表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
一章 竜殺し
27/135

第二十七話


「そらそらそらぁ! 逃げてばかりかよ!」


「…くっ」


魔剣を振るうフライハイトにレギンは防戦一方だった。


真紅に染まった魔剣は、レギンの剣を容易く断ち切った。


それはレギンの鱗すら何の守りにもならないことを意味する。


防御不能の攻撃を前に、レギンはただ受け止めることも出来ずに回避し続けるしかなかった。


「『屠竜一閃』」


瞬間的に剣速が上がった。


先程よりも威力が増した一撃。


それは回避行動を取るレギンの一瞬の隙を突き、その首を刎ねる。


「シッ!」


首を刎ねてもフライハイトの動きは止まらない。


頭部を失ったレギンの肉体へと魔剣を振り下ろす。


首だけではなく、心臓も破壊する為に。


「!」


バラバラに切り刻もうと剣を振るった瞬間、フライハイトはその場から飛び退いた。


寸前までフライハイトが立っていた場所に黄金の槍が突き刺さる。


「チッ、外したか」


回収した頭部をくっ付けながらレギンは舌打ちをした。


「…そう言えばその武器も全部、お前の一部だったな」


フライハイトは思い出したように呟く。


レギンの操る黄金の武器は全てレギンの魔力で作られた肉体の一部。


例え手から離れても、自在に操作できる。


今のは最初の落下の時に手放していた槍を、手元に引き寄せたのだ。


「………」


地面に突き刺さった槍とレギンを見比べてから、フライハイトは魔剣を振り上げる。


「『レベルⅢ』」


(コイツ、まだ…!)


フライハイトの『紅剣脈動』が更に一段階強化される。


魔剣に込められた魔力は既に人間でも知覚できる程。


膨大な魔力が可視化し、赤い霧となって魔剣を包んでいる。


段階ギアを一つ上げた。最終段階トップギアには程遠いが、コレで十分だろう…」


刀身を纏う赤い霧が回転する。


魔剣を中心に真紅の魔力が渦を巻き、収束していく。


「俺のとっておき、その身で味わえ!『屠竜飛刃とりゅうひじん』」


魔剣が振り下ろされると同時に、魔剣を纏う霧が解き放たれる。


それは真紅の斬撃だった。


大気を切り裂き、鎌鼬の如き一撃がレギンに迫る。


(躱し、きれな…!)


最後の足掻きとばかりに皮膚を黄金の鱗で覆ったが、無意味だった。


レギンの足に激痛が走る。


両足の、膝から先が失われていた。


「ぐ…あ…!」


支えを無くしたレギンの体が地面に崩れ落ちる。


すぐに再生を始めるが、フライハイトがそれを待つ筈も無く、魔剣を手にして迫った。


(もう容赦はしないってことか…!)


地面に倒れたまま、レギンはフライハイトを睨んだ。


フライハイトは隠していた滅竜術まで使用して勝負を決めに来た。


出し惜しみはもうしないつもりだろう。


(…出し惜しみ)


レギンは心の中でその言葉を繰り返す。


そもそも、どうしてフライハイトは手加減などしたのだろう。


レギンを相手に慢心したのだろうか。


それもありそうだが、フライハイトは見かけに反して合理的な戦闘を好む。


わざわざ鱗を避けて攻撃するくらいなら、初めから全力で鱗ごと斬れば良かった筈だ。


(勝負を決めに来ているのに、全力を出さないのも不自然だ)


戦いに於いて、手加減をする理由はどんな物があるだろう。


敵に対して情けを掛けている、と言う場合もあるが、今回は明らかに違う。


だとするなら、理由は敵ではなく、自分。


フライハイト自身(・・・・・・・・)に本気を出せない(・・・・・・・・)、或いは出したくない理由(・・・・・・・・)があるとすれば?


(…あの魔剣)


レギンがフライハイトと出会った時から目にしていた部分。


フライハイトは魔剣を五本も所有している。


人間の腕は二本だ。五本同時に扱うことは出来ない。


事実、フライハイトは背負っていた魔剣一本のみを使用し、両腰に携えた四本の魔剣には触れることすら無かった。


一体何の為に、あれだけの魔剣を。


(ッ! まさか、コイツの術の正体は…)


