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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
四章 追憶
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第六十一話


「王都の連中め。ようやく私の要請の応えたと思ったら、派遣されてきたのはたった二人か」


レギン達が洞窟で竜の骸を見つけていた頃、ゲーレは自分の部屋で二人のことを考えていた。


既に何人、何十人と犠牲者は出ている。


商人は悪い噂に敏感だ。


町の近くにドラゴンが住み着いていると知れば、この町を訪れる人間は減るだろう。


商人の町であるヘンドラにとって、それは致命的だ。


「全く、私を誰だと思っている…! 一代でヘンドラ、いや王国一の商人となったゲーレ様だぞ!」


贅肉の張り付いた顔を怒りで歪め、ゲーレは叫ぶ。


その傲慢な態度を微塵もレギン達に見せなかったのは、彼が腐っても商人だからだろう。


彼は元々は貧乏な一商人に過ぎなかったが、運を味方につけて成り上がり、現在の地位に至る。


ゲーレはこの町の王だ。


この町に住む者でゲーレに逆らえる者は誰一人居ない。


井の中の蛙はそうして段々と増長し、傲慢な人物へと変貌したのだ。


「―――」


「…あ?」


苛立つゲーレの視界に、少女が映った。


無言で宝石のように美しく、冷たい目を向ける少女。


「何を見ている…!」


その視線に腹が立ったのか、ゲーレは近くに置いてあったグラスを掴み、力任せに投げた。


ワイングラスが少女の顔にぶつかり、飛び散った破片が額に巻いていた赤いバンダナを切り裂く。


「―――」


しかし、何故か少女の肌には傷一つ無かった。


怒りも無く、驚きも無く、ただ少女は無表情でゲーレを見つめている。


「…宝石」


ぽつり、と少女は小さな声で呟いた。


「…今日は、契約・・の日」


「…ああ、そうだったな」


多くを語らない少女の言葉に、ゲーレは今気付いた様に頷く。


「この状況で給金を要求するとは、相変わらず何考えているのか分からん娘だ…気味の悪い」


「―――」


罵られても少女の表情は変わらない。


もう言うべきことは言った、とばかりに無言でゲーレを見ている。


「悪いが断る。お前の為の宝石は用意していない」


「…契約・・を、破る?」


「そうだな、もうお前の力なんぞ不要だ。どこへでも消えろ」


「―――」


突き放すようなゲーレの言葉を受けて、少女はふらりとゲーレに背を向ける。


「では…さようなら」


抑揚のない声でそう告げると、少女は扉から去っていく。


そして、何の躊躇いも無く十年以上住み着いていた屋敷から出ていった。








「何て報告すれば良いんだろうな?」


町へ戻ったレギンは困惑したように呟く。


倒しに行ったドラゴンが既に倒されていた。


そう告げたら、ゲーレはどんな顔をするだろうか。


「少なくとも、人間を襲うドラゴンは居なくなったんですから良かったのでは?」


「阿呆。何も良くないだろう」


「え? 何でですか?」


首を傾げるリンデにレギンは深い息を吐く。


「俺が見た所、あの洞窟に在った骸はワイバーンではなくドラゴンの物だった。つまり、アレを倒した奴はドラゴンを一撃で倒す実力を持っていると言う訳だ」


ドラゴンの骸は、胸以外に大きな傷は無かった。


状況的にあのドラゴンと戦った者は初撃で心臓を貫き、ドラゴンを倒したのだ。


「はぁ。強い人が居たんですね…」


「………」


「…アイタッ!? 何で叩くんですか!」


「お前の頭に本当に中身が入っているかどうか確かめてやったんだ」


「ひ、酷い…!」


叩かれた頭を抑え、リンデは涙目になる。


あまりに楽観的なことばかり言うリンデに呆れながら、レギンは口を開く。


「ドラゴンを一撃で殺せるような奴がそうポンポン居てたまるか! ドラゴン退治はドラゴンスレイヤーにしか出来ないことだろうが!」


「…あ、そう言えば。と言うことは、アレをやったのはドラゴンスレイヤー?」


「違う。それだったら、そもそも俺達が派遣される筈が無い」


つまり、アレはドラゴンスレイヤーの仕業では無い。


相手は成体のドラゴンなので他の人間と言う可能性も有り得ない。


ならば、あのドラゴンを殺した者は…


「同じ成体のドラゴンか、もしくは六天竜」


と言うことになる。


レギンは良くない、と言ったのはこの為だ。


商人を襲っていたドラゴンは殺されたが、まだ近くにそれ以上のドラゴンが潜んでいる可能性がある。


だとするなら、まだ安心する訳にはいかない。


「じゃあ、これからどうしますか?」


「取り敢えずは聞き込みだな。最近町に変な奴が来てないか、とか」


リンドブルムの風貌から考えるに、ドラゴンは人間体になっても目立つ。


商人の町に明らかに商人でも客でも無い人間が現れれば、噂くらいにはなっているだろう。


「…あなた、ファフニール?」


レギンが聞き込みを始めようとした時、声が聞こえた。


周囲の音に埋もれてしまいそうな小さな声。


だが、レギンはそれを聞き逃さず、警戒した目を向けた。


「…何故、その名前を知っている?」


「―――」


そこに居たのは、ゲーレの屋敷で出会った少女だった。


前は額にバンダナを巻いていたが、今は付けていない。


(…何だ、あの額の)


不思議なことに、露出した額には『宝石』が埋め込まれていた。


まるで初めから少女の体の一部だったように自然に、大粒のダイヤモンドが額に沈んでいる。


「…私は、ヴィーヴル」


少女は感情の無い声で、自身の名を告げる。


六天竜・・・。『宝石』のヴィーヴル」

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