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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
一章 竜殺し
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第十六話


「ご飯、できましたよー」


酒を飲みながらフルスの話を聞いていたレギンは、その声に顔を上げた。


リンデは何故か機嫌良さそうに両手に持った皿をテーブルの上に並べていく。


その後ろからエーファとリンデの祖母も皿を運んでくる。


「エーファさんにまで手伝わせてしまって申し訳ないのう」


「気にしないで下さい。久しぶりに料理が出来て、楽しかったから」


フルスの言葉にエーファは笑みを浮かべて、皿をテーブルに置いた。


「私、あまり肉は食べないので、味には自信が無いのだけど」


エーファが並べた皿には全て野菜料理が乗っていた。


とは言え、サラダのような簡単な物からシチューのような物まで飽きさせないように種類は様々だ。


本人も言うように肉は殆ど入っていないが、既に美味しいそうな香りが漂っていた。


「いやいや、どれも凄く美味しそうじゃ。なあ、レギン君」


「あ、ああ、そうだな」


嬉しそうに笑うフルスとは対照的に、レギンはぎこちない表情を浮かべた。


元々人間以外の肉は魔力をあまり含まないが、野菜などそれ以下だ。


修道女らしい栄養満点の料理は、レギンにとって何の栄養も無いお湯のスープに過ぎないのだ。


「では、いただきましょうか」


全員が席に着いた後、リンデの祖母が言う。


それを合図に賑やかな食事会が始まった。


「美味い! こんな美味い物は初めて食べたぞ!」


エーファの作った料理を口にし、フルスは歓声を上げた。


「ははは。喜んで下さるのは有り難いですが、奥さんの前でそんなことを言ってはいけないわ」


「む。そうじゃな! では、婆さんと同じくらい美味いと言っておこうか! かかか!」


「お爺さん、もう酔っているのですか?」


上機嫌に笑うフルスに、呆れたようにフルスの妻が苦笑した。


全く酔えないレギンに付き合っていたせいか、フルスの顔は既に真っ赤だった。


「………」


レギンはフルスを横目で眺めながら、フォークをロールキャベツに突き刺す。


無言で口に運び、噛み締める。


(栄養が無い)


モゴモゴと口を動かしながら、内心げんなりとするレギン。


あの屋敷で出てきた食事もそうだった。


人間の食事は相変わらず、栄養が皆無だ。


こんな物をどれだけ食べようと、腹が満たされる訳がない。


「あ、あの、レギン」


「…ん?」


「コレ、食べませんか?」


おずおずと隣のリンデに差し出されたのは、シチューだった。


クリーム色のスープの中に、やや形の悪い野菜と肉が浮かんでいる。


「私が作ったんです」


ガタッ、と音が聞こえた。


レギンが視線を向けると、フルスが酒の空瓶を倒していた。


「り、リンデが作ったのか? 誰かを手伝ったのではなく、全て一人で?」


「お爺さん、失礼ですよ。私だって料理くらいできます…!」


「あ、う…そ、そうか」


リンデが怒ったような目を向けると、思わずフルスは目を逸らす。


しかし、冷や汗すら浮かべている様子から察するに、内心では納得がいっていないようだ。


「さあ、どうぞ。食べて下さい」


そう言ってシチューとスプーンを差し出すリンデ。


自然に受け取った後、レギンはちらりとフルスに目を向ける。


「ッ」


ブンブン、と首を振ってフルスは何かを伝えようとしていた。


見た目も匂いも奇妙な所は感じられないが、何かあるのだろうか。


(まあ、俺には関係ないか)


