表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
二章 六天竜
31/135

第三十一話


「まさかこんな所でエーファさんに会うとは思いませんでしたよ」


路地裏を出てレギンと合流したリンデは、驚いたように言った。


「こっちの台詞よ。この町には入らないようにって、私言わなかったかしら?」


「そ、それは、その…」


じろりと睨むエーファにリンデは冷や汗を流す。


悪戯を親に見つかった子供、若しくは姉に叱られる妹のようだ。


「この町はあなたの住んでいた村とは違って危険が…」


説教を続けようとしたエーファは何かを目にして、顔を顰めた。


「…? あ、美味しそうな匂い」


エーファの視線を辿ったリンデは無邪気にそう呟く。


視線の先にはリンデも以前食べた串肉を売っている屋台があった。


鉄板の上で焼かれる肉の匂いが辺りに漂っている。


「う、うう…屋外で肉を焼いて食べるなんて、品が無いわね…」


何やら口元を抑えながらエーファは吐き捨てた。


顔色は青褪め、具合が悪そうに呻いている。


「どうしたんだ、コイツ?」


「エーファさんはお肉が嫌いなんですよ」


首を傾げたレギンにリンデは答えた。


確かに、リンデの故郷で食事をした時も肉は食べないと話していた。


宗教的な菜食主義かと思ったが、個人的な偏食でもあったようだ。


「脂身、脂身が…うっぷ。早くここから離れましょう…」


「情けないなァ。それでも天下のドラゴンスレイヤー様か?」


「人間は繊細なのよ。人でもゴミでも何でも食べるけだものと違って」


「その獣ってのは俺のことか?」


「他に誰が居ると思う?」


じろり、と睨んだエーファを睨み返すレギン。


剣呑な雰囲気を察して、リンデは慌てて二人の間に入った。


「と、とにかく、行きましょう! ほら! こんな所で立ち止まったら皆の迷惑ですよ!」








「この町に六天竜が…」


二人が泊まっているホテルまで戻ると、エーファはこの町に来た目的を告げた。


リンデとレギンは顔を見合わせる。


そう言えば、フライハイトも似たようなことを言っていた。


最初にレギンに襲い掛かってきたのも、探している六天竜と勘違いしたからだった。


「…一応聞いておくけど、あなたのことじゃないわよね?」


「当たり前だ」


レギンは憮然とした表情で言う。


エーファも本気で疑っていた訳では無いらしく、納得したように頷いた。


「一か月くらい前からこの町では行方不明者が続出しているのよ」


「別の犯罪に巻き込まれたのではないですか?」


リンデは自身を誘拐しようとしていた男達を思い出す。


人が姿を消す理由は、ドラゴンだけではない。


まして、この町には少なからずそう言う人間が潜んでいる。


「その可能性も否定は出来ないけど、明らかに数が増大しているのよ」


勿論、エーファも確実に六天竜が居ると言う確信がある訳ではない。


と言うより、そもそも六天竜の存在自体が不透明なのだ。


奴らについて知られていることは非常に少ない。


分かっていることはドラゴンスレイヤーさえ超える力を持つことと、共通して竜紋ファフナーを身に刻んでいることくらい。


滅多に目立つ行動を取ることは無く、たまにふらりと現れては災厄のように大量の犠牲者を出してまた姿を消してしまう。


だからこそ、ドラゴンスレイヤー達は国中に目を光らせている。


一般的なドラゴン退治の合間に各地の『異変』を調査し、そこに六天竜の痕跡が残っていないか探し求めているのだ。


「このルストも、ドラゴンスレイヤーが調べている異変の一つ。まあ、見つかれば良いとは思うけど、今の所は何も」


手掛かりが掴めないことなど日常茶飯事なのだろう。


エーファは特に残念そうには見えなかった。


「調査と言っても、人間に紛れ込んだドラゴンをどうやって見つける?」


「私の場合は、ドラゴンの持つ気配を探るかな」


人間に魔力を感知することは出来ないが、熟練のドラゴンスレイヤーはドラゴンの持つ気配を感じ取ることが出来る。


以前、エーファが初対面のレギンの正体を見破ったように。


「だが、フライハイトは最初、俺に気付かなかったぞ」


「それはロザリオの効果であなたの気配を抑えていたからでしょう?」


それが無ければ、鈍いフライハイトでも流石に気付いていただろう。


「人間のお前に用意できる物が六天竜には用意できないと、どうして思う?」


「それは…確かにそうね」


レギンの指摘にエーファは頷いた。


道具を作り、利用すると言う行為を人間だけの特権だと考えていた。


人間と同等以上の知性を持つ六天竜がその発想に至らない訳が無い。


「なら、六天竜は気配を隠して完全に人間に化けている?」


「この世で最も多い生物は人間なんだ。だったら、人間に混じるのが一番賢い方法だと思うが」


「そうだとすれば、厄介ね」


魔力と気配を除けば、人間体の竜を見分けるのは難しい。


目の前にいるレギンが良い例だ。


魔力を計測する魔道具『ドラッヘの黒天秤』などがあればドラゴンを見つけ出せるが…


(駄目ね、アレは扱いが難しい。私では使えない)


