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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
四章 追憶
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第六十四話


「コレは…」


日が傾き、段々と空が赤くなってきた頃、二人は『シュトルツ』に辿り着いた。


鉱山街と言われてきたが、レギンは街並みを把握することすら出来なかった。


『霧』だ。


霧が濃い、と言う程度の話では無い。


街を全て覆い尽くす霧は光すら遮り、完全にシュトルツを隔離している。


「中はどうなっているのでしょう? 町の人が無事だと良いのですが…」


「見た所、毒は無いみたいだが」


レギンは霧に手で触れながら呟く。


「…魔力を含んでいるな」


「では、やはり中にドラゴンが?」


「可能性は高い」


じろり、とレギンは霧の中を睨む。


レギンの眼は魔力を見通すことが出来るが、魔力を含む霧が邪魔して中の様子は分からなかった。


「中に入って引き摺り出すしかないか」


レギンは躊躇いなく霧の中へ進んでいく。


それを見てリンデは慌ててレギンの腕を掴んだ。


「待って下さい! この霧がドラゴンの術で生み出された物なら、迂闊に入るのは危険じゃないですか?」


「…一理あるな」


レギンは足を止め、思案するように口元に手を当てた。


ドラゴンが魔力を用いて放つ術は、独自性の高い能力になることが多い。


魔力の高さが優劣を決めるドラゴンの戦いに於いて、時にその法則を覆すような術も存在する。


リンドブルムとの戦いの時に彼の術に翻弄されたことを思い出し、レギンは警戒心を強めた。


「…霧に入らずに相手を誘き出せれば良いんだな?」


そう言うと、レギンは手元に黄金の槍を形成した。


「何をする気ですか?」


「コレを中に放り投げる」


「え」


キョトン、とした表情でリンデは固まる。


思考停止したリンデを余所に、レギンは槍の投擲体勢に入った。


「槍をぶち込めば、中の奴も慌てて出てくるだろう、よ!」


「ちょ、ちょっと待っ…!」


血相を変えたリンデが止めるが、少し遅かった。


レギンの手から黄金の槍が勢いよく投擲される。


「中に居る人に当たったらどうするんですかー!?」


「…あ、ヤベ」


言われてレギンも遅れて気付く。


中に居るのはドラゴンだけでは無い。


街ごと捕らわれた住人が居る筈なのだ。


レギンが投擲した槍など受ければ、運が良くても致命傷。


例え人に当たらずとも、家屋くらいなら吹き飛ばすかも知れない。


「!」


ガキィン、と黄金の槍が何かに衝突した音が聞こえた。


「どど、どうするんですか? 誰かに当たっちゃいましたか?」


ガタガタと震えながらリンデはレギンの腕を引っ張る。


レギンはそれを無視し、霧の中を睨んでいた。


「槍が、壊された」


「…え? どういう意味ですか?」


「…今、俺が投げた槍は霧の中で『何か』にぶつかり、粉々に破壊された」


槍から伝わる魔力を確かめながら、レギンは警戒した表情で言う。


全力では無かったとは言え、加減していた訳では無い一撃だ。


黄金の槍を容易く砕いた相手。


それは、この霧の中に潜んでいる。


「…出て来るぞ」


霧の中に影が浮かぶ。


影は今の一撃でこちらに気付いた様に、少しずつ近付いてきた。


「…何?」


「あ、あなたは…」


霧の中から現れた影の正体を見て、二人は訝し気な顔を浮かべた。


暗い緑色の道着のような服を纏う、スキンヘッドの偉丈夫。


静かに煮え滾る火山のような印象を受ける男。


「…何かと思えば、お前達か」


ファウスト。


『深緑』の異名を持つドラゴンスレイヤーだった。


「何でお前がここに居る?」


「お前達と同じ理由だ。ジークフリートから連絡を受け、ここに来た」


ファウストは淡々と告げた。


「中に入れないか、と霧の中を調べていたら…背後から不意打ちを受けたわけだ」


「ご、ごめんなさい…」


レギンの代わりにリンデはぺこりと頭を下げた。


まさか霧の中を探索していたファウストに命中するとは。


幸い怪我は無いようだが、リンデは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「この人も悪気は無かったんです。ちょっとうっかりしていたと言うか…」


「………」


これ以上レギンの評判が落ちては堪らない、とリンデは必死で弁解するがファウストは聞こえていないかのように無反応だった。


「…槍を投擲しても、中には届かんぞ」


気を取り直すように、ファウストは言った。


「少し調べただけだが、どうやらこの霧の中は空間が歪んでいるようだ」


「空間が?」


「どれだけ進んでも街に辿り着かない。一時間以上歩いても霧を抜けられないにも関わらず、出る時は一瞬だった」


当初は霧の中で方向感覚が狂っているのかと思ったが、何度も繰り返す内にそうではないと気付いた。


見えない壁に遮られている訳では無いが、まともな手段では霧を抜けることは出来ないようだ。


「俺はこう言う小難しい術を解くのは苦手でな。一度本部に判断を仰ごうと考えていた所だ」


「そうなのか」


「ああ………俺は向こうに居る。何か分かったら教えろ」


そう言うと、ファウストはレギンの横を通って去っていった。


「………」


レギンは不思議そうにその背中を見送る。


それに気付き、リンデはレギンの顔を見つめた。


「レギン? ファウストさんが何か?」


「…いや、アイツってドラゴンスレイヤーだよな?」


「そうですよ。王都でもそう言われたじゃないですか」


何を当たり前のことを、とリンデは首を傾げる。


言葉を交わしはしなかったが、ファウストとは王都で顔を合わせている。


その際に紹介された筈だ。


(あの時は狭い空間に他のドラゴンスレイヤーが居たから気付かなかったが…)


レギンはファウストが去っていった方を見つめる。


(アイツから殆ど魔力を感じなかった)


全く感じない訳では無い。


だが、明らかに少ない。


他のドラゴンスレイヤー達に劣るどころか、フライハイトが連れていた弟子にも下回る程だ。


(アイツ、本当にドラゴンスレイヤーなのか?)

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