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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
一章 竜殺し
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第二十一話


「もう少しゆっくりしていけば良いのに…」


「そういうはいかないよ。まだまだ修行中だからね」


別れを惜しむフルスに対し、リンデは苦笑する。


リンデもゆっくりしたい気持ちはあるが、早く王都に戻らなければならない。


「すぐに一人前のドラゴンスレイヤーになって帰ってくるから。ね?」


「…辛いことがあったらすぐに儂に言うんじゃぞ」


「あはは。うん、分かっているよ」


嬉しそうに笑うリンデにフルスも笑みを浮かべる。


血は繋がっていなくても、そこには確かに家族の絆が存在した。


「………」


レギンは無言でそれを興味深そうに眺めていた。


「何か不思議なことでもありましたか?」


そうレギンに声を掛けるのは、リンデの祖母だった。


その小柄な背中を一瞥し、レギンはすぐに視線をリンデに戻す。


「別に何でも無い。ただ…」


レギンは思ったまま口を開く。


「アイツは、記憶が無くても笑っているのだな」


少しだけ羨望を含んだ声でレギンは言った。


レギン同様に己の過去を知らず、記憶すら無かったと言うのに、今は笑っている。


そんなリンデが羨ましかった。


「自分のことを思い出せなくても、家族は得られるのだな」


「ええ。そんなの当たり前じゃないですか」


リンデの祖母は朗らかに笑った。


彼女達はリンデの過去など気にしていない。


何も知らないリンデを、それでも本当の家族だと思っている。


「そんなものか…」


レギンはどこか眩しそうに目を細めた。








「王都までは、この道を真っ直ぐですね」


村を出て、地図を広げながらリンデは言った。


「途中、ルストと言う町がありますので、今日はそこを目指しましょう」


「そこはどんな所なんだ?」


「王都と私の故郷の丁度、中間辺りにある町なんですが…」


そこまで言ってリンデは少し言い淀む。


何か言い難いことがあるのか、チラチラとレギンの顔を見た。


「所謂『歓楽街』と言うやつですね。王都に近いので、多くの人が遊びに来る夜の街です」


「ほう。夜の街ねェ」


王都では出来ないような色々な『娯楽』に溢れた町なのだろう。


食、酒、女、人の欲に限りは無い。


レギンは大して興味は無いが、知識だけはある。


「…ここだけの話。実は私、その町に入ることを禁止されているんです」


「誰に?」


「エーファさんに」


「ああ…」


確かにあの女なら言いそうだ、とレギンは納得した。


生真面目で禁欲主義なエーファは、その手の娯楽を毛嫌いしているに違いない。


何かと目を掛けているリンデを近付けたくないのだろう。


「馬車を使えば今日中に王都に着くことも出来るんですが…どうします?」


「あー、馬車は止めておこう」


「どうしてですか?」


気まずそうに言うレギンに、リンデは首を傾げた。


「人間以外の動物は感覚が鋭い。馬が俺の本性に怯えて使い物にならなくなるぞ」


馬に怯えられた経験でもあるのか、苦々しい顔でレギンは言った。


今は人間のふりをしているのだから、余計なトラブルを作る訳にはいかない。


「では、やっぱり当初の予定通りに行きましょうか!」


「…何か嬉しそうだな?」


「い、いえ、そんなこと無いですよ?」


「………」


レギンはじっと誤魔化すリンデの背を見つめる。


真面目な娘に見えたが、意外と悪い遊びに興味があるのだろうか。


年頃らしく、好奇心が抑えられないのかも知れない。


「…ふう」


とは言え、エーファも自分の主義を押し付けるつもりで禁じた訳でもないだろう。


このお人好しで、人の悪意に鈍感すぎるリンデが一人で歓楽街に入ることに不安を感じたのだ。


歓楽街と言うのは、大勢の人間が集まる場所だ。


当然、良い人間もいれば、悪い人間もいる。


そんな人間にとってリンデは格好のカモだろう。


誰かに騙されてあっさりと連れ去られることは、想像に難くない。


(まあ、俺も本で読んだだけだが)


少なくとも、この『おのぼりさん』よりはマシだろう。


(…少し注意して見ておくか)


うっかり誘拐でもされたら、王都でエーファに何をされるか分からない。


流石にそんな理由で殺されるのは御免だ。


気を付けておかなければ。


「…ルスト、か」


レギンは先を見つめながら呟く、


娯楽はさておき、大勢の人間が集まる場所と言うのは興味がある。


それだけ人間が居るなら、情報も沢山あるだろう。


リンデの父親も、レギンの記憶も。


王都に着く前に手掛かりが得られれば、御の字だ。

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