表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
二章 六天竜
46/135

第四十六話


『勝ったな』


「勝っちゃいましたねェ」


レギンとリンドブルムの戦いを見届け、黒フードの男は呟いた。


戦いのとばっちりを受けたのか、僅かに露出した肌から小さな花が咲いている。


「アレが黄金なら七百年程度しか(・・・・・・・)生きていないドラゴンなど、殺せて当然ですが」


死んだリンドブルムは不憫だったが、その死を悲しむ者は誰も居ないだろう。


六天竜は仲間では無い。


長い時を生き『竜紋』を持つ共通点があるだけの六体のドラゴンだ。


互いの邪魔をしない限りは殺し合わない、と言う最低限のルールがある程度の竜の群れ。


本質は欲望の権化であるドラゴンが、そもそも協力して何かをすると言うことが有り得ないのだ。


故にドラゴン達が関心を持つのは殺されたリンドブルムよりも、殺した相手。


即ち、レギンだ。


「しかし、アレを黄金と判断するには疑問がまだ残りますねェ。竜紋を使わなかったことはさておき、心臓が壊されても復活したのは何故?」


心臓はドラゴンの唯一の急所だ。


それは六天竜であっても同様であることは、リンドブルムが証明している。


心臓を壊されたドラゴンは、例え六天竜であっても死ぬしかない。


「あんなことはかつての黄金でも出来なかった筈」


純粋な戦闘能力は明らかに低下しているが、不死性だけはより完全な物になっている。


「まさか、十三年の間に何か別の能力を…」


『ふ…ふふ…』


考え込む黒フードの男の肩で、銀色の眼球が震えた。


「…? ティアマト様?」


『ふはは、ははははははははははははは!』


突然、ティアマトは狂ったように笑いだした。


銀色の眼球は、真っ直ぐレギンへ熱い視線を送っている。


『間違いない! アレこそが黄金! あの輝きこそが我々の光! 彼は帰還した。黄金は再び我々の下に舞い戻ったのだ!』


ティアマトは狂喜しながら叫ぶ。


まるで信仰する神に出会った聖職者のように。


心からの喜びを以て、あのドラゴンとの再会を祝う。


『やはり、やはり彼は人間などに殺されてなどいなかった! 十三年、彼の生存を信じて探し続けた私は正しかった! ふ、はははははははははは!』


「…ではどうしますか? 直接会話なさいます?」


『…いや、まだだ。業腹だが、まだその時ではない』


「と言いますと?」


『彼には記憶を取り戻し、完全になった上で帰還してもらおう………準備が必要だな』


ボコボコと銀色の眼球が変化する。


視覚のリンクを切り、本体に感覚を戻すつもりなのだろう。


『お前も早く戻れ。彼には未だ何もする必要はない』


「了解です」


『………』


完全に形が失う寸前、銀色の眼球は再びレギンを見つめた。


『いずれ迎えにあがります。黄金竜ファフニール(・・・・・・)よ』


そう最後に告げ、銀色の眼球は溶ける。


細かい欠片も全て魔力となって、跡形も無く消滅した。


「…ふう」


軽くなった肩を揉みながら、黒フードの男は息を吐く。


「さて、俺はこれからどうするか………ん?」


何となく視線を動かしていた男は、ある人物を見つけて青褪めた。


「うげっ! な、何であの男(・・・)がここに…!」








「本当に、本当に、怪我は大丈夫なんですか?」


「何度も聞くな。俺の体はそんなにやわじゃない」


心配そうにペタペタと体を触るリンデに、レギンは鬱陶しそうに言う。


先程まで死にかけていたレギンだが、ドラゴンの肉体故か既にその身には傷一つ無い。


魔力生命体であるドラゴンは潤沢な魔力さえあれば、頭部だって新たに生やすことが出来るのだ。


「そう言う問題じゃないでしょ。あなた、心臓を貫かれたのよ?」


「…そのようだな」


エーファに言われてレギンは自身の胸を見つめる。


魔力によって傷どころか服まで修復されているが、確かに心臓を貫かれた感覚があった。


「心臓を壊されても生きているドラゴンなんて聞いたことないわ」


エーファは驚きと、僅かな恐れを含めて呟く。


当然だ。それでは弱点が無くなってしまう。


ドラゴンスレイヤーがドラゴンと戦えるのは、彼らに明確な弱点があるからだ。


もし、全てのドラゴンが心臓を壊されても死なないのなら、人類などとっくの昔に滅んでいる。


「本当に、あなたは一体何者なのかしら?」


「それは俺の方が聞きたい」


レギンは憮然とした顔で告げる。


それが分かれば誰も苦労はしないと。


「…まあ、それは置いておくとして、次の問題は」


エーファは周囲を見渡し、苦い顔をする。


