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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
五章 悪竜
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第百一話


「ぎ、ああああああァァァァァァ!」


絶叫するザッハークの右肩から、竜の首が落ちる。


崩壊する首の中から切り刻まれた心臓が零れ、蒸発するように消滅した。


(スペアは、完全に破壊した…!)


ザッハークへ視線を向けるフライハイト。


フライハイトから受けた傷を再生するザッハークの胸からは、どす黒い心臓が剥き出しになっていた。


スペアである心臓は破壊した筈だが、傷付いた心臓の再生は止まらない。


「………」


それを見てもフライハイトに驚きは無かった。


たった今フライハイトが破壊した『第二の心臓』は、再生することなく消滅した。


それでもザッハークは死なない。


だとすれば、残るは…


(もう一つの首…!)


フライハイトは視線をザッハークの左肩に向ける。


右肩と同様に左肩からも生えている竜の首。


スペアが一つとは限らない。


恐らく、アレの中にもスペアとなる心臓が隠されている筈だ。


「フライハイト!」


「分かっている!」


自身と同じ結論に至ったレギンの声に、フライハイトは叫ぶ。


このまま残る首も刈り取り、止めを刺す。


フライハイトは真紅に染まった魔剣を振り上げた。


「ぐ、ううう…!」


自身に迫る赤い刃を、ザッハークは余裕を失った目で見ていた。


不死の秘密は見破られた。


残る首と心臓を破壊されれば、ザッハークは不死性を失う。


「あ、ああ…」


毒血は通じない。


ブレスも通じない。


追い詰められたザッハークは、当たり前のように殺されるだけだ。


弱肉強食の理のままに。


「ふざ、けるなァァァァァァァ!」


ザッハークの眼が怒りで赤く染まる。


認めない。認めない。


リンドブルムを、ティアマトを。


二体の六天竜を喰らい、ザッハークは力を手に入れた。


もう以前のような弱者では無い。


もう以前のような奴隷では無い。


敵が人間であろうと、ファフニールであろうと。


「俺は、死なねえんだよォォォ!」


吠えるザッハークは憎悪に染まった眼でフライハイトを見た。


竜紋ファフナー。起動ォ!」


「…何」


フライハイトはその言葉に訝し気な顔を浮かべる。


既にザッハークの竜紋は無効化している。


どれだけ毒血を浴びても、その呪いがフライハイトに届くことは無いとザッハークも理解していた筈だ。


「キ、ヒヒヒ、ヒャハハハハ…!」


(何だ、竜紋が…?)


