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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
二章 六天竜
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第四十二話


「今回は随分と好戦的じゃないか」


レギンは赤い花粉に包まれる町を見渡しながら、そう呟いた。


「俺達を殺す為だけに町ごと皆殺しなんてよ」


「皆殺し?」


涼し気な顔でリンドブルムは首を傾げる。


異常事態に逃げ惑う人々を眺め、小さく笑みを浮かべた。


「そんなことはしないさ。彼らには皆、花に生まれ変わってもらうだけだよ」


飛び交う悲鳴や怒声が聞こえている筈なのに、リンドブルムはただ笑い続ける。


あまりにも穏やかに。


自分の行為を善と信じる。


「お前のイカレた持論は聞き飽きた」


「そうかい? まあ、私もあなたに理解されようとは、もう思っていない」


穏やかな表情を浮かべるリンドブルムの眼がレギンを射抜く。


その眼の奥には、静かな殺意が宿っていた。


「皆を花に変えると言ったけれど、あなただけは例外だ」


「ほう?」


「あなたは殺す。私の子らを燃やしたあなただけは、許さない」


「ハッ、その方が分かり易くていいな」


レギンは不敵な笑みを浮かべて、黄金の剣を握った。


救うだの、助けるだの、言われながら殺意を向けられるよりは断然やり易い。


「だが、その前に教えろ。お前が知っている俺の記憶を」


「それには及ばない」


「何?」


訝し気な顔を浮かべるレギンに、リンドブルムは告げる。


「私は確かに黄金と呼ばれる竜について知っているが、それが本当にあなたである確信はない」


魔力、能力は以前の黄金と同じだが、その性格があまりに違い過ぎる。


かつての黄金ならリンドブルムが幾つ町を滅ぼそうと、顔色一つ変えなかっただろう。


故にリンドブルムは、そして六天竜はレギンを黄金であると認めていない。


だからこそ、ティアマトはリンドブルムに一つの命令を下した。


「これから私がそれを見極める。あなたが黄金である確信を得たら、知っていることを全て教えよう」


「…なるほど。それで、どうやって見極めるつもりだ? まさか、茶飲み話をする訳でもあるまい」


「簡単なことだ」


リンドブルムの頬に白い花のような竜紋が浮かぶ。


私に殺される程度なら(・・・・・・・・・・)それは黄金では無い(・・・・・・・・・)


「…ハッ」


リンドブルムから放たれる魔力と殺気を感じながら、レギンは笑みを浮かべた。


よく分からないが、かつての自分は大層な評価を受けていたらしい。


(傍迷惑な話だ。恨むぜ、前の俺…)


「行くよ。黄金の竜」


「来い!」








「始まりましたねェ」


交戦する二体のドラゴンを、黒フードの男が眺めていた。


人ならざる顔と体をフード付きのポンチョで隠し、物陰に潜んで二体を観察している。


『リンドブルムめ。珍しく熱くなっているじゃないか』


男の肩に付着した銀色の眼球から声が聞こえた。


『私は共に居る人間を殺し、その実力を見ろ、とだけ命じた筈だが』


「これは怒りがぶり返して、あわよくば殺す気満々ですなァ」


呆れたように黒フードの男は肩を竦めた。


元々ティアマトの命令はあくまでレギンの正体を見極めることだけだった。


それなのに、レギンに恨みを抱くリンドブルムは完全に彼を殺すつもりだ。


「万が一、黄金が彼に殺されたらどうします?」


『問題ない』


「へ?」


黒フードの男は首を傾げ、肩に乗っている眼球を見つめた。


ティアマトの反応があまりにもあっさりしていたからだ。


彼女にとっても『黄金』は特別な存在だった筈だが…


『黄金は何者にも殺されることは無い。仮に殺されたとすれば、偽者だ』


「…な、なるほど」


自信に満ちたティアマトの言葉に、男は曖昧な笑みを浮かべた。








「茨よ…」


リンドブルムが囁くと同時に、レギンの足下から無数の茨が伸びる。


以前戦った時にも見せたリンドブルムの能力だ。


「それは予測済みだ!」


だが、レギンはその攻撃を読んでいた。


リンドブルムは植物を操る。


故に正面だけでなく、常に地面にも意識を向けていた。


レギンの指先が黄金の爪に変化し、無数の茨を瞬く間に切り裂く。


「フッ!」


そして、最後に手にしていた黄金の剣をリンドブルムへと投擲した。


「縛れ」


新たに地面から伸びた茨が剣を縛り上げる。


投擲された黄金の剣は、リンドブルムの眼前で静止した。


「それで防いだつもりか?」


「!」


レギンの言葉を合図に、黄金の剣が弾けた。


形を失った黄金は、無数の棘へと姿を変えてリンドブルムに迫る。


その棘は一つ一つがレギンの一部。


全弾がリンドブルムを補足し、全身を貫く。


「ッ…またか」


しかし、棘の雨を浴びたリンドブルムの体が溶けるように消える。


残像。目の錯覚。


リンドブルムの速度がレギンの反応を超え、網膜に焼き付いてしまった虚像。


(…本当にそうか?)


