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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
三章 王都
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第五十六話


「全く、部屋が滅茶苦茶ですよー。これだから戦いって嫌いです」


凍てついた病室を見渡し、ハーゼは白い息を吐く。


脆くなったベッドを踏み砕き、濁った眼でレギンを睨んでいる。


「エーファを、殺したのか?」


レギンは氷の箱に閉じ込められたエーファを一瞥し、そう言った。


「まだ殺してはいませんよ。術を解けば、すぐに元に戻ります」


「その術は、お前を殺せば解けるのか?」


「さあ? 試してみます?」


「………」


挑発的なハーゼに向かってレギンは構えを取る。


大きく開いた口に魔力が収束し、黄金の光となる。


「『ブレス』」


凍り付いたベッドやカーテンを破壊し、閃光がハーゼへ迫った。


その光を前に、ハーゼは歪んだ笑みを浮かべる。


「滅竜術『雪膜アイスベルク』」


ハーゼを中心に、ドーム状の白い膜が形成される。


雪にも似た半透明の防壁は、一切の熱を通さず、レギンのブレスを防ぎ切った。


(アレは確か、竜鱗ブルグと言う術…)


リンデも使用していた基本的な滅竜術の一つ。


本来なら術者の体表を覆う程度の魔力の鎧だが、ハーゼの場合は術者を中心に魔力の砦を作り出す。


恐らくは、エーファを封じたのもこの術の応用。


氷の結界と封印がハーゼの滅竜術だ。


「あはは! 馬鹿ですねー。勝つ自信があるから、戦いを仕掛けたに決まっているじゃないですか」


ハーゼは嘲るように、レギンを嗤った。


それに合わせて前髪が揺れ、普段隠れていた顔の左半分が露わになる。


「…その顔」


「え?…ッ!」


言われて気付いたのか、ハーゼは顔に手を当てた。


咄嗟に手で隠したハーゼの顔には、酷い火傷の跡があった。


雪のような白い肌に醜く刻まれた黒い傷跡。


それを見られたことにハーゼは大きく舌打ちをする。


「…久しぶりに術を使ったから、こっちの術(・・・・・)が解けてましたか。これだから…」


「ハーゼさん! ご無事ですか!」


ハーゼの言葉を遮る様に、凍り付いた扉を壊して男達が室内に入ってきた。


その弟子達は変わり果てた部屋の様子に驚き、それからハーゼへ目を向ける。


「は、ハーゼさん? その顔は、一体…?」


「…………はぁ」


弟子達の言葉に、ハーゼは深いため息をついた。


顔に当てていない方の手を、自身の弟子達へ向ける。


「『冬封箱グレッチャー』」


瞬間、弟子達の体が霜に包まれた。


呆然とした顔のまま、弟子達は完全に動きを停止した。


「絶望的に間の悪い者達ですね。これだから頭の悪い男って嫌いなんです」


何の躊躇いも無く自身の弟子を攻撃したハーゼは、心底嫌悪するように弟子達を睨んだ。


「…お前の、弟子ではないのか?」


「ええ、まあ。薬の実験とか、研究とか、それなりに役に立ってはくれましたが…」


ハーゼは顔に刻まれた火傷跡を撫でる。


「コレを見られたからには、もう殺すしかないでしょう」


(…傷が)


手の触れている部分からハーゼの火傷跡が段々と薄れていく。


雪を思わせる白い膜に覆われ、やがて火傷の跡は完全に消えた。


「『雪化粧ドッペルゲンガー』…私が最も重宝している滅竜術です」


エーファの言っていた『自分の姿を変える能力』とはこの術のことだ。


ただ傷を隠すのみならず、その気になれば全身を別の姿に変えることも出来る。


この術を使って、ハーゼはレギンに成り済ましていたのだ。


「何故、俺のふりをして人を襲った?」


「分かり切ったことでしょう? エーファ達にあなたを敵と認めさせる為ですよ!」


再び室内に猛吹雪が吹き荒れる。


舞い散る白雪によって、あらゆる色が塗り潰され、白く染まっていく。


「欲しいんですよ、あなたの血が! 六天竜を倒す程の竜の血液が!」


「ッ…!」


「大義名分が欲しかったんですよ! あなたを殺し、その血の一滴まで研究に利用する為のね!」


レギンに初めて出会った時、ハーゼは歓喜した。


六天竜を滅ぼす実力を持つドラゴン。


その竜血を使えば、どれほど研究が進むか、どれほど素晴らしい物を生み出せるか。


それなのに、ジークフリートはレギンを味方に引き込んだ。


目の前にありながらも、手が出せない実験材料。


ハーゼは、それが我慢ならなかった。


「凍てつけ!『冬封箱グレッチャー』」


「チッ…」


吹雪く白雪がレギンの足下に収束する。


それに気付き、その場から飛び退いたレギンの後方で氷の棺が形成された。


「逃がしませんよ!」


ボコボコと床に降り積もった雪が盛り上がる。


「滅竜術『雪化粧ドッペルゲンガー』」


それはハーゼを模した雪人形。


白一色の姿だが、ハーゼと同等の体格を持つ分身だ。


同時に三体出現したそれは、一斉にレギンへと襲い掛かる。


「こんな雪の塊如き…!」


レギンは手に生み出した黄金の剣を振るう。


見た目相応の強度しか無い雪人形の首は、あっさりと斬り飛ばされた。


瞬間、その雪人形が爆発した。


「なっ…ぐあッ!」


細かい氷柱と雹を極寒の冷気と共に放つ氷の爆発。


至近距離からそれを浴びてしまったレギンは、顔を抑えて苦悶の声を上げた。


(何て冷気だ。目が、開けていられない…!)


「ほら、雪人形はまだ二体残っていますよー」


嘲るようなハーゼの声と共に、残りの雪人形がレギンに迫る。


次の瞬間、再び氷の爆発がレギンを襲った。

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