フライハイトの目の前で、ザッハークの竜紋に変化が起きる。


首を覆い尽くすように刻まれていた竜紋が広がっていく。


苦悶の表情を浮かべた人間のような不気味な紋様は、ザッハークの全身に浮かび上がった。


「簒奪しろ!『アジ・ダハーカ』」


瞬間、ザッハークの身体が弾けた。


皮膚を突き破って飛び散る黒い血液が、全て竜の首となる。


「何だと…!」


それはまるで、荒波のようだった。


溢れ出る黒い濁流と共に、形を成した竜の首が襲い掛かる。


それは回避し損ねたフライハイトの体を掠め、その血肉を大きく抉り取った。


「フライハイト!」


「ハハハ…! ヒャハハハハハハハハ!」


地に倒れるフライハイトを見て、ザッハークは嘲笑する。


げらげらと嗤うザッハークの肉体から次々と、新たな首が生えてくる。


両肩は元より、背中や腹部、全身のあらゆる所から生える首には全て同じ竜紋が刻まれていた。


その数は百頭。


全身から所狭しと生える悪夢のような光景だった。


「馬鹿、な…! 竜紋は一つだけの筈…!」


「キヒヒヒ! 一つだけだぜ? ファフニールに与えられた竜紋は、な!」


全ての首、全ての眼がレギンを見つめる。


「コレはァ! この『アジ・ダハーカ』はァ! 俺自身の竜紋なんだよォ!」


「な…」


「ヒャハハハハ!『ブレス』」


百の首全てが口を開き、どす黒い魔力を収束させる。


今まで放っていたブレスとは桁が違う。


それは大地を消し飛ばしたティアマトのブレスにも匹敵する威力。


触れる物全てを呑み込む闇そのものだった。


「く、おおおおおおお!」


レギンは背に翼を形成し、迫る闇の範囲から逃れる。


「キキ、キヒヒヒヒヒ!」


ザッハークの攻撃は止まらない。


辛うじて回避したレギンの足下から、幾つもの首が立ち上る。


地面を削って懐に入り込んだ首は、大口を開けてレギンを狙った。


「ぐ、あ…!」


左腕に喰らい付かれ、レギンの口から苦悶の声が漏れる。


黄金の鱗など物ともせず、悪竜の牙はレギンの腕を食い千切った。


「俺はァ! ファフニールから竜紋を与えられる前から竜紋を持っていた唯一の六天竜! 自らの血で竜紋を生み出したファフニールに最も近いドラゴンだ!」


ドラゴンが竜紋と言う新たな力を与えられることで六天竜となる。


だが、ザッハークは生まれた時から自らの竜紋を持っていた。


ファフニールから与えられた力は『フェアフルーヘン』


そしてザッハーク本来の力は『アジ・ダカーハ』


「…!」


ぐちゃぐちゃとレギンの左腕を咀嚼する度に、ザッハークの魔力が増大していく。


喰らった魔力を消化して自身の魔力に還元している、と言う次元では無い。


レギンの生命力そのものを吸収し、自らの一部として取り込んでいるような感じだ。


「お前、その首は…」


「気付いたかァ? そうさ、コイツは今までに俺が喰らってきた奴らの残滓」


全身から生える首を示しながら、ザッハークは残忍な笑みを浮かべた。


表面に見えているのは百の首だが、ザッハークが取り込んできた生命はそれだけでは済まない。


人と竜も関係なく、今までザッハークが喰らってきた全ての生命がザッハークの存在の一部として取り込まれているのだ。


他者を犠牲にすることで、自らを補強する能力。


ザッハークと言う存在を体現した能力と言える。


「お前も! 俺の一部となりやがれェ! ファフニール!」


「ッ」


失った左腕を再生しているレギンに、ザッハークが迫る。


ファフニール時代を知るザッハークに黄金の能力は通じない。


ザッハークの知っている力では、倒せない。


「………」


黄金の剣を手に、レギンは構えを取る。


レギンの脳裏に過ぎるのは、ある男。


人の身でありながら、ドラゴンと対等以上に戦い続ける英雄。


かつての自分ファフニールを打ち倒した男…


「『魔竜剣・壱式』」


それは、歴戦の戦士と比べても遜色ない洗練された一撃だった。


迫るザッハークの傍らを走り抜けるように浴びせた一太刀。


「何だ、それは…!」


一撃を受けたザッハークは、憎々し気にレギンを睨む。


ザッハークはファフニールの能力を知っている。


その戦い方を、その性格を、他の誰よりも知り尽くしている。


だからこそ、それを知らない。


人間の技術で戦うファフニールなど、想像もしていない。


「…俺は滅竜術は使えないが、純粋な技術なら話は別だ」


魔力の関わらない剣技なら、ドラゴンであるレギンでも問題なく使える。


それでもジークフリートの卓越した剣技を一度見ただけで模倣するのは有り得ないことだが、どう言う訳か(・・・・・・)この剣技はレギンにとても相性が良かった。


ジークフリートと同等とまでは言わずとも、それに迫る程度にはレギンの技術も優れていた。


「『魔竜剣・弐式』」


ほぼ同時に放たれる四つの斬撃。


それはザッハークの身体から生える竜の首を四本、斬り飛ばした。


「無駄だァ!」


斬り落とされた断面から、すぐに新たな首が生えてくる。


ザッハークの喰らってきた犠牲者の数を思わせるように、無尽蔵に。


「ッ!」


失った部分から新たに顔を出すのは、竜の首だけでは無い。


人間の首だ。


それも、若い女や幼い子供ばかり。


全て青白い顔で、死んだように瞼を閉じている。


死して尚、ザッハークの支配から逃れられていないのだ。


「ザッハーク!」


レギンは地面を砕く程に強く踏み込み、剣を大きく振り被る。


壱式よりも長い溜め。


大技が来ると理解し、ザッハークは口を大きく開いた。


「さっさと、くたばりやがれェ!」


ザッハークの口から毒々しい色の煙が放たれる。


それに触れたレギンの肉から焼けるような音が響き、ドロドロに溶けていく。


「『魔竜剣』」


しかし、それでもレギンは構えを解かない。


身に宿る全ての魔力を黄金の剣に集中させていく。


「チィ…!」


忌々し気に舌打ちをして、ザッハークは翼を広げた。


この一撃を受ける訳にはいかない。


咄嗟に空へ逃げようと、翼を羽搏かせる。


「『ブレス』」


「………あ?」


その背に、一本の杭が突き刺さる。


宝石を削り出して作ったような巨大な杭。


それは、ザッハークの身体を地に縫い付けるように貫いていた。


「ヴィ、ヴィーヴル…! テメエ!」


「………」


視線を向けられたヴィーヴルは、冷ややかな敵意を込めてザッハークを睨んでいた。


「くそが…! 俺はザッハークだ! 六天竜のザッハークだぞ!」


身動きの出来ない体でザッハークは叫び続ける。


「二つの竜紋を持つ特別な存在だァ! 俺は特別なんだよ!」


ザッハークの全身から伸びる全ての竜が、レギンへと迫る。


その四肢の全てを食い千切らんと、牙を剥く。


「殺されるか! 殺されて堪るか! 俺は、俺はァ!」


牙が届く。


剣を構えるレギンへと、ザッハークの手が届く。


「『伍式』」


瞬間、レギンは横振りの一閃を放った。


レギンの手に握られた剣は、黄金の柱のように巨大。


その一撃はレギンに迫っていた全ての竜を刈り取り、ザッハークの身体を真っ二つに両断した。

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