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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
三章 王都
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第五十七話


ある街に、とても美しい娘が居た。


雪のように白い肌と、艶のある黒い髪を持った娘は、街中の誰もを魅了した。


多くの男が彼女に求婚したが、彼女がそれに応えることは無かった。


何故なら彼女に求婚した全ての男が、ただ彼女の容姿に魅了されただけだったから。


誰も彼女の内面を見ていない。


そう思い、彼女は誰の物にもならなかった。


しかし、ある日彼女の前に一人の男が現れる。


その男は領主の息子であり、彼女の話を聞きつけてやって来たと言う。


当初は相手にしなかった娘だが、彼と言葉を交わす内に関心を持つようになる。


彼が外見では無く、彼女の内面に興味を示し、二人は段々と心を通わせていく。


やがて男は娘に求婚し、彼女はそれを受け入れた。


だが、婚約してしばらく経った頃、悲劇が起きる。


二人の住んでいた街を、一体のワイバーンが襲ったのだ。


駆け付けた騎士が撃退したが、その時には既に街に被害が出ていた。


『………』


ワイバーンのブレスによって娘は両親と住んでいた家を焼かれた。


幸い、彼女は一命を取り留めたが、顔には大きな火傷の跡が残ってしまった。


生まれ持った美貌を失った娘に、周囲の人間は冷たかった。


ワイバーンの恐怖を彷彿させる彼女を、誰もが避けるようになった。


それでも彼女は希望を捨てなかった。


プロポーズの時に『自分の内面に惹かれた』と言ってくれた婚約者へ会いに行った。


『………』


しかし、彼は美貌を失った彼女を拒絶した。


両親と家を失い、縋ってきた彼女に、彼は当然のように言った。


本当は外見に惚れたに決まってるだろう、と。


『………』


人は、醜い。


見ているのは外見だけで、その内面を理解する気なんて少しも無い。


本当の意味で、他人と心を通わせることなどできはしない。


娘は、もう誰も信じないと決めた。


その眼に映る全てを嫌悪し、憎悪し続けると。








「…意外と、頑丈ですね」


ハーゼは心底鬱陶しそうにそう呟いた。


「ハッ、この程度でこの俺が殺せると思ったか」


レギンは不敵な笑みを浮かべて言うが、その右腕は骨まで凍結していた。


右手の指先から肩まで、レギンの右半身の殆どが凍り付いている。


ハーゼの放った雪人形の爆発を受けた結果だ。


「しつこい男って嫌いなんですよ。それがドラゴンなら尚更ね」


濁った眼でハーゼはレギンを睨んだ。


「私は忙しいんです。これからあなたを殺した後、全てあなたの仕業であるように偽装しなければならないんですから…」


トン、とハーゼは足下に降り積もった雪を踏み付けた。


それを合図に、再び雪人形が形成される。


「そう言う訳で、さっさと死んで下さい。心配せずとも、あなたの血肉は私が有効活用してあげますから!」


「同じ手は喰わんぞ!」


レギンは無事な左腕を使い、黄金の剣を投擲した。


狙いは狂わず、刃は雪人形に突き刺さる。


(…やはり爆発しない)


