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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
三章 王都
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第五十二話


「さて、これで全部上手くいくと良いが…」


ジークフリートは会議室で一人呟いた。


考えているのは、リンデとレギンのことだ。


リンデをドラゴンスレイヤーに任命したのは、レギンを味方に引き込む為。


それはリンデが望まない争いを避ける、と言う理由もあるが、レギンと言う戦力を得る為でもある。


あのドラゴンは六天竜を倒した。


ジークフリート以外、どのドラゴンスレイヤーも果たせていない偉業を成したのだ。


戦力としては十分に期待できる。


「………」


最高戦力であるジークフリートは、様々な事情で王都を離れることを禁じられている。


例外・・はあるが、そう何度も使える手では無い。


だからこそ、戦力が必要だった。


「毒を以て毒を制す、か」


竜を利用して竜を滅ぼす。


あの六天竜を滅ぼす為なら、竜の手を借りることもジークフリートは躊躇わない。


「残る問題は…」


他のドラゴンスレイヤーの反応だろうか。


ドラゴンスレイヤーとは基本的に竜へ恨みを抱く者が多い。


一番怨恨が深いエーファは既に受け入れているようだが、他はどうか。


フライハイトは、まあ問題無いだろう。


感情的になり易いが、割と道理は守る方だ。


ならば残りの二人は…


「ジークフリートさん!」


「うん?」


その時、思考するジークフリートの下へ慌ただしく一人の騎士が駆け込んできた。


見覚えのある顔だ。


「あの、六天竜の遺体の件なのですが…」


「…ああ、リンドブルムと言うドラゴンの遺体か」


言われてジークフリートは思い出した。


レギンが倒したリンドブルムの遺体は、王都へ運ぶように命令していたのだ。


ドラゴンの遺体は放置すると、そこからワームが生まれる可能性がある。


特に六天竜の遺体は強い魔力を秘めている為、王都から人材を派遣してでも必ず運ぶように指示を出していたのだ。


「アレが届いたのかい? なら取り敢えず研究所の方へ…」


「そ、それが………紛失したのです」


「紛失?」


ジークフリートは首を傾げた。


確かにリンドブルムの体は人間サイズにまで縮んではいたが、それでも紛失するような物ではない。


「運搬中の馬車ごと、消えたのです。無事だった者曰く、まるで地中に引き(・・・・・・・・)摺り込まれるように(・・・・・・・・・)馬車が消えた、と」


「………」


考え込むようにジークフリートは口元に手を当てた。


騎士に言葉を返すことも忘れ、窓の外を見上げる。


動き出したか(・・・・・・)…)








