第五話
「おい、リンデ」
「何ですか?」
リンデの故郷へ向かって歩きながら、ぽつりとレギンは言った。
後ろを歩いていたリンデも足を止め、首を傾げる。
「お前が使っていた術、滅竜術とか言ったか? アレは誰でも使える物なのか?」
記憶喪失であるレギンは世間知らずだ。
彼の知る人間とは、レギンを狙って森に現れた人間のみ。
その中に滅竜術を使える者は一人も居なかったが、その力は世に溢れている力なのだろうか。
「いえ、誰でも使える訳では無いですよ。滅竜術は魔力を使用しますから、当然魔力を人より多く持っている者にしか使えません」
「才能、と言うやつか」
「…まあ、そんな所です。それに加えて、私は王都で訓練を積んだ見習いですから!」
「見習い?」
自慢げに胸を張るリンデの言葉に、レギンは訝し気な表情を浮かべる。
「お前、最初に会った時に王都の騎士とか自称していなかったか?」
「そ、それは…」
痛い所を突かれた、とでも言いたげにリンデは呻く。
その態度を見て、レギンは目を細める。
「見栄か」
「うっ!?」
「まだ見習いのくせに、王都の騎士を名乗ったのか?」
「し、仕方ないじゃないですか! 名乗りを上げるのに王都の騎士見習い、では恰好つかないでしょう!」
「………」
意外とガキっぽい所もあるものだ、と妙に納得するレギン。
そのレギンの視線に耐えかねたのかリンデは慌てて目を逸らす。
「そんなことより先を急ぎますよ! 私は…」
「きゃああああああああああああああ!」
その時、リンデの言葉を遮るように女の悲鳴が響いた。
思わず二人は足を止め、顔を見合わせる。
「今の声は…!」
「近い、な。向こうか?」
人間体になっても感覚は竜のままなのか、レギンはすぐに声の方角を見抜く。
視線の先には、小さな村が見える。
遠すぎてよく分からないが、黒い煙が幾つも上がっていた。
「助けにいかないと!」
リンデは居ても立っても居られず、声のする方へ走り出す。
「知り合いか?」
「違います。けど、人として見捨てる訳にはいきません!」
「…そう言うものか?」
人間とは難儀な生き物だ、と思いながらもそれに付き合うレギン。
レギンとしてはどうでも良いことだが、リンデが救うと判断したなら付き合う他なかった。
「アレは…!」
村を襲っていたのは、蛇に似た怪物だった。
手足が無く、翼も無いドラゴンのような異形。
蛇と言うよりはミミズのように地面を潜り、顔を出す度に村人を喰らっている。
「何だあれは、お仲間か?」
「『ワーム』です。ドラゴンの幼体」
「へえ」
言われてみれば、成体のドラゴンであるレギンよりだいぶ小柄だ。
アレが餌を喰らって成長し、約百年の時を得て成体のドラゴンに成り果てるのだろう。
自分にもあんな醜い時代があったのか、とレギンは興味深そうにワームを眺める。
「さて、どうする? 片付けるか?」
「…レギンさんは出来れば大人しくしていて下さい。村の方々が混乱しますので」
そう言ってリンデは愛用する短剣を取り出した。
「滅竜術『竜脚』」
青い雷を足に纏い、リンデは加速する。
瞬く間に村を襲うワームの前へと辿り着き、跳躍。
『――――?』
ドラゴンのような知性を持たないワームは突然目の前に飛び込んできたリンデに首を傾げる。
その隙をリンデは見逃さなかった。
「滅竜術『竜爪』」
足に纏っていた魔力を全て右腕に集中し、短剣を振り抜く。
魔力によって強化された刃は、巨大な斬撃となってワームの首を両断した。
本能のままに餌を貪っていたワームは敢え無く絶命し、長い胴体が地面に転がった。
(ワームは再生能力を持たない。コレで終わった)
ぴくりとも動かなくなったワームの遺体を前に、リンデは大きく息を吐く。
相手は異形の怪物とは言え、命を奪う感覚は気分の良い物ではない。
特にリンデはコレが初めてだ。
技術は王都で学んだが、実戦経験だけは王都では学べない。
そんな状態で成体のドラゴンを退治しようとしたのだから、自分のことながら少し呆れる。
(それにしても…)
どうしてこんな所にワームが居るのだろうか。
ワームとは、ドラゴンの幼体。
ドラゴンの遺体や地面に残った魔力から自然発生する存在だ。
リンデにも容易く倒せたように、実力は然程高くない。
何の戦いの心得も無い村人ならともかく、少しでも力に覚えのある者なら滅竜術を使えずとも倒すことは可能だろう。
それは、ワーム自身も本能で理解している。
だからこそワームは滅多に人前には現れない。
どこかの洞窟や森の奥底に身を隠し、少しずつ魔力を集めて実力を蓄えるのだ。
それが何故、村を襲うなんて目立つ真似を行ったのだろうか。
周囲に餌が無くなって、偶然人間の村を餌場に選んでしまった?
翼も持たないワームが、わざわざ人里まで移動するだろうか。
「何か、気になることでもあるのか?」
リンデの様子に気付いたレギンが尋ねる。
「ええ、実は…」
自分だけでは答えが出せない、と思い、リンデはその疑問を打ち明けたのだった。
「アニキ! アニキ、大変だ!」
同じ頃、村のすぐ近くに野営していた男が叫ぶ。
「うるせえな、馬鹿! それより準備は終わったのか? そろそろ時間だぞ」
「準備なんて言っている状況じゃねえんだよ!」
「あん?」
山賊染みた血で汚れた皮鎧に身を包んだ男は、酒瓶を片手に訝し気な顔をした。
「ワームが、殺されちまったんだよ!」
「…ああ? 誰だ、んなことしやがったのは!」
「わ、分からない。男と餓鬼の二人だ。多分、村の人間じゃない」
「だろうな。あの村にワームと戦える人間は居ねえ。だからあの村を選んだってのに!」
酒瓶を叩き割りながら、山賊風の男は舌打ちをした。
「ってことは、偶然居合わせたヒーロー様ってか? あーあー、そう言う奴が一番うぜえ!」
「どうします? アニキ」
「決まってんだろ。落とし前をつけるだけだ」
ニヤリ、と獰猛な笑みを浮かべて男は言った。