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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
二章 六天竜
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第四十四話


大きな枯れ葉に似た翼を広げ、リンドブルムは飛翔する。


巨竜は羽根のように天へ上り、ミットライトの町を見下ろす。


『はははははは! 忘れかけていたよ。空を飛ぶこの感覚を…!』


百年ぶりの空にリンドブルムは歓喜した。


狂ったように笑い、自身が何者であるか改めて自覚する。


「何をする気だ…」


地上のレギンは武器を構えながらそれを見上げる。


空に浮かぶリンドブルムは、一本の大樹のようだった。


枝のような手足を動かし、その首を地上へ向けている。


ブレス(・・・)


「なっ…」


ガパッと開いた口から零れた声に、レギンの背筋が凍った。


六天竜の放つブレス。


人間体のレギンが放っても十分な威力を持つそれを、竜体のリンドブルムが使用したらどうなるか。


レギン達どころか、町ごと滅んでも不思議ではない。


「くそっ…」


思わず身構えるレギン。


黄金を生み出して可能な限り、防御を固めようとする。


「………?」


しかし、いつまで経っても衝撃は来なかった。


「レギン。アレ…」


咄嗟に引き寄せたリンデが空を指差す。


そこには大きく口を開いたリンドブルムが居た。


不発、では無い。


ブレスは確かに放たれた。


ただ、リンドブルムのブレスが、レギンとは性質の異なる物だっただけだ。


「…煙?」


リンドブルムの口から放たれたのは、血のように赤黒い煙だった。


空気より重い赤黒い煙が地上に降り注ぎ、町を埋め尽くす。


破壊力は一切ない。


だが、何の効果も無い筈も無い。


「リンデ。お前、体に異常は…」


レギンがそう声を掛けようとした時、リンデの体が揺れた。


ぐらり、とリンデの体が地面に倒れる。


「リンデ! おい、どうした!」


「………」


倒れたままリンデは何も答えない。


完全に意識を失っているようだ。


レギンは起こそうと体を揺らすが、ぴくりとも動かなかった。


「…ッ! この煙、毒のブレスか…!」


「そう、みたいね…」


「エーファか。お前は…」


無事だったか、と言いかけてレギンは言葉を止めた。


エーファは熱病のように汗をかき、呼吸を荒げていた。


異常はそれだけではない。


エーファの皮膚・・


頬や腕の一部が変色し、植物のようになっていた。


「それ、は…」


「植物化よ。このブレスには、浴びた者を花に変える効果があるようだわ…」


変貌した腕を抑えながら、エーファは周囲に目を向ける。


この煙を浴びたのはエーファ達だけではない。


ミットライトの住人も一部が植物化していた。


侵食には個人差があるのだろう。


リンデのようにまだ植物化が始まっていない人間も居た。


「どちらにせよ、このままでは全員植物化するのも時間の問題。それより早く、アイツを倒さないと…!」


「………」


レギンは宙を舞うリンドブルムを見上げた。


今はブレスを放っていないが、その背から生える管から延々と赤い煙を噴き出していた。


リンドブルムはこのまま地上を花で埋め尽くすつもりだ。


リンデも、エーファも、レギンさえも植物化して、決着を付ける気だ。


「………」


それを止める為には。


リンデとエーファを護る為には。


「ちょ、ちょっと何をしているの!」


首元のロザリオに手を掛けたレギンに、エーファは声を上げる。


「封印を解いて、俺も竜体に戻る………約束を破って、悪いな」


「で、でも、今ドラゴンの姿になったら、ミットライトの住人に見られるわよ…! そうしたら、ドラゴンスレイヤーの討伐対象に…」


「他に手段は無い。それに、いつかそうなるのが少し早まっただけだ」


レギンは眠るリンデを見下ろす。


植物化に抗い、苦し気に顔を歪めるリンデを見て、拳を握り締めた。


「人化。解除」


パキィン、とロザリオが砕け散る。


