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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
一章 竜殺し
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第十七話


「レギン、まだ起きてますか?」


その夜、リンデはレギンの部屋を訪れていた。


風呂上りなのか、やや濡れた髪を揺らしながら部屋の扉をノックする。


返事は、無かった。


「もう寝ちゃったんですか?」


再度ノックするが、変わらず返事は聞こえない。


少し不思議に思い、静かに扉を開く。


「レギン? ちょっと聞きたいことが…」


そこまで言いかけて、リンデは首を傾げた。


レギンが居ない。


部屋を見回しても、レギンの姿はどこにもなかった。


「こんな時間にどこへ?」


リンデは窓の外を眺め、そう呟いた。








「………」


同じ頃、レギンは村外れにある小さな森に来ていた。


何となく、レギンが以前住処としていた森に似ている気がする。


微かに聞こえる動物の声を聞きながら、一人で月を見上げている。


「こんな夜分遅くに呼び出してごめんなさい」


一人佇むレギンの後ろから声が聞こえた。


暗い夜闇に溶けるような黒装束。


エーファだった。


レギンの部屋に置いてあった手紙。


その送り主はエーファだったのだ。


「それで? 俺に何の用だ?」


手紙には『あなたの正体について話がある』と書かれていた。


恐らく、レギンがドラゴンであることに気付いているのだろう。


歴戦のドラゴンスレイヤーなら、むしろ気付かない方がおかしい。


だが、いきなり襲い掛からず、わざわざ呼び出したのには何か意味があるのだろう。


それに、レギンの正体に(・・・・・・・)ついて知っている(・・・・・・・・)、と言うのは本当にただドラゴンであると言うだけか。


何かレギン自身も忘れてしまったレギンのことを知っているのではないか。


そんな思いから、レギンはこの誘いに応えたのだ。


「用件は簡単よ。リンデはあなたの正体を知っているのかしら?」


「知っているさ。そもそもアイツは俺の血を使ってあの爺を治すつもりだった」


「…そう。知っていたの」


フッ、とエーファは失笑した。


仮にもドラゴンスレイヤーに教えを受けた者が、ドラゴンと仲良くしていることに呆れたのだろう。


「まあ、いいわ。そのことについては後で、あの子に説教をすれば良い」


そう言ってエーファは足に付けたスティレットを取った。


黒く塗りつぶした十字架のような形状の短剣を、ゆっくりとレギンへ向ける。


「あなたはどうして、あの子に近付いたの?」


「成り行き、と言うのもあるが、一番は記憶を取り戻す為だ」


「記憶?」


予想外の言葉にエーファは小首を傾げる。


「俺は所謂記憶喪失、と言うやつでな。自分のことを何もかも覚えていない」


別に隠すことでも無い、とレギンは正直に自身の目的と理由を語る。


リンデの味方になったつもりは無いが、わざわざ敵対するつもりも無いと。


「記憶喪失。なるほどね…」


納得したようにエーファは何度も頷き、ひらひらと手を振った。


(ん?)


その動作にレギンは訝し気な顔を浮かべる。


エーファは何も持っていない手をぶらぶらさせているが、ついさっきまで握っていたスティレットはどこへ消えた?


「ッ!」


その答えは、レギンの眉間から伝わる衝撃で理解した。


不意打ちを受けたレギンの体が後ろに倒れ込む。


仰向けに倒れたレギンの額からは、一本のスティレットが伸びていた。


「…会話中にいきなり不意打ちとは、意外と行儀が悪いな」


起き上がり、額に刺さったスティレットを抜きながらレギンは呟く。


「失礼。ドラゴン相手に振る舞う行儀など、教わらなかった物で」


冷笑を浮かべながらそう告げるエーファ。


その表情は、昼間に見た物ではない。


冷徹で、そしてドラゴンに対する憎悪に満ちた顔。


ドラゴンスレイヤーとしての顔だ。


「記憶喪失か。上手い言い訳を考えたものね」


冷ややかな表情のまま、エーファは告げる。


「人は、罪人を罰することは躊躇わないけど、もしその相手が自分が犯した罪すら忘れていれば、戸惑うでしょう」


記憶喪失となった者は、記憶があった頃の者と同一人物なのか。


記憶を失う前に犯した罪を、記憶を失った者に償わせて良いのか。


罪の在り処に戸惑うことだろう。


「そう言ってあの子の同情を引いたのでしょう? 薄汚いドラゴンの考えそうなことだわ」


「随分と、ドラゴンが嫌いなようだな」


「ドラゴンが好きな人間なんてこの世に居ないわよ」


バチバチ、とエーファの体が雷を放つ。


リンデが滅竜術を使用した際とは異なり、その色は黒。


どす黒い雷を全身から放っている。


「私は『漆黒』のドラゴンスレイヤー。その名の由来は、見ての通りよ」


「電撃か。その程度の魔力で俺を殺せるとでも?」


額の傷を完全に再生させ、レギンは不敵な笑みを浮かべる。


確かにエーファの魔力量は人間離れしているが、レギン程では無い。


エーファが全魔力を使って電撃を放った所で、レギンの魔力は削り切れないだろう。


「その油断と慢心が、あなた達の弱点よ」


バチチッ、とエーファの手元が黒い光を放った。


それは黒い弾丸。


真っ直ぐレギンを貫こうと迫るスティレットだった。


(また投擲? 電撃じゃない…?)


その攻撃方法を不思議に思いながらも、レギンは回避行動を取る。


速い、が先程のように不意を打たれた訳では無い。


ドラゴンの動体視力を以てすれば、容易く躱せる。


その筈だった。


曲がれ(・・・)


「…何?」


ドスッ、と刃が肉を貫く音が響いた。


胸にスティレットが突き刺さっている。


レギンはそれを確かに躱した。


躱した筈だった。


だが、


(刃が、追ってきた(・・・・・)…?)


投擲されたスティレットが、突然軌道を変え、レギンを貫いた。


まるで意思を持つかのように、レギンを狙ってきたのだ。


「…『鱗』が思ったより硬かったみたいね。今ので仕留めたと思っていたのだけど」


「――――」


エーファのその言葉に、レギンは胸に刺さったスティレットを見る。


レギンの体表を覆う魔力のお陰で、スティレットは僅かにレギンの肉を抉っただけだった。


もし、あと少しでもスティレットが深く突き刺さっていれば、レギンは心臓を破壊され、今の一撃で死んでいただろう。


レギンの隙を突き、ドラゴンの急所を的確に狙ってきた。


戦い慣れている。


この女は、ドラゴンを殺すことに慣れている。


「…その服、元は青い色だったのだろう。染まっているのは、竜の返り血か」


レギンはエーファの黒い修道服を見つめながら、そう告げる。


「一体、今までに何体のドラゴンを狩ってきた?」


「さあ? 百を超えてから、数えていないわよ。そんなの」


その両手に服に仕込んでいたスティレットを握りながら、エーファは言った。


「ではそろそろ死になさい。リンデには、あなたの無様な最期を伝えておいてあげるわ」

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