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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
四章 追憶
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第六十三話


『六天竜のヴィーヴルに出会った、か』


「ああ、逃がしてしまったがな」


小石のような魔道具を耳に当てながら、レギンは答える。


エーファも持っていた通信機だ。


本部と連絡が取れるようドラゴンスレイヤーになった時に、リンデにも支給されていた。


『いや、構わないよ。倒せるに越したことは無いが、ヴィーヴルは比較的危険度の低い六天竜だ』


「屋敷が一つ焼かれたけどな」


『他の六天竜だったら、町ごと無くなっていたよ』


通信相手であるジークフリートの言葉は誇張でも、冗談でも無かった。


事実、ヴィーヴルとレギンが戦った場合、その余波で町は壊滅していただろう。


ヴィーヴルがもっと好戦的なドラゴンだったなら、きっとそうなっていた。


『君達はまだヘンドラに居るんだよね?』


「そうだ」


『丁度いい。そこから少し西へ行った所にある『シュトルツ』と言う町へ向かってくれないか?』


「シュトルツ?」


レギンの言葉に、隣で聞いていたリンデが地図を開く。


距離的にはそれほど離れていない。


今から向かえば、今日中には辿り着くことが出来るだろう。


『王国有数の鉱山街でね。魔剣の材料となる魔石が採れる鉱山があるんだ』


魔石。


魔力を含み、魔力を通し易い性質を持つ特殊な鉱物。


『知っての通り、魔石によって作られた武器を愛用するドラゴンスレイヤーは少なくない。だから王都は定期的にシュトルツから魔石を仕入れていたんだけど…』


「何か問題があったのですか?」


『実は今、シュトルツは誰も入ることが出来ない状態なんだ』


「誰も入ることが出来ない…?」


奇妙な言い回しにレギンは首を傾げる。


ジークフリートの意図が掴めず、リンデも訝し気な顔を浮かべた。


「それは、シュトルツの人達が町に入る者を拒んでいると言う意味ですか?」


『いや、違う。もっと物理的・・・な話だ』


ジークフリートは部下の報告から得た情報をそのまま口にする。


『町全体が霧に包まれ、入ることも出ることも出来ない状態になっているらしい』


「霧…」


霧によって視界が不明になることはあるかも知れないが、それは不可解だ。


気化した水に過ぎない霧が、物理的な壁になるなど有り得ない。


まず間違いなく、ドラゴンの仕業である。


『そう言う訳で、君達に調査を依頼する。異変を起こしている者を倒せるようなら、倒してくれても全く構わないよ』


「…了解だ」


断る理由も無い。


二つ返事でレギンは了承した。








同じ頃、異常な濃霧に包まれたシュトルツでは二つの影が暗躍していた。


ティアマトに命じられた二体のドラゴンだ。


「フェルス。首尾はどう?」


自身の術で町を霧で覆い尽くしたネーベルは、鉱山に篭るフェルスに尋ねる。


「良い調子だ。流石は魔石鉱山。潤沢な魔力が大地に染み付いている…!」


喜悦を浮かべてフェルスは答えた。


その両腕は大地に触れており、そこから魔力を吸収していた。


「ハハハッ! 素晴らしい! 素晴らしい魔力だ! これほどの魔力を得たのはいつ以来か!」


「…少しは私に感謝してよ? 町をずっと霧で覆うのってコレで中々大変なんだから」


「勿論だ! 心から感謝しているぞ、ネーベル!」


獰猛な笑みを浮かべながらフェルスは言う。


本来なら触れるだけ大地から魔力を吸収することなど不可能だが、フェルスの性質が影響している。


ドラゴンには属性がある。


ネーベルの場合は霧。そしてフェルスの場合は岩。


それ故にフェルスは岩や土に対する相性が良く、この鉱山のように魔力に満ちている場所なら直接魔力を吸収することも可能だ。


「ところで、ファフニール戦に備えて魔力を蓄えるのは理解したけど、ティアマト様の命令についてはどうする気なの?」


「記憶のことか?」


「そう」


フェルスの言葉にネーベルは少しだけ安心した。


この脳みそまで石で出来ていそうな男でも、それだけは忘れていなかったか。


「何も問題ない。ファフニールはドラゴンなのだ。この手で痛めつけ、共に居る人間を虐殺する様を見せれば、すぐにでも思い出すだろう!」


「………」


(やっぱり脳みそまで石ね。コイツ)


フェルスの作戦を聞き、ネーベルは心底呆れた顔を浮かべた。


それのどこが作戦なのか。


ショック療法にも程がある。


(…まあ、これくらい馬鹿の方が扱い易いけどね)


内心でそう呟くネーベル。


そもそも、フェルスとネーベルは仲間では無いのだ。


レギンの記憶を取り戻した方が六天竜になれる。


そう言う条件で競い合う敵なのだから、むしろ愚かな方が良い。


(これだけ魔力を溜め込めば、足止めくらいには使えるでしょう)


ネーベルは段々と魔力が増大していくフェルスの背を眺めながら思う。


フェルスに協力しているのは、それが理由だった。


ネーベルはフェルスほど楽観視していない。


ファフニール。


直接会ったことは無いが、かつての六天竜を相手に慢心はしない。


元々ティアマトには殺せ、と命じられた訳でも無いのだ。


ならば、ただ命令を果たすとしよう。


「…ふふ」


ネーベルは一人ほくそ笑んだ。

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