人型を保っていたレギンの魔力が解放され、黄金の塊に変化する。


それは、陽光を反射する黄金のドラゴン。


手足は柱のように太く、翼は空を覆う程。


鱗には赤い紋様が浮かび、脈動するように不気味に点滅していた。


『行ってくる』


「~~~~ッ。ああ、もう! どうなっても私は知らないからね!」


『ああ。リンデは任せた』


大地を蹴り、一気に空へと飛翔するレギン。


赤黒い煙と花粉に覆われた空を切り裂きながら突き進み、すぐにリンドブルムの下へ至った。


『リンドブルム!』


挨拶代わりに放たれる黄金のブレス。


太陽を思わせる黄金の光が、赤く染まった空を晴らす。


『は。はははははは! この力! その姿! やはり、やはりな!』


それを余裕を以て躱し、リンドブルムは目の前のドラゴンを睨む。


その姿は記憶のままだ。


今までは見たことも無い人型をしていた為に見覚えが無かったが、コレは本来の形だ。


『百花よ!』


リンドブルムの体から巨大な蕾のような物が幾つも伸びる。


『撃て!』


大砲のようにレギンに狙いを定め、砲弾が放たれた。


それは種子。


魔力を凝縮し、鉛と同等の威力を持った種子の弾丸だ。


『ふん』


しかしそれは、レギンの翼によって弾かれた。


鉛と同程度の弾丸になど、レギンの鱗は破れない。


竜体に至ったレギンの鱗は黄金。


傷付けることすら容易ではない。


『地を離れたのは失策だったな』


レギンの鱗が融け、そこから黄金の武具が突き出す。


『枯れ木には地上が似合いだ。墜ちろ!』


『ッ!』


武具の雨が放たれる。


剣、槍、矢、ありとあらゆる武具がリンドブルムを貫こうと襲い掛かった。


(まだだ。まだ躱せる…!)


枯れ葉のような翼を動かし、黄金の雨を躱すリンドブルム。


『逃がさん!』


それを見て、レギンもまた黄金の翼を広げる。


全身が黄金の塊であるとは思えない速度で空を舞い、リンドブルムへ迫る。


(速、い…!)


咄嗟に距離を取ろうとリンドブルムは翼を動かす。


だが、その背に武具の雨が突き刺さった。


『ぐっ…!』


躱したと思っていた黄金の武具は、意思を持つかのように方向を変え、リンドブルムを再び狙ったのだ。


不意打ちを受けてリンドブルムの動きが止まる。


レギンの爪が、リンドブルムへ届いた。


『もらった…!』


大きく広げた翼の片方を掴み、力のままに引き千切る。


『が、あああああああ!』


片翼を失い、リンドブルムは絶叫する。


力、速さ、両方に於いて黄金レギンはリンドブルムの上だ。


そんなことはリンドブルムも理解していた。


だからこそ、この場所を選んだ。


この地に種を植え付けて育てた『大輪』を利用することで、例え竜化してもレギンを殺せるように準備を整えていたのだ。


(何故だ。さっきから、魔力が…)


大輪が赤い花粉を放ち、町をリンドブルムの魔力で埋め尽くすことでリンドブルムは自身を強化していた。


それが先程から機能していない。


(大輪が、切られている?)


空から確認してリンドブルムはそれに気付いた。


リンドブルムがレギンと戦っている内に、町を囲うように設置していた大輪が切断されていた。


レギン達の仕業では無い。そんな隙は無かった。


(まさか、この町に他のドラゴン(・・・・・・)スレイヤー(・・・・・)が…?)


『…くそっ、どいつもこいつも私の邪魔ばかり!』


リンドブルムは失った翼を再生させ、辛うじて空を飛ぶ。


『何故理解できない! 私の能力を使えば、人は永遠に生きられる! 短い寿命に苦しむことも無くなると言うのに!』


『言葉も無く、思考も無い。そんなものは生きた人間じゃない。ただの植物だ』


それの何が悪い(・・・・・・・)! 言葉を返してくれなくても構わない! 笑いかけてくれなくても構わない! ただ生きてくれているだけで私は…私は…!』


『…悪いな。お前にもお前なりの理由があったのだろうが………終わりだ』


『ッ』


黄金の光が、リンドブルムの全身を呑み込んだ。

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