そう自己完結し、レギンはそのシチューを躊躇いなく口にした。


フルスがそれを見て息を呑む。


リンデも不安そうにレギンを見つめていた。


「………」


そんな視線は気にせず、レギンは淡々と食事を続ける。


受け取ったスプーンを動かし、パクパクとシチューを食べていた。


「だ、大丈夫なんですか?」


「…何がだ?」


「そ、その、美味しくなかったり、味が変だったり、とか」


僅かに肩を震わせながらリンデは尋ねる。


本人も料理の出来栄えに自信が無かったようだ。


そんな物を他人に喰わせるな、とレギンは思った。


「…まあ、悪くはない」


レギンは率直に自分の意見を告げた。


褒め言葉とは言えない言葉だったが、リンデの顔がみるみるうちに明るくなっていく。


「本当ですか! そんなこと言って貰えたのは生まれて初めてです!」


満面の笑みを浮かべてリンデは言った。


どれだけ料理が下手なんだ、と呆れるレギン。


その肩にポン、と皺だらけの手が置かれる。


「君は、本当に良い奴じゃなぁ…」


感激の涙すら浮かべてフルスはレギンの肩を抱く。


「あの子を傷付けん為に、無理をして…何て、何て、心優しいのか…!」


(何か誤解してないか、コイツ?)


どうやら、レギンがリンデの為に嘘をついたと思っているらしい。


リンデの酷い料理を無理して食べ、美味しいと告げていると。


「はい! コレはお爺さんの分だよ!」


「!?」


感激していたフルスはその言葉に硬直した。


渡されたシチューの皿を見つめ、それからレギンに目を向ける。


「…わ、儂も君に見習うぞ!」


そう言ってスプーンを握るフルス。


そして、


「ぎゃああああああああああ!?」


悲鳴を上げてひっくり返った。


「え、え、何で? レギンは大丈夫だったのに!?」


「ちょ、ちょっと、一体何事!?」


倒れたままガクガクと震えるフルスの容態を確かめるエーファ。


顔が赤くなったり、青くなったりしているフルスを観察し、シチューの方も調べる。


「…リンデ」


「は、はい」


「この料理、何かすんごい魔力濃度が高いのだけど」


「へ?」


「ここまで濃い魔力が含まれていたら、味なんて無茶苦茶よ。やたら辛かったり、やたら苦かったり、舌が破壊されるわ。ここまで来ると毒物ね」


頬に冷や汗を流しながら、エーファは不気味そうにシチューを見つめる。


こんな少量の料理に想像を絶する量の魔力が混入している。


「リンデが魔力をあまりコントロール出来ていないから、無意識のうちに漏れているのかしら?」


「わ、私は食べても大丈夫なのですが」


「あなたは常人より魔力量が多いから、きっと魔力に対する耐性も強いのよ。それか既に舌が馬鹿になっているのか」


「ひ、酷い…」


がくり、とリンデは膝をついた。


昔から料理は苦手だった。


自分が食べると美味しいのだが、誰かに食べさせると悲鳴を上げて倒れてしまうのだ。


何度も何度も努力し続けてきたが、まさか原因が魔力だったなんて。


肉体的に頑丈なレギンに味見させても大丈夫だった為、上達したと喜んでいたのだが。


「………」


(なるほど、他の料理よりも栄養が多かったのはそう言う理由か)


目の前に置いてあるシチューを眺め、レギンは納得したように頷く。


(まあ、俺にとってはこちらの方が都合が良い。魔力のせいで味が酷いらしいが…)


レギンは指で自身の舌に軽く触れた。


(俺はそもそも、味なんて分からな(・・・・・・・・)いからな(・・・・)








「………」


食事が終わり、レギンは割り当てられた部屋で休んでいた。


今回は当然ながら一人部屋だ。


丁度、リンデの姿も無いので一人静かに思考に耽る。


(さて、これからどうするか)


そう、考えていたのは今後のことだった。


リンデの目的は果たした。


これ以上、ここに居る理由はない。


レギンの目的は自身の記憶を取り戻すこと。


既視感を感じたリンデの故郷へ行けば、何か思い出すかと思ったが、結局は当てが外れた。


ならば、これからはどうするか。


記憶の手掛かりを求めて世界中を放浪するのか。


それともリンデに感じた既視感をもっと調べてみるのか。


「試しに王都ってやつに行ってみるのも………ん?」


ふと視界に妙な物が目に入り、レギンは首を傾げた。


レギンが横になっていたベッド。


その枕元に一枚の紙が置いてある。


「コレは、手紙か?」


そう呟き、レギンは特に深く考えずそれを開いたのだった。

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