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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
一章 竜殺し
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第十一話


「レギン様とリンデ様はどういったご関係なのですか?」


「私とレギン?」


月明かりの下、夜道を歩きながら二人は会話する。


「親子や兄妹には見えませんので、その…」


そう言って少しだけ恥ずかしそうに頬を赤らめるリーリエ。


何となく彼女の聞きたいことを察したリンデは安心させるように笑みを浮かべた。


「私のお爺さんが病気でね。レギンにはそれを治してもらう為、一緒に故郷へ帰っている途中なの」


「なるほど。レギン様はお医者様だったのですか」


(少し違うけど、それでいいか)


本当のことを言う訳にもいかず、リンデは曖昧に笑う。


「レギン様ってすごく優しいのですね!」


「い、いや…それはどうなんだろう?」


キラキラとした目で言うリーリエを見て、リンデは苦笑する。


どうも、リーリエはレギンを美化しすぎているような気がする。


レギンはリーリエが思うほど優しくはないし、そもそも助けられたのも勘違いだ。


「それに、すごく強いです。熊を一撃で倒す人なんて、私、初めて見ましたよ!」


興奮したようにリーリエは拳を握った。


「私、強い人が好きです。優しくて強い人はもっと好きです」


「そうなんだ…」


「ええ! だって、優しくて強い人は守ってくれる(・・・・・・)から!」


顔を赤らめながらリーリエは言う。


好意を隠そうともしない様子に何だか気恥ずかしさを感じて、リンデは目を逸らす。


「お父様も優しいのですけど、強くはないので」


そう言って、リーリエは空に浮かぶ月を見上げた。


「リンデ様」


「何?」


「私、友達が居たのです。ほんの少し前まで」


「………」


唐突に話し始めたリーリエの言葉にリンデは口を閉じる。


居た、と過去形であることに嫌な予感を感じたのだ。


「その子はとても綺麗で、優しくて、お喋りするのが楽しかった」


思い出すように笑みを浮かべるリーリエ。


「その子にお母さんは居なかったけど、お父さんが一人居た。ちょっと過保護だけど、とても優しいお父さんが」


「………」


「家はお金持ちで、優しい家族も居て、生まれてからずっと平和に生きてきたのだと思います。何の危険も無く、何の不満も無く…」


(過保護な、お父さん…? 家は、お金持ち…? )


リンデはその言葉に違和感を感じた。


不審そうな顔でリーリエを見つめ、口を開く。


「ねえ、リーリエ」


「はい?」


「それって、誰のことを言って(・・・・・・・・)いるの(・・・)?」


今話しているのは、リーリエの友達の話だ。


それなのに、これではまるで…


「誰って、言ったじゃないですか」


何でも無いことのようにリーリエは告げる。


一週間前に行方不明に(・・・・・・・・・・)なった私の友達(・・・・・・・)リーリエの話ですよ(・・・・・・・・・)


「ッ!」


ゾクッと悪寒を感じて、リンデは思わずリーリエから距離を取った。


今、目の前の少女は何と言った?


リーリエは一週間前に行方不明となった?


では、目の前に居る者は誰だ?


リーリエに成り済まし、あの屋敷で暮らしていた少女は…


「あの子が悪いんですよ?」


リーリエは、その名を奪った何か(・・)は拗ねるように呟く。


「私はついてきちゃダメって言ったのに、ついてくるから。私の『正体』を知っちゃったから」


ボロボロと、リーリエと名乗っていた者の皮膚が剥げ落ちる。


それと共にその輪郭が膨らみ、大きくなっていく。


「なら殺すしかない。食べるしかないよね?」


月明かりを遮るように大きな翼が広がる。


爬虫類を思わせる鱗に覆われた身体。


ぎょろぎょろとした赤い眼でリンデを見つめる大きな影。


それは、レギンと同じ成体のドラゴンだった。


「ドラゴン…! 人間に化けて…!」


『ええ。次はあなたの皮を貰うわね?』


大きく開いた口から光が漏れ出す。


リンデへと燃え盛る炎の『ブレス』が放たれる。


「滅竜術『竜鱗ブルグ』」


それに慌てることなく、リンデは光の鎧を展開した。


ブレスの放たれる前兆は、レギンとの戦いで覚えている。


この竜鱗ならば、問題なくブレスを防ぐことが出来る。


『…ただ守られているだけの娘かと思えば、私のブレスを防ぐなんて』


「………」


『生意気ッ!』


竜鱗を纏うリンデを殴り付けるように、ドラゴンは右腕を振り下ろした。


ガキン、と金属が衝突するような音が響き、リンデの竜鱗に亀裂が走る。


『二十年も生きていないような小娘が、百年を生き抜いたドラゴンに勝てる訳無いでしょう!』


「ぐ…くっ…!」


子供の癇癪のように次々と殴り付けられる度、竜鱗の亀裂が大きくなっていく。


『諦めて私に喰われなさい! あなたの顔と名前は、私が使ってあげるからさぁ!』


悍ましいことを叫びながら、ドラゴンは悪辣に嗤う。


今までもそうやって生きてきたのだろう。


人間を喰らい、その顔と名前を奪って人間の中で生きてきた。


人の命どころか、その人生まで奪い取って、全てを騙して。


(一か八か…!)


「『竜鱗ブルグ』…解除!」


このままではじり貧だと判断し、リンデは展開していた竜鱗を解除した。


同時に込めていた魔力を解放して一瞬だけ、ドラゴンを怯ませる。


「『竜脚ブリッツ』」


その隙に足に魔力を込めて、勢いよく跳躍する。


空中を舞いながら短剣を構え、それを振るう。


「断ち切れ!『竜爪クリンゲ』」


『…な』


意表を突かれたドラゴンの首に、短剣が触れる。


ドラゴンの鱗はワイバーンとは桁違いに硬い。


だが、リンデは既にレギンの鱗を破った経験がある。


「あ、ああああああああ!」


短剣を両手で握り、リンデはそれを振り抜いた。


魔力で強化された刃がドラゴンの首を刎ね飛ばす。


『…………』


宙を舞ったドラゴンの首と、リンデは目が合った。


『………それで勝ったつもり?』


「…え?」


ドン、とリンデの体に衝撃が走る。


飛んでいたリンデを叩き落とすように、ドラゴンの拳が振り下ろされたのだ。


「が…ゲホッ…!」


地面に叩き付けられたリンデは苦し気に咳き込む。


その目の前で、ドラゴンは刎ねられた首を傷口に乗せていた。


ぐちゃぐちゃ、と嫌な音を立てて傷口が癒着する。


『首を刎ねた程度でドラゴンを殺せるとでも? 竜の不死性、甘く見ていたのでは?』


ドラゴンとは、ワームやワイバーンが成長して至る存在だが、根本的に他とは違う不死性を持つ。


最早、全く別の生物と言っていい程の変化だ。


肉体自体が魔力そのものである為、そもそも手足や頭部に大きな違いはない。


頭部が無くなれば、腕が代わりにその機能を果たしてもおかしくない程、理不尽な生命体なのだ。


『では、そろそろあなたの皮を貰うわね』


醜悪に嗤いながらドラゴンは告げた。

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