「しばらくはここで生活してもらうことになると思うわ」


「普通の宿だな」


エーファに案内された先の建物を見上げ、レギンは呟いた。


ドラゴンスレイヤーの生活する場所と言うから、仰々しい場所をイメージしていたが、意外と普通だ。


寂れている訳では無いが、特別高級そうにも見えない。


「本来なら専用の宿舎に案内する所だけど…」


そう言ってエーファはちらりとレギンの顔を見た。


「ああ、なるほど」


その仕草で言いたいことを理解し、レギンは苦笑を浮かべた。


宿舎にはドラゴンスレイヤーだけではなく、彼らの弟子である騎士達も寝泊まりしている。


ドラゴンであるレギンが共に生活すれば、トラブルの種だろう。


「そう言うことなら仕方ない。無用な争いは、俺も望む所では無いさ」


「………」


「…何だ?」


納得したようなレギンに、エーファは無言になる。


何やら訝し気にレギンの顔を見つめていた。


「前から思っていたけど、随分と物分かりが良いのね」


「何の話だ?」


「普通は、怒らない?」


思わず、エーファは思っていたことを口にしてしまった。


エーファ自身もそうだったが、レギンは偏見の目で見られがちだ。


ドラゴンなのだから仕方ないと言えば仕方ないことだが、彼からすれば不本意の筈。


人を喰らった経験など一度も無いのに、一方的に疎まれるなど、本来なら怒っても不思議ではないだろう。


「…ドラゴンは人間にとって不俱戴天の敵だ。お前達は竜を憎み、疎む。それが道理(・・・・・)だ」


レギンは淡々とそう言った。


怒りも無く、不満も無く、ただ当然の事実を伝えるように。


「だから俺はお前達が俺を憎むことに怒りは感じない。どんな誹謗中傷を受けようとも、こちらから仕掛けることは無いだろう」


「………」


「とは言え、そちらから仕掛けてきた場合は、相応の報いを受けてもらうがな」


どこか達観したような言葉だった。


客観的に見て、ドラゴンである自分が人間に憎まれることを当然と考えている。


その理不尽や不条理に怒ることもせず、そう言うものだと受け入れている。


「まあ、中にはコイツみたいな変わり者もいるようだが?」


「うわっ…!」


ポフッとリンデの頭に手を置き、レギンは笑みを浮かべた。


リンデを見つめるレギンが何を想うのか、エーファには分からない。


だが、それが悪い感情では無いことは理解できた。


「そら、いつまでもここで長話せずに早く中を確認しよう」


「そうですね。レギンと私の部屋はどの部屋でしょう?」


「…言っておくけど、部屋は別々だからね?」


自然に同室だと思っているリンデに、エーファは訂正する。


この娘は本当に警戒心が薄いと言うか、危なっかしいと言うか。


余程レギンに懐いているのだろうか。


「はい、コレが鍵ね」


「分かりました! 荷物を置いた後でレギンの部屋に行きますね!」


「だから、そう簡単に男の部屋へ行くなと………ああもう」


姉替わり、と言うよりは母親のようにエーファは頭を抱えた。


とは言え、相手がレギンでは間違いなど起きる筈も無いだろう。


子供のように無邪気に自分の部屋へ走っていくリンデを眺め、息を吐いた。


「俺の部屋はどれだ?」


「…その前に、良いかしら?」


「今度は何だ?」


うんざりしたようにレギンはエーファに顔を向けた。


「ロザリオ取ったのはもう良いけど、あまり竜化しないようにね」


エーファはレギンの首を示しながら告げる。


「王都では目立つからか?」


「それもあるけど…」


じろりとエーファの眼が観察するようにレギンの眼を覗き込む。


「自覚があるのか分からないけど、あなたの気配、強くなっているわよ?」


エーファは確信を以て、そう言った。


リンドブルム戦の前後で、レギンから感じる竜の気配が明らかに増大していた。


原因は恐らく、竜化。


人化を解き、竜体に戻ったことで何らかの変化が起きている。


「多分だけど、ロザリオで抑え付けていた反動で、よりドラゴンに近くなっている」


「近くなるどころか、俺はそもそもドラゴンだが?」


「精神の話よ。理性が失われている、と言ってもいいわ」


竜の本能が大きくなっているのだ。


このままではいずれ本能は理性を呑み込み、レギンを完全な竜に変えるだろう。


「理性の無いけだものになりたくないなら、出来るだけ竜化しない方が良いわ」


「………」


「…まあ、それもまたあなたの『本来の姿』と言えばそうなのかもしれないけど」


そう言うとエーファは鍵を手渡し、去っていった。


残されたレギンは無言でそれを見送る。


「自覚があるか、だと?」


ふっ、とレギンは笑みを浮かべた。


「………あるに決まっているだろうが、阿呆」


レギンは顔に手を当て、そう呟く。


言われるまでも無い。


その変化に、レギンはとっくに気付いていた。


身の内から込み上げる破壊衝動。


目に入る全ての物を壊し、全ての生命を喰らいたい、と言う本能。


リンデのお陰で魔力は十分に満たされていると言うのに、決して癒えない飢餓。


(竜化だけが原因じゃない。あの戦い、ドラゴン同士の争いが竜の血を目覚めさせた…)


こんなことを何度も繰り返せば、いずれレギンは消える。


辛うじて残った記憶と自我も消え、ただの竜になる。


(ふざけるなよ。これ以上、失ってたまるか…!)


耐え難い苛立ちを感じながら、レギンは空を睨んだ。

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