あの天秤は遥か昔に作られた古代文明の遺物だ。


使用するには繊細な魔力制御が必要となる。


今の所、アレを扱えるのはフライハイトだけ。


だからこそ、今回の任務に最初に選ばれたのだろう。


「俺が魔力計測器の代わりをしてやろうか?」


「え?」


「レギン?」


意外な提案にリンデとエーファは不思議そうな顔でレギンを見た。


その視線を受けてレギンはフッと小さく笑みを浮かべる。


「六天竜ってのに、俺も会ってみたいんだよ。俺と顔見知りの可能性が高いからな」


「なるほど。確かにそうですね!」


ポン、と手を鳴らしてリンデは言った。


どこか嬉しそうに見えるのは、レギンの記憶の手掛かりが得られそうだからか。


「…例え顔見知りであっても、私は容赦しないわよ?」


忠告するようにエーファは告げる。


色々あってレギンのことは見逃しているが、他の六天竜まで見逃す理由はない。


何せ、エーファの探している仇敵も六天竜の一体なのだから。


「好きにしろ。俺は自分の記憶を取り戻したいだけだ」


レギンとしても、それに思うことは無い。


かつてどう言う関係だったのかは知らないが、今のレギンにとっては他人だ。


「そう、それは良かった。もしドラゴンを庇い立てすれば、諸共滅ぼすつもりだったから」


「信用ねえな。まあ、当然か」


肩を竦めながらも、レギンは納得する。


エーファはドラゴンに身内を殺されているのだ。


一度見逃すと決めていても、その敵意を消し去ることは出来ないだろう。


「リンデ。ちょっと外に出ていろ」


「へ?」


「いいから、コイツと二人きりで話したいことがあるんだよ」


そう言われてリンデは不安そうな表情を浮かべる。


ちらちらとレギンとエーファの顔を交互に見つめていた。


「私は平気だから行きなさい。大丈夫、例えこのドラゴンが襲ってきても返り討ちにするから」


「そ、それはそれで不安なんですが…」


最後まで不安そうにしながらリンデは恐る恐る部屋から出ていった。


二人きりになった部屋で、エーファは不機嫌そうにレギンの顔を睨む。


「それで? 私に何の用かしら?」


「アイツの特異体質について、お前は知っていたのか?」


「ッ」


レギンの言葉にエーファは息を呑んだ。


苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、重々しく口を開く。


「…気付いたの?」


「ああ、フライハイトの時のいざこざでな」


「あの人も気付いたと思う?」


「いや、多分奴は気付いていないだろう」


「そう…」


深いため息をついてエーファは椅子に座った。


「その様子だと気付いた上で隠していたようだな」


「言える訳ないでしょう。魔力が減らない体質なんて、聞いたことないわ」


どんな生物であろうと、魔力は使えば消耗する。


それはドラゴンであっても抗えない絶対の法則。


休息を取ればいずれ回復するだろうが、それでも使用した直後に回復するのは異常だ。


「私が王都で初めてあの子に会った時、既にあの子の魔力は私以上だったわ」


「だから、弟子に取ったのか」


「自衛手段を身に着けないと危険だと思ったのよ。あまりにも危なっかしくて」


エーファ以上の魔力を持ちながら、リンデはその魔力を持て余していた。


ドラゴンが人間を喰らうのは魔力を得る為だ。


だから魔力の多い人間はドラゴンに狙われ易い。


ドラゴンスレイヤー並みの魔力を持ちながら一般騎士より実力の低いリンデなど、襲って下さいと言っているような物だった。


「ある程度の実力を付けさせたら実家に帰して、静かに暮らさせるつもりだったのに」


リンデはドラゴン退治に出てしまった。


それに気付いた時、エーファは卒倒するかと思った。


その相手がレギンであったことは、不幸中の幸いだった。


「あの子はドラゴンスレイヤーになるべきではないわ。性格が優し過ぎるし、危険よ」


「まるで過保護な姉のようだな」


「…そうね。妹だったから、姉の気持ちも少し分かるのよ」


ドラゴンスレイヤーなんてろくな物じゃない、とエーファは思っている。


人を外れた力を振るい、人を超えた怪物と殺し合う毎日。


エーファ自身はドラゴンスレイヤーになったことを後悔していないが、こんな物にならなくて済むなら絶対にその方が良い。


「ふう。とにかく、あの子の体質のことは絶対に秘密よ。特にドラゴンには」


「他人の秘密を言いふらす趣味はねえよ」


「なら良いわ。ああ、それと」


そう言ってエーファはベッドを見つめた。


部屋に二つあるベッドと荷物を眺め、じろりとレギンを睨む。


「あの子も年頃なんだから、同じ部屋に泊まるんじゃないわよ!」


「…ああ? 俺が人間の女なんぞに興味持つと思っているのか?」


「思わないけど! それでも同じ部屋から出入りしたら、あの子が変に思われるでしょうが!」


顔を少し赤らめて言うエーファ。


本当に、実の姉のような反応だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