疑問を抱きながらもレギンは見失ったリンドブルムを探す。


今までのパターンからすると、恐らくすぐ近くに…


「そこに誰か居るかい?」


「チッ…!」


声が聞こえると共に、茨がレギンの体を縛り上げる。


身動きを封じられるレギンの前には、植物の蔓のような槍を握るリンドブルムが居た。


「動かないでね。狙いが逸れるから、さ!」


植物性の槍を振り被るリンドブルム。


「滅竜術『電磁万有フライクーゲル』」


「ッ!」


レギンの心臓を貫こうとしていたリンドブルムは、身に迫る黒いスティレットを見て飛び退いた。


「逃がさない!」


回避しても投擲されたスティレットは止まらない。


魔弾は意志を持つかのように目標を追い続ける。


「………」


躱し切れないと思ったのか、再びリンドブルムの姿が掻き消えた。


目標を見失った魔弾が空しく地面に突き刺さる。


「くっ、私の魔弾でも追い付けないなんて…」


悔し気に顔を歪めるエーファ。


「これでもドラゴンスレイヤーでは一番速いのに。六天竜ってのはどいつもあんなに速く動けるのかしら」


「少なくとも俺は、あそこまで速く動けんな」


レギンは爪を使って己を縛る茨を切り裂きながら答えた。


「戦闘に於いて速さは重要よ。ここまで差があると、戦いにならないわ」


「…そこまで差があるようには見えないんだがな」


「何?」


言葉の意味が分からず、エーファは訝し気な顔を浮かべた。


これほど実力差がはっきりしておいて、何を言っているのか。


レギンとエーファはリンドブルムに攻撃を当てる所か、目で追うことすら出来ていないと言うのに。


「常にあのスピードを出せるなら、もう俺達の命はない。何故、最初から使わない?」


最初から目にも留まらぬ速度で動けるなら、そもそも戦いにならない。


それなのに、リンドブルムが『加速』するのはここぞと言う時だけだ。


「加速。そう、加速だ。奴は何らかの術を使っている」


エーファ達が使用する滅竜術のように。


リンドブルムが自身の速度を上げる能力を持っていても不思議ではない。


「…試してみるか」


レギンは黄金の剣を生み出し、それを手放した。


地に落ちた剣は形を失い、溶けた黄金が地面に広がっていく。


まるで血溜まりのように、レギンを中心に黄金の円が形成された。


「さあ、どこからでもかかってこい」


「………」


リンドブルムはレギンの作った黄金の円を観察する。


広がった黄金は全てレギンの一部。


恐らく、アレはレギンの『触覚』だ。


目では追えないリンドブルムを補足する為の罠。


全方位。


どこから来ても対処する絶対の護り。


だが、


(そんな物、意味が無いんだよ)


ほくそ笑むリンドブルムの姿が消えていく。


それとほぼ同時に、レギンの胸に裂傷が浮かんだ。


「ぐ…!」


「惜しい。浅かったようだ」


指先を血に濡らし、リンドブルムは嗤った。


先程と変わらず、レギンは何の反撃も出来なかった。


レギンにリンドブルムを捉えることは不可能。


ただ一方的に攻撃されるのみ。


「やはり、か」


レギンは黄金の円を見つめ、そう呟いた。


そこには、足跡が浮かんでいる。


「足跡だ。つまり、お前は空間を飛び越えて移動している訳じゃない。ただお前の移動に、俺達が気付かないだけだ」


「何を言っているんだい? そんなことは分かり切って…」


「それだけじゃない」


リンドブルムの言葉を遮り、レギンは確信を以て告げる。


「足跡ってのは歩いた場合と走った場合では形が異なる」


個人差はあるだろうが、多少の違いは必ず表れる。


レギンは黄金に刻まれたリンドブルムの足跡を見つめた。


「そしてコレは、歩いた者の足跡(・・・・・・・)だ」


「え。それって…」


レギン達の反応を超えた速度で移動しながら、リンドブルム自身はただ歩いていただけ。


残像を置き去りにして動くあの『加速』の正体は…


だ。アイツが速くなった(・・・・・・・・・)んじゃない(・・・・・)俺達が遅くなって(・・・・・・・・)いたんだ(・・・・)

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