リンドブルムが倒されたことで人々は解放されたが、その顔には恐怖がある。


怯える人々の眼は全てレギンへ向けられていた。


見られたわよ(・・・・・・)。どうするの?」


人々はリンドブルムと戦うレギンの姿を目撃してしまったのだ。


全てでは無いのだろうが、決して少ない数の人間にレギンがドラゴンであることを知られてしまった。


「ば、化物だ」


「今は人間に化けているけど、さっきのやつと同じドラゴン…」


「………」


レギンは表情の無い顔で周囲を見渡す。


視線が合う度に、あちこちから小さな悲鳴が上がった。


もうこの町にはいられない。


それは構わないが、逃げた所でどうなる。


いずれこの町で起きたことは王都のドラゴンスレイヤーまで届く。


そうすれば、最早レギンに逃げる場所なんてどこにも…


「おや? ドラゴンは退治したと言うのに、みんな妙に暗いじゃないか」


その時、雰囲気を壊すように男の声が聞こえた。


コツコツ、と靴を鳴らしながら剣を携えた男が近付いてくる。


「ザイフリートさん! 無事だったんですか?」


「やあ、リンデ。お陰様で俺は元気だよ」


見覚えのある顔にリンデはその無事を喜ぶ。


ひそかに心配していたのだ。


「どうして、あなたがここに…?」


笑みを浮かべるリンデの隣で、エーファは驚愕に目を見開く。


「あれ? エーファさん、ザイフリートさんと知り合いだったんですか?」


「ザイフリート? 違うわ、この人は…」


エーファは改めて目の前の男に向き合った。


その男はザイフリートなんて名前じゃない。


本来ならこんな場所に居る筈の無い男。


エーファと同じ王都のドラゴンスレイヤー。


ジークフリート(・・・・・・・)。王都最強の『黄金のドラゴンスレイヤー』よ」


「え?」


「何…?」


リンデとレギンはそのドラゴンスレイヤーへ目を向ける。


「悪いね。立場上、あんまり本名を名乗れなくてさ」


片目を閉じ、手を上げて謝るジークフリート。


その態度に王都最強の威厳は感じない。


「…どうして、リンドブルムとの戦いには協力してくれなかったの?」


「協力していたさ。気付かなかった? 町に生えたでっかい花を全部伐採したの俺なんだぜ?」


腰に下げた剣を指で叩き、ジークフリートは自慢げに言った。


直接的では無いにしろ、ジークフリートもまたリンドブルムを倒すことに貢献はしていたらしい。


「あなたの実力なら直接倒した方が早かったんじゃないの?」


「さっきも言ったけど、立場上あんまり目立てないんだよね。大人の事情ってやつ?」


「そんなの…」


「それより。俺の用事を先に済ませていいかな?」


まだ何か言いたそうだったエーファを遮り、ジークフリートは言った。


視線をエーファからレギンとリンデに向ける。


「コホン。俺から言うべきことは一つだけ」


二人の顔を交互に見つめ、笑みを浮かべた。


「君達二人を、王都へ連行します。出来れば抵抗しないでくれると有難いな」


「ッ!」


三人の顔色が変わった。


ドラゴンであるレギンを王都へ連行。


関係者のリンデも諸共に。


その理由は明白だ。


「ま、待って下さい! レギンは悪いドラゴンでは…!」


「大丈夫大丈夫。心配しなくても、悪いようにはしないから」


「それを信じろと?」


宥めるように言うジークフリートの顔をレギンは睨みつける。


そんな言葉を信じて、むざむざ王都に殺されに行くのは馬鹿のすることだ。


そうなるくらいなら、せめてもの抵抗をしてリンデを連れて逃げ出す。


そう考え、レギンはその爪を黄金に変化させる。


「爪を立てるなら、相手をよく見ることだ」


「な…」


トン、とレギンの胸に鞘に入った剣がぶつかる。


それはジークフリートの腰に下げていた剣だった。


今の一瞬で距離を詰め、剣をレギンの心臓へ突き付けたのだ。


いつでも殺せる、と。


「殺す気ならすぐに殺せる。俺がそうしないことは、信じる理由にならないかな?」


(この魔力…)


ジークフリートから放たれる魔力を感じ取り、レギンは戦慄する。


元々ドラゴンスレイヤーはどれもドラゴン並みの魔力を持つが、コレは桁が違う。


たった今倒したリンドブルム、下手すればそれ以上だ。


どうして、これだけの魔力に今まで気付かなかったのか。


「………」


レギンは無言で変化させていた爪を戻した。


それを見て、ジークフリートも剣を腰に戻す。


「分かってくれたようだな。それじゃあ、一緒に王都へ行こうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