表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
六章 ラインの乙女
114/135

第百十四話


正直、初めから気に食わない奴だった。


『…はじめまして、グンテル様』


邪竜襲来から暫くして、父が一人の男を連れてきた。


ジークフリート。


邪竜との戦いで命を落としたジークムントの一人息子だった。


自身を犠牲にして王都を護ったジークムントへの償いとして、アルベリヒは彼を王城に引き取ったのだ。


『………』


王城にやってきた当初は、一日中訓練をしているような愛想の無い奴だった。


こちらが何と声を掛けても反応が薄く、何者にも興味が無いように見えた。


『………』


しかし、いつからかジークフリートは年相応の感情を見せるようになった。


きっかけは恐らく、クリームヒルトだろう。


グンテルの知らない内に知り合っていた二人は、いつの間にか親しい友人になっていた。


研究が忙しく、最近は殆ど塔に顔を見せなかったグンテルの代わりに、ジークフリートがクリームヒルトの話し相手を務めていた。


『ジークフリートが…』


『またクリームヒルト様と…』


家臣の間でも、それは話題となっていた。


今まで、家族以外の男と関わったことの無い純粋な妹だ。


ジークフリートとクリームヒルトの間にある物が、友情だけでは無いことは薄々気付いていた。


それを知った周りの反応は、それほど悪い物ではなかった。


ジークフリートは英雄の息子であり、十四を超える頃には魔剣を使いこなした。


いずれは王女の相手としても相応しくなるだろう。


それどころか、王の座すら狙えるのではと思う者まで居た。


魔力の才能が無く、部屋に篭って研究ばかりしている王子よりも、


ジークフリートの方が王の後継者に相応しいのでは、と。


『…ッ』


グンテルは、居場所を奪われた気分だった。


孤独な妹を慰める立場を、いずれ偉大な父の跡を継ぐ立場を、


グンテルは何も成せていない。


数年続けた研究も、何の成果を得られていない。


同じ英雄の父を持ち、同じ年の男だと言うのに、どうしてここまで違う。


劣等感を覚えずにはいられなかった。


『気にすることは無い。グンテル』


そんなグンテルを見かねて、アルベリヒはそう告げた。


『誰が何と言おうと、余の後継者はお前だ。ジークフリートではない』


『…父上』


『お前はいずれこの国の王になる男だ。ならば人を妬むよりも、人を認めることを覚えるのだ』


アルベリヒはグンテルの肩に手を置き、前を指差す。


そこには、楽しそうに笑い合うジークフリートとクリームヒルトの姿があった。


『彼はお前の大事な妹を、そして多くの人々を護る英雄となるだろう。それでいいじゃないか』


王には王の、英雄には英雄の在り方がある。


力で劣るからと言って、妬む必要も憎む必要も無いのだ。


『…そう、ですね』


グンテルは父の言葉に大きく頷いた。


ジークフリートは様々な外敵からクリームヒルトを護る。


クリームヒルトの身が安全となることは、喜ぶべきことなのだ。


だからグンテルはジークフリートに抱いていた嫉妬心を抑えた。


何の心配も要らない、と自分を納得させた。


それなのに…


『………』


十三年前、二度目の邪竜襲来。


邪竜に奪われたクリームヒルトは命を落とした。


ジークフリートは、あの子を護ることが出来なかったのだ。








「来たか」


走ってきたレギンとエーファを前に、グンテルは言った。


「おい! リンデの居場所を知っていると言うのは本当か!」


「…歩きながら話そう」


問い詰めるレギンの顔を一瞥した後、グンテルは二人に背を向ける。


コツコツと銀の杖を突きながら歩くグンテルの横に二人は並んだ。


「最初に聞いておくが、貴様達はあの娘についてどこまで知っている?」


「どこまでって…」


「…五年前に田舎の老夫婦に預けられ、それ以前の記憶が無いってことくらいか」


困惑するエーファの代わりにレギンは知っていることを答えた。


その答えにグンテルは表情も変えずに口を開く。


「あの娘を老夫婦に託したのは私だ」


「え…?」


「何だと…?」


初めて聞く事実にレギンとエーファは表情を変える。


「五年前、私は王都からあの娘を連れ出し、老夫婦に託した。安全に、暮らせるようにな…」


作り話、とは思えなかった。


淡々と続けるグンテルの声には、隠し切れない感情が宿っていたからだ。


「私は、出来るだけあの娘を王都から離したかった。誰の眼にも触れることなく、静かに暮らせているならそれで良かった」


しかし、そうはならなかった。


成長したリンデは王都まで来てしまった。


父を探して、ドラゴンスレイヤーにまでなってしまった。


「…ハーゼの一件の時は好都合だと思った。貴様が危険なドラゴンであると判断されれば、あの娘がドラゴンスレイヤーとなることは無い」


「ハッ、そうなればきっとリンデは実家に帰っていただろうな」


「…その方が良かった。こんなことになるくらいなら」


ギリッ、とグンテルの口から音が聞こえた。


その顔に憤怒が浮かんでいる。


心から怒りを抱いているのは、自分自身とリンデを連れ去った者。


「何故このタイミングで行動を起こしたのかは分からんが、あの娘を連れ去ったのは間違いなく奴だ」


「…奴?」


「………」


レギンの疑問の声には答えず、グンテルは足を止めた。


目的地に着いたからだ。


「ここは、廃墟か?」


「旧竜血研究所。今の場所に移動する前の竜血研究所だ」


三人の前には、古びた建物が存在した。


窓は割れ、壁にもひびが入った廃墟。


旧竜血研究所。


「ここに、あの娘が居る筈だ」


「でも、ここって国が管理している筈では?」


エーファは思わず呟く。


既に使われていない場所とは言え、竜血研究所は国の重要機関だ。


誰でも入り込めるような場所では無い筈だが。


「だからこそ、だ」


「どういう…」


「…あの娘を連れ去ったのは、この場所を自由に使うことが出来る者。この国で最も強い権力を持つ者」


グンテルは忌々し気にその名を呼ぶ。


自身の父親の名を。


「国王アルベリヒ、だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