かべてグンテルは言った。


「全てはその為だ………五年前からな」








「………」


同じ頃、エーファは自室でのんびりしていた。


レギン達が任務へ向かっている間、エーファも同じように幾つかの任務を果たしていた。


複数の竜を討伐し、数日ぶりに王都に帰還した為に久々の休養を取っていた。


ちなみにエーファは他のドラゴンスレイヤー同様に、専用の宿舎で生活している。


度々任務で留守にすることが多いとは言え、二年以上住んでいる我が家なので私物はそれなりに多い。


と言うより、やや散らかっている。


傍から見れば完璧な人間に見えて、割と大雑把な所があるエーファの性格を表しているのか、部屋は乱雑としていた。


王都に数多く居るエーファのファンに見せたら、ショックで寝込みかねない光景だった。


「…?」


その時、ドアをノックする音が聞こえた。


来客の予定の無いエーファは首を傾げる。


何か荷物でも届いたのか、と部屋着のままドアを開けた。


「よう。久しぶりだな」


「………」


ドアを開けた先に居たのは、レギンだった。


「お前って修道服以外の服も持っていたんだな? と言うか、少しは部屋を片付けたらどうだ?」


思わず固まったエーファはゆっくりと視線を自分の着ている物に向け、それから部屋の中に目を向ける。


みるみるうちにエーファの顔が赤く染まっていく。


「い、今見たことは全部忘れろー!?」


バタン、と勢いよくドアが閉められた。








「…お願いだから誰にも言わないで。特にリンデには」


いつもの修道服に着替えたエーファは涙目で懇願した。


自分に憧れの目を向けてくれるあの子の信頼は裏切りたくない。


あの純粋無垢な少女に呆れた目でも向けられたら、きっとエーファは死ぬ。


「別に人の恥を言い触らす趣味は無いが」


「…それで、何の用なの?」


レギンの頭から先程のことを忘れさせようと、エーファは本題に入った。


わざわざレギンが自分の家を調べて訪ねてきたのだ。


リンデに関係ない個人的な話があるのだろう。


「前に十三年前に亡くなった王女の話をしていただろう?」


「ああ、グンテル曰くリンデに似ているって言う」


「そうだ。その王女の顔を知る方法は何か無いだろうか」


「王女の顔…?」


「肖像画でも似顔絵でも何でも良いのだが、残っていないか?」


レギンの質問にエーファは難しい顔で唸った。


「うーん。生憎だけど、残っていないと思うわ」


「やはり、か」


レギンはそれを予想していたように頷いた。


前にエーファが顔も名前も知らされていないと言ったことから、薄々予感はしていた。


「どうしてそんなことを?」


「…俺は、その王女に会ったことがあるかも知れない」


その言葉にエーファは驚愕に目を見開く。


「え? 記憶が戻ったの?」


「一部だけな。俺が見たのは、リンデによく似た女が苦しむ姿」


フェルスとの戦いの中で、レギンは失った記憶を見た。


呪いに苦しむリンデによく似た誰か。


アレは、王女だったのではないか。


記憶を失う前のレギンは、王女に出会ったことがあるのではないか。


もし、その王女の顔を知ることが出来れば何か別の記憶が蘇るかも知れない、と思ったのだ。


「王女の、記憶…」


噛み締めるように呟きながら、エーファは嫌な予感を覚えた。


エーファの言った通り、王女は一生を王城の中で過ごした。


一度として大衆の前に姿を見せることは無く、国王は徹底してその存在を隠していた。


そんな存在に、出会う方法などあるのだろうか。


「………」


思い付くのは一つだけ。


十三年前、王都に襲来して王女を連れ去った邪竜。


王女が呪いに苦しむ様を見たと言うレギンの記憶は、レギンがその邪竜であることの証明では無いか。


「…おい」


思考に耽るエーファの耳に、レギンの低い声が聞こえた。


「今、何か…」


レギンが何か言いかけた時、王都の空が深い霧に包まれた。


日光すら遮る濃霧。


レギンはそれに見覚えがあった。


「この霧は…! リンデ!」


背から翼を生やし、地面を蹴るレギン。


フェルスは倒した筈だが、別の竜の気配を感じた。


そしてそれは、遠くに感じるリンデの気配の傍だった。


「あ、ちょっと! 私も行くわよ!」


エーファは慌てて声を上げる。


手持ちの武器を瞬時に確認してから、レギンを追いかけたのだった。

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