表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
一章 竜殺し
25/135

第二十五話


「くそっ、やりやがったな。アイツ」


地面に空いた大穴の上で、レギンは舌打ちをした。


四階以上の高さから転落したが、大して傷は負っていない。


落下している途中で無くした槍の代わりに黄金の剣を生成する。


「レギン! 無事ですか!」


「問題ない。それよりアイツは…」


黄金の剣を握り締め、空を睨む。


視線の先でフライハイトが空から地上に降り立つ。


「………」


フライハイトは無言でレギンとリンデを見つめていた。


背中に生成していた翼も消し、訝し気な顔で口を開く。


「リンデ」


「は、はい? 私ですか?」


まさか自分が呼ばれるとは思わず、リンデは動揺しながらフライハイトを見た。


「お前、さてはそこのドラゴンに誘拐されていないな?」


「…へ?」


「何だよ、人が折角心配して飛んできてやったのに! 俺の勘違いかよ!」


パシッと顔に手を当てて、フライハイトは叫んだ。


フライハイトが襲撃を仕掛けたのはそれが理由だった。


天秤で六天竜の存在を感知した後、本来ならもう少し様子見をするつもりだったが、感知したレギンの傍にリンデが居たので焦っていたのだ。


「六天竜の一体が最近この町に出没するって聞いたから、今度はお前が狙われているのかと」


「ち、違いますよ! レギンがこの町に来たのは今日が初めてですから!」


フライハイトの誤解に気付き、リンデは慌てて否定する。


詳しい事情は知らないが、フライハイトは別の六天竜を追ってこの町に来ていたらしい。


それがどんなドラゴンかは知らないが、レギンで無いのは確かだろう。


(よく分からないけど、誤解が解ければ…)


「丸く収まる、なんてことはないよな」


リンデの心を読んだようにレギンは呟く。


その手には黄金の剣を構え、油断なくフライハイトを睨んでいた。


「ああ、当然だろう? 任務外とは言え、目にした悪竜を見逃す道理はねえ」


フライハイトも笑みを浮かべてレギンを見る。


どこぞの修道女(・・・・・・・)とは違ってな?」


「ッ!」


息を呑むリンデを見て、フライハイトは更に笑みを深めた。


「やっぱりか。そりゃあ、そうだよなぁ! あの女が気付かない筈がねえ! おまけにそこのドラゴンが付けているロザリオ、アイツのだろう?」


確信を得たようにフライハイトは告げる。


気付かれた。


エーファがレギンを見逃したことを、知られてしまった。


「ドラゴンスレイヤーがドラゴンを見過ごすことの意味、分かっているのかよ? ハハハッ! 上にチクればアイツはどうなるのかねぇ?」


「れ、レギンは悪いドラゴンではありません! エーファさんだってそれを認めてくれました!」


「…まあ、そうなんだろうな。あの堅物女が認める程なんだからな」


フライハイトはエーファの性格を知っている。


彼女がドラゴンに情けを掛けることは有り得ない。


それでも彼女がレギンを見逃したと言うのなら、レギンの中に『人間性』を見たからだろう。


レギンをドラゴンではなく、人間と認識してしまったから殺せなくなってしまった。


「だが、それがどうした(・・・・・・・)?」


「…え?」


「そいつが本当に無害だとして、これまでもこれからも人を襲わないと誓ったとして」


フライハイトは人差し指を立てながら話す。


世の中を知らない子供に現実を教えるように。


周りの人間(・・・・・)はどう思う(・・・・・)?」


「それ、は…」


どれだけリンデが言葉を尽くしても、人々は怯えるだろう。


ドラゴンであるレギンを恐れ、敵意を向ける。


「俺にはそれが全てだ」


フライハイトは背負っていた一本の剣を握った。


「大衆が肯定する存在は生かす。俺は英雄だから。大衆が否定する存在は殺す。俺は英雄だから」


抜き放った剣をレギンへと向けるフライハイト。


「ハッ、要は大衆の顔色を窺っているだけだろう」


「否定はしねえよ。だって、誰かに認められるのは気持ちが良い(・・・・・・)


「………」


「…俺は他のドラゴンスレイヤーとは違って、別にドラゴンに家族を殺されてもいないし、故郷も滅ぼされていない」


ドラゴンスレイヤーを目指す大半の人間がドラゴンの被害を受けた者達だ。


ドラゴンへの憎しみだけで戦う彼らとは異なり、フライハイトはドラゴンを憎んだことは無い。


「俺がドラゴンスレイヤーとなったのは、それが一番俺の『理想』に近かったから。世界中の誰もが認める英雄になると言う俺の夢を叶えるのにな!」


ただそれだけの為に努力し、ここまで至った。


ある意味では不純であり、ある意味では誰よりも純粋である理想。


「さあ、特に恨みは無いが俺の夢の為に死んでくれ。レギン!」


言葉と共にフライハイトは地面を蹴った。


手にした剣を構えたまま、レギンへと襲い掛かる。


(エーファより遅い…)


レギンは自身に迫るフライハイトを見据え、剣を握る手に力を込めた。


フライハイトも身体強化は使っているのだろうが、反応すら出来なかったエーファに比べればかなり遅い。


ドラゴンスレイヤーごとに得手が違うのだろう。


「行くぜ。滅竜術『紅剣脈動フルンティング』」


瞬間、フライハイトの握る剣の刀身が伸びた(・・・・・・)


レギンはその剣に込められた膨大な魔力を感じ取り、表情を歪める。


「…くっ」


フライハイトとレギンの剣が衝突する。


つば競り合う二人だが、表情は明らかにフライハイトが優位だった。


片手で剣を振るうフライハイトに対し、レギンは両手で握った黄金の剣で受け止めている。


「…ドラゴンにすら匹敵する怪力。それに、魔力を帯びた剣。竜爪クリンゲとか言う術か」


「正解。俺の『紅剣脈動フルンティング』は武器強化の極致! どんなナマクラだろうが、たちまち竜殺しの剣に変えちまう滅竜術だ!」


ギギギ、とレギンの剣を圧しながらフライハイトは告げる。


「それに加えて、俺の持つこの剣は全て一級品。魔力を通し易い特殊な鉱石『魔石』を加工して作られた『魔剣』だ」


全身に五本所有する魔剣を示すフライハイト。


ただの木の枝でもナイフすら断ち切る刃に変えた術だ。


魔力を通し易い魔剣を強化すれば、その力は本物の竜の爪にも勝る。


「チッ」


このままでは圧し負けると判断し、レギンは剣から片手を離す。


手放した左手をフライハイトの顔へ向け、その手の平から黄金の刃を放つ。


「ふッ」


すかさずフライハイトは距離を取り、それを躱す。


ダメージは無かったが、一旦仕切り直すことに成功し、レギンは息を吐いた。


(力圧しでは勝てない)


レギンは油断なくフライハイトを見る。


彼から感じる魔力はエーファより上だ。


そして、レギンはエーファに敗北している。


今までのように自身の魔力によるゴリ押しではドラゴンスレイヤーには勝てない。


(知恵を巡らせる必要がある。獣の戦いではなく、人の戦いをする必要が)


負ける訳はいかない。


ここで負ければレギンが殺されるだけではなく、彼を見逃してくれたエーファにまで迷惑が掛かる。


レギンは人でなしのドラゴンだが、恩知らずの外道ではない。


(覚える必要がある。この戦いの中で)


レギンはそう心の中で呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