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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
四章 追憶
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第七十話


「なあ、ファウスト…」


王都へと戻ったレギン達はファウストに案内され、ある場所に来ていた。


鮮やかな王都の街並みにそぐわない白一色の殺風景な建物。


それは『竜血研究所』


竜血、ひいてはドラゴンの生態について研究している研究機関だった。


「…本当に、ここで合っているのか?」


思わず疑問を口にするレギン。


レギンは、リンデの身体検査をする為にファウストに連れて来られた。


てっきり病院にでも案内されると思っていたレギンは訝し気な顔を浮かべる。


「ああ、そうだ。普通の怪我や病気ならともかく、竜の呪いを治せる医者は居ない」


ファウストは扉を開け、中に入りながら言う。


「それで、ここに?」


リンデは中をきょろきょろと見渡し、そう呟く。


清潔な雰囲気の建物内には、白衣を着た者達が大勢いる。


中には手足に怪我を負った者が何人か居り、診察を受けていた。


彼らも普通の医者では治せない怪我を負ってここに来たのだ。


「研究所では竜血を使った薬の開発も行っているからな。大抵の傷はすぐに治る」


慣れたように先を歩くファウスト。


ファウスト自身も何度か世話になったことがあるのだろう。


ここに勤める研究員達も、軽く頭を下げている。


「…まだ体の麻痺は治らないか?」


「え、ええ。少し痺れている程度ですが」


レギンの言葉にリンデは小さく頷いた。


石化は完全に治ったリンデだったが、その後遺症か体に麻痺を感じていた。


歩けなくなる程では無いが、手足を動かすのに違和感があり、僅かに痺れを感じる。


「………」


ここにその異常を治す薬があれば良いが、とレギンは一人思った。


「…あ」


思考に耽るレギンの隣で、ふとリンデが声を上げた。


思わずレギンは足を止め、視線の先を見る。


「げ」


レギンと目が合った瞬間、嫌そうな声を上げたのは雪のように白い肌と片目を隠す前髪が印象的な女。


その見覚えのある顔に、レギンは眉を吊り上げる。


「お前はいつぞやの整形女」


「だ、誰が整形女ですか!? 火傷は隠していても、この顔は自前だ!」


憤慨したようにそう叫ぶのは、ハーゼだった。


つい先日、レギンに濡れ衣を着せようと暗躍し、結果的に逮捕されたドラゴンスレイヤー。


ジークフリート曰く数十年は自由になれない程の罪と言う話だったが。


「何でお前がここに?」


「減刑の為に絶賛社会奉仕中なんですよ。今の私はただの研究員。ドラゴンスレイヤーの地位も剥奪されましたしね」


ハッ、とハーゼは自嘲するように鼻を鳴らした。


「まあ、最初からあんな物に執着なんてなかったですけど? 弟子達は従順だったけどやたら干渉してきてうざかったですし? 一人の方が楽で良いです。ええ」


「もはや本性を隠す気ゼロだな」


「今更ですよ、今更。もう王都中の人間が私のやったことを知ってますし………それともー、レギンさんはこう言う感じの女の子が好みなんですかー? あははー♪」


猫被った笑みを浮かべてハーゼはわざとらしく言った。


流石に手慣れているようだ。


「で? 何しに来たんですか? 惨めな私を笑いに来た訳では無いのでしょう?」


「先日、ドラゴンの呪いを受けてな。治ったように見えるが、検査を頼む」


拗ねたように言うハーゼに、ファウストは簡潔に答えた。


「ああ、そう言うアレですか。じゃあ、取り敢えず採血しときますね」


「…注射は苦手だな」


ハーゼが取り出した物を見て、ファウストは小さく呟いた。


「おや? 恐れなど知らない、みたいな顔をしているくせに子供みたいなことを」


それを聞き逃さず、ハーゼはニンマリと嫌な笑みを浮かべる。


無駄に恐怖を煽るように注射器を動かしている辺り、性格の悪さが出ていた。


出された腕を掴み、ハーゼは手にした注射器を刺す。


