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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
最終章 黄金竜
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第百二十二話


狂王アルベリヒは倒された。


王都を襲っていたドラゴンの大群は、やはりまともな生命では無かったのか、アルベリヒの死と共に塵となって消滅した。


街は破壊され、住人にも多くの負傷者が出てしまったが、幸いにも死者が出ることは無かった。


アルベリヒによって引き起こされた今回の事件。


その真相は一部の関係者を除き、秘匿されることになった。


国王であるアルベリヒの凶行が知れ渡り、民衆の心が離れることを避ける為だ。


アルベリヒの罪を隠し、国民を欺くことは褒められた行為では無いが、秩序を保つ為には王が必要だ。


「………」


新たな王となったグンテルは、それが最善であると判断したのだ。








「何故、今まで身を隠していた?」


会議室にて、グンテルは目の前の男に言った。


報告によると、ザッハークに殺された筈の男。


事件の混乱が落ち着いた後に呼び出したジークフリートは、相変わらず呑気な笑みを浮かべていた。


「身を隠していた訳じゃないよ。傷を癒していたのさ」


「傷?」


言葉を繰り返し、グンテルはジークフリートの左腕を見つめた。


言われて思い出したが、レギン達の話ではジークフリートは左腕を失っている。


ザッハークの攻撃からリンデを庇って負傷し、だからこそ一人その場に残ったと。


「ああ、この腕かい? よく出来ているだろう?」


見せつけるように動かすジークフリートの左腕は、見た目は普通の腕に見えた。


だが、レギン達の話は真実だとすれば、


「…義手か」


「流石の俺も、腕を失った状態で生き延びるのは苦労したよ」


苦笑を浮かべるジークフリート。


そんな気軽に出来る話ではないだろう。


片腕を失った状態でジークフリートはザッハークを相手に生き残ったと言うのだから。


「ブレスで死んだふりをするまでは良かったんだけど、その後がね」


ジークフリートがザッハークと戦った場所は、トラオア城跡だ。


当然ながら周囲に人間や治療に適した場所などある筈も無い。


「自力で手当てをして、何とか動けるようになるまで回復したから王都へ戻った、と言う訳さ」


「…化物だな」


「まあ、俺もファフニールの血を浴びているからね。肉体が竜に近くなっているのかも」


他人事のようにジークフリートは呟く。


「その内、アルベリヒ王みたいに竜化したりして。あはは」


「…笑えない冗談はやめろ。考えるだけでゾッとする」


グンテルは眉間に皺を寄せながらジークフリートを睨んだ。


久しぶりに会ったが、やはりこの男は好きになれない。


「…貴様は以前、父上の命令で動いていたこともあったな。どこまで知っていたんだ?」


「………」


探るようなグンテルの視線に、ジークフリートは口を閉じる。


「…アルベリヒさんの命令で俺も色々やったけど、あの人は何も教えてくれなかったよ」


少しだけ後悔のような物を顔に浮かべ、ジークフリートは吐き捨てた。


愚直に従うばかりでアルベリヒの真意を知ろうとしなかった己を悔いているのだろうか。


ジークムントの死後、面倒を見てくれたアルベリヒはジークフリートにとっても父のような存在だった。


その狂気を、苦悩を、少しでも癒すことができればこんな結末は無かったかもしれない。


「…父上は正気では無かった。古代兵器に触れておかしくなったのか、クローンとは言え娘と同じ形の物を喰らい続けて気が触れたのか………何が原因かは知らないが、もうどうしようもなかった」


グンテルは深いため息をつき、窓の外を眺めた。


「………」








「本当によく狙われる奴だな。お前は」


「ご、ごめんなさい…」


レギンの言葉にリンデは申し訳なさそうに頭を下げた。


地下施設から助け出されたリンデは、幸い傷一つ無かった。


アルベリヒの目的を考えればリンデに危害を加える筈も無い。


念の為に検査も受けたが、長く意識を失っていたこと以外は何も問題は無かった。


「…別にお前が謝ることでも無いがな」


そう言いながら、レギンはビシッとリンデの顔に指を突き付ける。


「危機感が足りねえ! お前はもう少し自分の価値ってやつを自覚するべきだ!」


「は、はい…」


「いつも俺が助けに行ける訳じゃねえんだぞ。分かったか?」


「………」


その言葉には答えず、リンデは真っ直ぐレギンの顔を見つめた。


無言で見つめられたレギンは訝し気な顔を浮かべる。


「でも、今回も助けてくれましたよね? えへへ」


「…おい」


嬉しそうに笑うリンデの顔を見て、レギンは手を伸ばす。


「生意気なことを言うのはこの口か! この口か!」


「痛い、痛いです…!? 頬を抓らないで…!」


「ケッ」


リンデの頬から手を離し、鼻を鳴らすレギン。


涙目で赤くなった頬を抑えるリンデを余所に、レギンは苦い表情を浮かべた。


「…最後にアルベリヒに止めを刺したのはジークフリートだ。認めるのも癪だが、俺だけではお前を助けられなかっただろう」


意外と負けず嫌いなレギンは、忌々しそうに言う。


「ジークフリートさん、ですか。生きていて、本当に良かったです」


リンデは心から嬉しそうに笑みを浮かべた。


トラオア城跡の一件以来、リンデはジークフリートの死に強い責任を感じていた。


彼が生きていたことに最も喜んだのは、きっとリンデだろう。


「………」


「今度は何だ?」


嬉しそうに笑っていたのも束の間、リンデは神妙な表情を浮かべた。


「…私って、クリームヒルトさんのクローンだったんですね」


「そうらしいな」


「五年より前の記憶が無いのではなく、そもそも生まれたのが五年前なんですよね」


リンデはアルベリヒから真実を聞かされた。


自身の正体を。自分が何の為に作られたのかを。


知らない方が良かった、とは思わない。


どうあれそれはリンデの探し求めていた真実だった。


「父親だと思っていた人はグンテルさんで、捨てられたと思っていたけど本当は私を守る為だったって」


「そうだな。アルベリヒに作られたお前には、本当の意味での親は居ない…辛いか?」


「いえ、そうでもないです」


リンデは静かに笑みを浮かべた。


想像とはだいぶ違ったが、その事実は素直に嬉しかった。


本当の父親なんてどこにもいなかったけれど、グンテルは自身を守る為に手を尽くしてくれた。


ただ偶然目にしただけの自分の命を助けてくれた。


「あの人は私にとって父親で、兄のような家族なんです。だから辛くないです」


「は」


リンデの言葉にレギンはニヤリと口を吊り上げる。


「今度それをアイツに伝えてやれよ。きっと、泣いて喜ぶぞ」


あの仏頂面が号泣する姿を想像し、レギンは笑った。

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