「隙あり」


思考に耽るレギンの隙を突くように、フライハイトの魔剣が振るわれた。


咄嗟にレギンは再生した足で立ち上がるが、僅かに反応が遅れる。


「何を考えていたのか知らねえが、隙だらけだぜ…」


「…ッ」


魔剣で袈裟斬りにされたレギンの傷口から血が噴き出す。


返り血で真っ赤に染まったフライハイトは、冷めた目でレギンを見下ろしていた。


仰向けに倒れたレギンの体を踏み付け、魔剣を向ける。


「悪足掻きもこれまでだ。潔く死ね」


「こんな所で、死ねるか…!」


フライハイトを見上げるレギンの口内に黄金の光が収束していく。


傷口の再生すらも一時中断し、この体で振るえる全魔力を込めて『ブレス』を放つ。


「人間体の状態でブレスを放つのは見事だが、その程度の魔力で…!」


普通の人間なら跡形も無く消し飛ぶ威力だが、フライハイトはドラゴンスレイヤーだ。


ドラゴンのブレスなど、今までに何度もこの身に受けてきた。


その上でフライハイトは確信する。


この程度のブレスでフライハイトの魔剣を阻むことは出来ない、と。


「レギン!」


その時、この場に居るもう一人の声が聞こえた。


瞬間、その場の魔力濃度(・・・・)が急激に上昇した。


「…………何?」


自身にすら迫る高い魔力を感じ取り、フライハイトは視線をリンデに向ける。


リンデは祈るように手を組み、瞼を閉じていた。


その身体からは絶えず、膨大な魔力が流出し続ける。


「『魔力流出』…だと? お前、何をやっている…!」


血相を変えてフライハイトは叫ぶ。


コレは攻撃ではない。


ただの暴走だ。


自身の魔力を周囲に流出してしまう事故。


それをリンデは意図的に行っている。


(この魔力はドラゴンスレイヤーでも無い人間が放てるレベルじゃない! 生命力が枯渇して死ぬぞ…!)


自殺行為以外の何物でもない。


そんなことをして何の意味がある。


周囲を自身の魔力で満たした所で何も…


「隙あり、だな」


「!」


先程の意趣返しのようにレギンが呟いた。


レギンの口内から黄金の炎が放たれる。


その威力は、フライハイトの想定より遥かに上だった。


(そうか…! 周囲を魔力で満たすことで、レギンの魔力を回復させて…!)


コレは受け切れない、と判断してフライハイトはその場から飛び退く。


「逃がさん!」


レギンは剣を手に起き上がり、フライハイトを追う。


リンデが流出した魔力を吸収し、体の傷は全て再生していた。


「馬鹿が…! 不意を打たれなければ、お前など!」


ドン、と地面を踏み締め、フライハイトは魔剣を構えた。


傷が再生した所で状況は何も変わらない。


何度でも切り刻んでやる。


「黄金よ…!」


レギンは手にした黄金の剣に魔力を込める。


ボコボコと形状を変化させ、フライハイトの魔剣と打ち合った。


「何だ、それは…」


レギンが作り出したのは、櫛のような形の剣だった。


ギザギザとした歯が並ぶ短めの剣。


それはまるで喰らい付くようにフライハイトの魔剣を絡め取り、動きを止める。


櫛の部分が絶妙に魔剣の刀身を受け止めているが、この剣は敵の武器を封じる物ではない。


ソードブレイカー(・・・・・・・・)と名付けられたこの剣の本来の役割は…


「ッ! お前、まさか…!」


ギギギ、と軋む魔剣の悲鳴を聞き、フライハイトはレギンの狙いを悟る。


武器を封じる所ではない。


この男は、フライハイトの魔剣を破壊するつもりなのだ。


「俺の魔剣は強化術が施してある! そんな物で折れる訳がねえだろうが!」


「何、分かり切ったことだ」


レギンは笑みすら浮かべて、フライハイトに告げた。


研ぎ過ぎた刃(・・・・・・)は脆くなる(・・・・・)。当然だろう?」


バキン、と致命的な音を立てて、魔剣が破壊された。


砕け散る魔剣の残骸を目にしながら、呆然とフライハイトは目を見開く。


「お前、気付いて…!」


「お前の『紅剣脈動フルンティング』には致命的なデメリットがある」


レギンは淡々とその正体を告げる。


「それは、込める魔力を上げれば上げる程に魔剣を擦り減らしてしまうことだ」


研ぎ過ぎた刃は脆くなる。


フライハイトの強化術は強過ぎた。


魔力を通し易い魔剣であっても、内側から崩壊してしまう程に強力だった。


それ故に、フライハイトは最強の強化術を持ちながらも最初から使ってこなかった。


恐らく、最大強化などしたら魔剣の方が耐えきれずに数秒で崩壊してしまうのだろう。


だからこそ、フライハイトはレギンに合わせるように魔力を制限した。


出来る限り本気を出したくなかった。


「魔剣を五本も持っているのがその証拠だ。それはスペアだろう?」


万が一、メインとなる武器を失った時の為に、サブの武器を持つ者は居るだろう。


だが、流石にスペアとして四本もの武器を持ち歩く者は居ない。


それはフライハイトの使用する術が、それだけ武器を消耗する物であることを意味する。


「お前の能力の正体は、全て見切った…!」


「…だから、どうした!」


勝ち誇るように迫るレギンに対し、フライハイトは腰の剣に手を当てる。


「スペアは幾らでもあるんだよ! たった一本砕いた所で…!」


言いかけて、フライハイトの動きが止まった。


鞘から剣が抜けない。


見ると、鞘と剣が黄金のメッキのような物に覆われ、固まっていた。


先程浴びたレギンの返り血だ。


それが黄金へ変化し、フライハイトの魔剣を全て封じている。


「テ、テメェ…!」


フライハイトに斬られたのは、計算の内だったのか。


能力の正体に気付き、スペアを先に潰す為に、わざと隙を作ったのか。


「俺の勝ちだ。フライハイト」


黄金の剣が、フライハイトへと振り下ろされる。


「チク、ショウ…」


悔し気にレギンを睨みつけたまま、フライハイトは血溜まりに沈んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