「…あれ?」


ふと首を傾げるハーゼ。


意気揚々と注射器を刺した筈なのに、ファウストの腕には一ミリも刺さっていなかった。


「ひ、皮膚が硬すぎて針が刺さらないんですけどー!」


「…これだから注射は苦手だ。上手く出来ない」


「苦手ってそう言う意味!? これだから脳筋は嫌いなんです!」


掴んでいたファウストの腕を荒っぽく離し、ハーゼはレギンへ目を向けた。


「次! あなたから先にやりますよ!」


「おい、俺は…」


何か言いたげなレギンの腕を掴み、ハーゼは注射器を突き刺す。


かつん、と軽い音を立てて針はレギンの皮膚に弾かれた。


「………」


「俺も魔力の鱗を纏っているから…って言おうとしたんだが」


「…ああー!? どいつもこいつもー!? みんなみんな嫌いです!」


注射器を床に叩き付け、ハーゼはヒステリックに叫んだ。








「…三人共、至って正常です」


錯乱から立ち直り、レギン達の検査を終えたハーゼはそう答えた。


「全くつまらない。どうせなら難病でも見つけて、脅かしてやろうかと思ったのに」


医者の真似事をしているとは思えない発言を平然とするハーゼ。


そんなハーゼの態度は余所に、リンデは不安そうな表情を浮かべた。


「本当に何の異常も? その、体に痺れが残っているのですが」


「多分、幻痛みたいな物ですね。肉体的には何の異常も無いから、きっと精神的な物。未だ自身の四肢が石化していると思い込んでいる、みたいな」


そう言ってハーゼは記録を取った紙束を眺める。


「明日になっても痺れが続くようならもう一度来て下さい。こっちも色々と調べておくので」


「わ、分かりました」


「それではお帰りはあちらで。お大事にー」


ハーゼはそう言って作り笑顔を浮かべた。


リンデはまだ不安そうだったが、レギン達に連れられて研究所から出ていった。


「………」


それを笑顔で見送った後、ハーゼは改めて紙束に目を落とす。


(何か、変な感じね)


ハーゼは心の中で呟く。


至って正常、と言った言葉に嘘はない。


しかし、リンデの検査結果を見て気になる所が無い訳ではない。


(内側も外側も健康そのもの。それは間違いないけれど…)


決して異常は無い。


異常は無いのだが…


(細胞が若すぎる(・・・・)。いっそ幼いと言って良い程に)


まるで赤子のような瑞々しい肌。


リンデの年齢からは考えられない程に。


それが何を意味しているのかは、ハーゼにも分からないが。


「何を見ている?」


「ッ!」


突然声をかけられ、ハーゼは思わず手にしていた紙束を落としてしまった。


「ぐ、グンテル様…」


銀の杖を突きながら現れたのは、この国の王子グンテルだった。


いつもと変わらない眉間に皺の刻まれた顔で、足下に落ちた紙束を見下ろしている。


何故王子であるグンテルがこの場に居るのかと言うと、彼がこの研究所の所長も勤めているからだ。


魔力の才能は無かったグンテルだが、研究者としての才能には恵まれ、それを見込んだ国王に竜血研究所を任せられている。


普段は研究所にも顔を出さないが、今日は違ったようだ。


「し、失礼しました」


紙束を拾うハーゼ。


人望があまり無いとは言え、相手は一国の王子だ。


不評を買っては堪らない、と慌てる。


「…あの娘のか」


「え? ええ、最近ドラゴンスレイヤーとなった娘の物です。何でも、任務中にドラゴンの呪いを受け、一時的に石化したとか」


「………」


「現在は治ったようなのですが、まだ痺れが残っていると。まあ精神的な物だと思いますけど、明日になっても治っていなかったら再検査しようかと」


「………」


「…あ、あの?」


ずっと無言で睨むように見つめるグンテルに、ハーゼは冷や汗を浮かべる。


何か怒らせるようなことを言っただろうか、と。


「…明日」


「へ?」


「明日、もし娘がここへ来たら………私の下へ連れて来い」


それだけ言うと、グンテルは杖を突きながら立ち去った。


呆気に取られたハーゼはぼんやりとそれを見ていることしか出来なかった。

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