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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
一章 竜殺し
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第四話


『クハハハ! 己の翼で空を飛ぶ感覚は、何度味わっても良いものだ!』


黄金の翼を大きく広げ、レギンは飛翔する。


陽光を反射するその体は全身黄金で出来ていると言うのに、重さを全く感じさせない速度。


鳥を追い越し、雲を切り裂き、レギンは上機嫌で空を進む。


『お前もそう思うだろう! リンデよ!』


レギンは前を向いたまま、自身の背に掴まるリンデに叫ぶ。


ある理由(・・・・)から、リンデの願いを叶えることにしたレギンはリンデの故郷へと向かっていた。


リンデ曰く、そこに彼女が救いたい『大切な人』とやらが居るらしい。


『ところでさっきから黙っているが、この方角で合っているのか?』


「―――ッ――」


必死に鱗にしがみ付きながらリンデが何やら叫んでいるが、風の音でレギンの耳には届かない。


『まあ黙っていると言うことは合っているのだろう! 更に速度を上げるぞ!』


「……………」


その言葉に、リンデはゆっくりと意識を手放したが、やはりレギンは気付かなかった。








「ど、どうして! 後ろに乗っている人のことを考えず! スピード出し過ぎちゃうんですか!」


『人なんて今まで乗せたことないからな』


「頼みを聞いてもらう立場で我儘を言っていることは理解していますが! どうか! どうか、安全運転でお願いします!」


休憩をする為に着陸したレギンに対し、リンデは半泣きになりながら叫んだ。


地上を歩くよりも速いから、とレギンの背に乗ったら酷い目に遭った。


危うく振り落とされて死ぬ所だった。


『仕方ない。これからは歩いていくか』


レギンは爪で頬を掻きながら言った。


「…この先は町も村もあるので、あまり目立つことはしない方がいいですよ」


今更ながら、リンデはそのことを思い出す。


レギンの言葉を聞いた時には、竜血を分けて貰えることに喜ぶあまり深く考えていなかった。


そもそも、どうやってこのドラゴンを自身の故郷まで連れて行こうか。


昔から、王国ではドラゴンによる被害が少なくない。


レギンが町や村に入れば、無用なトラブルに巻き込まれるのは火を見るよりも明らかだ。


『安心しろ。人の中に紛れる手段は考えている』


「と言いますと?」


『ドラゴンは肉の一欠片。血の一滴に至るまで魔力で出来ている。そして、その魔力を自在に操ることこそがドラゴンの力』


言葉を続けるレギンの肉体が波打つ。


その全身がドロドロと溶解し、小さくなっていく。


『俺は自身の肉体を同質量の黄金に変換できる。その能力を応用すれば、この通り』


一度溶けた黄金となったレギンの肉体が凝縮される。


黄金の山が人型へと収束する。


「人間体を装うことなど、容易い」


そこに居たのは、人間の男だった。


年齢は二十を超え、三十に届こうとする程度。


金色の眼は鋭く、人相はあまり良くない。


獣の皮を用いて作ったような原始的なコートとズボンに身を包んでいる。


黄金を思わせる見事な金髪を持つが、先端だけが赤く染まっているが特徴的だ。


「こんな感じで良いだろう。人に披露したのは、初めてだがな」


「まあ、その姿なら町や村に入っても大丈夫だと思います」


少々奇抜な容姿をしている為、別の意味で目立ってしまうかも知れないが。


「とにかく、ここからは徒歩だ。お前の故郷は遠いのか?」


「歩けば、あと数日程度ですね」


「ふむ。なら行くか」


「…その前に、一つ良いですか?」


さっさと前に進もうとするレギンを引き留めるリンデ。


その眼は真っ直ぐレギンの顔を見つめていた。


「どうして、私へ手を貸してくれる気になったのですか?」


レギンの勢いに圧されて、改めて聞けなかったことだった。


出会って間もないが、レギンはドラゴンだ。


ドラゴンは基本的に人間の敵であり、レギンも人を殺すことに何の躊躇いも無いようだった。


リンデの命を助けたのも、全て自分の為。


どう考えても善意からリンデに手を貸している訳では無い。


これから向かう先はリンデの生まれ故郷だ。


だから、せめてそれだけは聞いておきたかった。


「…別に隠す理由も無いが」


ぽつり、とレギンは口を開く。


「俺には、一か月より(・・・・・)前の記憶がない(・・・・・・・)


「…え?」


あっさりと告げられた言葉に、リンデは目を見開く。


「一か月前、俺はあの森で目覚めた。過去も記憶も、何もない。自分が何者なのかは、出会った人間共が身を以て教えてくれたよ」


レギンの傍に散らばっていた死体のことだろう。


次々と現れる人間達。


誰もが自分をドラゴンと呼び、武器を向けてくる。


それを返り討ちにする中で、レギンは人間とドラゴンの関係を学んだのだ。


「悪竜だ、邪竜だ、と問答無用で襲い掛かってくる勇者ばか共。黄金だ、財宝だ、と目の色変えて向かって来る盗賊ばか共…」


「………」


身に覚えのない理由(・・・・・・・・・)で襲われれば、お前だって腹も立つだろう?」


だから殺した。


殺されそうになったから、殺し返した。


ただそれだけだ。


「では、自分から人を襲ったことは無いと?」


「俺の記憶ではな」


ふん、と鼻を鳴らしながらレギンは言った。


記憶を失う前のレギンがどんなドラゴンだったのかは知らないが、少なくとも今のレギンには無意味に人間を襲う気は無い。


そう口にしたこともあったが、襲撃者達に信じられたことは無かった。


「お前を見た時、俺は何故か既視感を感じた。お前の傍に居れば、失った記憶を取り戻す手掛かりを掴める知れない」


「…それだけ、ですか?」


「それが今の俺の全てだ」


自分自身を取り戻す。


今のレギンが願うのは、それだけだった。


「記憶喪失…」


リンデはレギンを眺めながら呟く。


一般的に、ドラゴンが『成体』に成長するには約百年の時間が必要だと言われる。


人の寿命を超えた年月をレギンも生きてきた筈だが、それは何らかの理由で失われた。


自分が何者か分からない。


何を無くしたのかさえ分からない不安。


それは人であっても竜であっても、耐え難い苦痛なのだろう。


「…分かりました。何か私に出来ることがあれば何でも言って下さいね!」


グッと拳を握り締めて、リンデはレギンの顔を見つめた。


「あなたの記憶が早く戻るように、私も願ってますから!」


「お、おお…」


リンデの熱意に抑えれて、レギンは思わず少し後退った。


幾ら何でも簡単に信用しすぎじゃないか、と。


レギンがリンデに同行するのは、記憶を取り戻すのに利用する為であって、まさか本気で応援されるとは夢にも思わなかった。


(…変な奴)


改めてレギンはそう思った。

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