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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
六章 ラインの乙女
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第百十六話


「グンテル様は…」


「ふん。グンテルでいい…所詮は血筋だけが取り柄の男だ」


グンテルはやや自虐気味に鼻を鳴らした。


その言葉にエーファは目を丸くする。


普段の印象から傲慢で器の小さい人物だと思っていたが、素の性格はかなり違うようだ。


「…私は善にも悪にもなれない半端者だ。クリームヒルトを救うことが出来ず、アルベリヒを殺すことも出来なかった」


「アルベリヒ王を、殺す…?」


「ああ」


エーファの言葉にグンテルは頷く。


「父上は、完全に気が触れている。クリームヒルトを蘇らせることだけを望み、延々と命を弄ぶ研究を十年以上も続けているんだ」


生命培養水晶体『アンドヴァラナウト』


クリームヒルトの死後、アルベリヒがそれを発見したことが狂気の始まりだった。


ドラゴンスレイヤー達が討伐した竜の血を掻き集め、その悪魔の装置を起動させた。


クリームヒルトの遺体を装置に組み込み、クローンを生み出した。


「『アンドヴァラナウト』は本来、生命エネルギーを量産する為だけの装置だ。そんな物を使って生み出した生命体がまともな生き物だと思うか?」


最初に生まれ落ちたのは、ただの肉の塊だった。


外見こそクリームヒルトに似ていたが、自我は無い。


ただ呼吸し、心臓を動かすだけの肉人形。


しかし、それでもアルベリヒは諦めなかった。


何度も何度も、狂気の実験を続けた。


無意味な生命を量産し続けた。


「リンデは、ただ一つの例外。奇跡に近い確率で自我が生まれたクローンだ」


「………」


リンデがラインの乙女となったのも必然だったのだろう。


肉体的にリンデはクリームヒルトとほぼ同一の存在なのだから。


その稀有な性質を引き継いでいても何の不思議も無い。


「だが、アイツはアイツだ。誰かの偽者じゃない」


「ああ、無論だ」


レギンの言葉にグンテルは迷いなく答えた。


「あの子は生まれが少々特殊なだけの…『人間』だ。私の家族のようなものだ」


「…クハッ、何だよ。話してみれば意外と良い奴だな。お前」


少し嬉しそうにレギンは笑みを浮かべた。


エーファの顔にも似たような笑みが浮かんでいる。


リンデのことを語るグンテルの顔は、父や兄のような温かみがあった。


気難しく、不器用な部分もあるが、これこそがグンテルの本質なのだと感じたのだ。


「…アルベリヒの凶行を知ってから、私は何度も暗殺を試みた」


苦い表情を浮かべてグンテルは呟いた。


決して、軽々しい決断では無かった。


狂気に堕ちたとは言え、アルベリヒはグンテルの父親だった。


かつて憧れた人物だったのだ。


だが、迷った末に暗殺を試みたグンテルは父親が想像以上に変貌していたことを知った。


「暗殺者、毒、思い付く全ての手を尽くしたが、アルベリヒは死ななかった。そもそも、病に蝕まれた身体で十年以上生き永らえていることが既に不可解だ」


医者の診断では、十三年前の段階で余命一年程度だったらしい。


にも拘らず、アルベリヒは現在まで生き続けている。


暗殺者の刃も、盛られた毒も、全て喰らった上で。


「…ただの老人と侮るなよ。奴は恐らく、既に人をやめているぞ」


こちらにはドラゴンスレイヤーであるエーファとレギンがいるが、それでも油断は出来ないとグンテルは予想している。


それだけ、あの老王は得体が知れないのだ。


「とにかく…」


グンテルが何か言いかけた時、突然大きな音が鳴り響いた。


レギンとエーファの懐から聞こえてくる。


二人は足を止め、それを取り出して確認した。


『き、緊急連絡! 緊急連絡! 本部より各自ドラゴンスレイヤーへ通達!』


それは、通信機から響く緊急連絡だった。


慌てた様子で騎士は、それを告げる。


『王都各地に二十を超えるドラゴンの群れが襲来! 街を破壊しています!』


「な…!」


エーファは目を見開いて絶句する。


ドラゴンスレイヤーが集う王都をドラゴンが襲撃するなど、滅多に無いことだ。


それなのにドラゴンが大群で押し寄せてくるなど。


「何で、このタイミングで…」


「…アルベリヒか!」


グンテルは憤怒の形相で奥を睨んだ。


タイミングが良すぎる。


どう言う手段を用いたのかは知らないが、アルベリヒがドラゴンを誘き寄せたのだ。


ドラゴンスレイヤー達が自身の邪魔を出来ないように。


「遂に、王都の住人に手を出すほどまで落ちぶれたか…!」


分かっていたことだが、今のアルベリヒはかつてのアルベリヒでは無い。


この国を護る為に尽力したあの王は、既に死んだのだ。


「街を護る為に戻らないといけないわね…」


「だが、奴はその間に事を済ませるつもりなんだろう?」


レギンはグンテルの顔を見ながら言った。


グンテルの推測が正しければ、ドラゴンスレイヤー達がドラゴンの群れを倒している間にアルベリヒは目的を果たせると言うことだ。


ならば、奴の思惑通りに行動するのはまずい。


「…二手に分かれましょう。私は外に出て、ドラゴン達を片付ける」


「俺達はアルベリヒの下へ行き、リンデを取り戻すってことか」


「そうだな。どちらにせよ、私はドラゴン退治では役に立たん」


戦力がレギン一人になることは不安だが、コレがベストだろう。


そうと決まれば、とエーファは二人に背を向ける。


「…グンテルさん」


来た道を引き返す前に、エーファは先程よりも少し親し気にグンテルの名を呼んだ。


「リンデのことを家族のように思っている、って言ったわよね?」


「…ああ、そうだ」


「それ、絶対にリンデに伝えてあげてね。きっとあの子、喜ぶと思うから」


そう言うと、グンテルの返事は待たずにエーファは走り去った。


「………」


アルベリヒは、複雑そうな表情でそれを見送っていた。

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