不発のままボロボロと崩れていく雪人形を見て、レギンは頷く。


あの爆弾は強力だが、効果範囲が広すぎる。


自身が巻き込まれてしまう為、本体の傍では発動できないのだ。


「ドラゴンのくせに小賢しい真似を…」


「魔力よ、集え」


レギンは左腕を前に突き出す。


全身に流れる魔力を左腕一本に集中させ、それをハーゼへ向けた。


「その魔力、左腕からブレスを放つつもりですか?」


「俺達ドラゴンにとって心臓以外の部位は全て同じだ。別に、口からしかブレスを放てないなんて理屈は無いだろう?」


「…は」


レギンの言葉に、ハーゼは冷笑を浮かべた。


「滅竜術『雪膜アイスベルク』」


ドーム状の白い膜がハーゼを覆う。


竜鱗ブルグを超えた魔力の防壁。


ハーゼは戦闘能力自体はドラゴンスレイヤーの中で並程度だが、その防御力だけは随一だ。


ハーゼのこの術は生み出されてから一度も、破られたことは無い。


「この防壁は広大な氷山そのもの! 一切の熱、一切の魔力を通さない氷の要塞!」


「………」


「たかがドラゴン如き、私に触れることすら不可能です!」


「…随分と、その術に自信を持っているようだな」


レギンは魔力を収束させながら、ふと呟いた。


確かに、その術は強力だ。


単に効果範囲を広げるだけでなく、冷気を纏うことでブレスに対する抵抗力も増している。


「俺が思うに、滅竜術とは人間の努力の形だ。特にドラゴンスレイヤーが用いる独自の術は、その者の目的や願望を叶える為に身に着けた力だ」


エーファなら、仇であるドラゴンを必ず逃がさないと言う目的から『高速化』


フライハイトなら、英雄らしく正面からドラゴンを屠ると言う願望から『魔剣強化』


では、ハーゼは…


他のドラゴンスレイヤーのように自身を強化するのではなく、冷気を放出すると言う術を好むハーゼ。


一体そこにはどんな願望が隠されている。


「『ブレス』」


レギンの左腕からブレスが放たれる。


黄金の光は一つに束ねられ、正面からハーゼの防壁と衝突した。


「…ッ。この程度ですか!」


衝撃は想像以上に少なかった。


これなら防ぎ切るのは容易い、とハーゼはほくそ笑む。


「冷気を操る力。身を守る防壁。それは、熱や攻撃から身を守ることを考えて生み出された術…」


レギンは攻撃を放ちながら、言葉を続ける。


本人の性格に反してハーゼの能力は防御向きだ。


ドラゴンスレイヤーの滅竜術が術者の願望を叶える為の力であるなら、ハーゼがそう望んだと言うこと。


「お前、火を恐れているのか(・・・・・・・・・)?」


「ッ!」


ハーゼの顔色が変わった。


そう、冷気を纏う力も、強固な防壁も、全てはその為。


己の運命を狂わせた『火』に対する恐怖から生み出した術だ。


パキッ、と何かがひび割れる音が聞こえた。


ハーゼを守る防壁に、小さな亀裂が浮かんだ音だった。


(雪膜が…!)


レギンの言葉にハーゼが動揺したことで、僅かに術が弱まったのだ。


亀裂はまだ小さいが、このままでは危険だ。


「凍えて死ね! 滅竜術『銀世界シュネートライベン』」


ハーゼの足下から無数の氷柱が放たれた。


攻撃に集中するレギンはそれを躱せない。


レギンの体の至る所に氷柱は突き刺さり、その部分からじわじわと凍り付いていく。


「凍てつけ! 消えろ、消えてしまえ!」


やがて、レギンの全身は氷に覆われ、完全に凍結した。


爪先から頭頂部まで余す事なく。


唯一、光を放ち続ける左腕だけを残して。


「な、何で凍らないんですか! 攻撃が、止まらない…!」


ハーゼの顔に焦りが浮かぶ。


既に左腕以外は全て凍り付いていると言うのに、攻撃が止まらない。


黄金の炎は、未だハーゼの眼前に迫っている。


「…ああッ…!」


ハーゼの動揺を表すように、再び雪膜に亀裂が走る。


段々と亀裂は広がり、それに合わせるようにブレスの勢いは大きくなっていく。


「ど、どうして…」


火が、迫ってくる。


全てを焼き尽くす炎が、再び自分の全てを奪おうと近付いてくる。


「どうして、私ばかりこんな目に遭うんですか!」


かつて味わった恐怖を思い出し、ハーゼの目に涙が浮かぶ。


「嫌われる前に嫌って、騙される前に騙してやっただけなのに! 私がされたことを全部やり返してやっただけなのに!」


子供のように喚きながら、ハーゼは目の前の炎を見つめる。


どれだけ叫ぼうと、炎は揺らぐことなくハーゼへ迫ってくる。


「ああ、熱い…! 火は、火は嫌いなんです。怖いんです…! やめて、やめて下さ…」


瞬間、雪膜が決壊し、ハーゼは黄金の炎に包まれた。

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