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黄金のドラゴンスレイヤー  作者: 髪槍夜昼
五章 悪竜
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第百話


「レギン、それに…」


「大丈夫ですか! エーファさん!」


傷を負ったエーファの下に、リンデは急いで駆け寄る。


酷い怪我だった。


ザッハークに貫かれた腹部には大きな穴が空き、今にも内臓が零れ落ちそうになっていた。


「せめて、血だけでも止めないと…!」


リンデは包帯を取り出して、エーファの傷口に巻く。


専門的な知識は無いが、応急処置だけでもしなければ命に関わる。


「………」


レギンは無言でエーファに近付き、自身の腕を切り付けた。


腕から滲む血が一滴、エーファの傷口へ落ちる。


「これで、少しはマシになるだろう」


万病に効くと言う竜血の効果か、ゆっくりとエーファの傷口が塞がっていく。


「レギン…」


「よく戦った。後は任せろ」


静かに告げ、レギンはエーファに背を向けた。


その視線は傷付いた肉体を再生している悪竜へと向けられている。


「見ろ、レギン」


傍に立つフライハイトがザッハークを指差した。


魔力の暴走によって焼け焦げたザッハークの身体。


剥き出しとなったザッハークの心臓が、メキメキと再生していた。


他の部位に比べればその速度は遅いが、確かに再生している。


「弱点が無い、って訳ではないようだな」


ティアマトのように別の場所に心臓を隠している訳でも、そもそも心臓が存在しない訳でも無いらしい。


他のドラゴン同様にザッハークにも心臓は存在する。


問題はその心臓さえも再生してしまうことだ。


「不死の生物なんて存在しねえ。一見、不死身に見えようが弱点や限界は必ずある筈だ」


「同感だな」


宝石の剣を構えるフライハイトの横に、黄金の剣を手にしたレギンが並ぶ。


「…キキ、キヒヒヒヒ! これはこれは、全員お揃いで」


消し飛んだ首を新たに再生させたザッハークは、その顔に嘲笑を浮かべた。


「殺したい奴。喰いたい奴。全部勢揃いじゃねえかァ! ヒャハハハハ! 嬉しいねェ!」


舌なめずりをするように、レギンやフライハイトへ視線を向ける。


「どれから殺そうか? 目障りなクソ人間かァ? ウザったいファフニールかァ?」


ギリギリ、とザッハークの身体が軋む。


膨大な魔力を足に集中し、筋肉が膨張する。


「キヒヒヒ! 先に死にてえのはどっちだァ!」


ドン、と大地を踏み砕いてザッハークが跳ねた。


勢いよくその身体が獲物へと向かっていく。


「『屠竜飛刃とりゅうひじん』」


迎え撃つように、フライハイトの剣から赤い斬撃が飛ぶ。


「ふん!」


ザッハークはそれを見て、大木のような腕を振るった。


魔力の鱗に覆われた腕は、真紅に染まった斬撃を容易く薙ぎ払う。


ザッハークにダメージは無い。


だが、攻撃を弾く為にザッハークの動きは止まった。


「黄金よ…!」


レギンが叫ぶと同時に、ザッハークの足下から何本もの黄金の槍が突き出す。


「チッ!」


槍が足に触れる前にザッハークは跳躍し、それを全て躱した。


距離を取ったザッハークをレギンは睨むように見つめる。


「………」


(…退いた(・・・)


今、ザッハークは攻撃することを諦めて回避した。


本当に不死ならこちらの攻撃など気にする必要すらない筈なのに。


(やはり、不死身では無い!)


改めて確信し、レギンは黄金の剣を手にして前に出る。


「黄金よ…!」


剣が形を失い、鞭のようにしなる。


急速に伸びた剣を振るい、レギンはザッハークを狙った。


「ハッ! 見飽きているぜ(・・・・・・・)


伸びる剣を見ても、ザッハークの顔に驚きは無かった。


むしろ、予想していたかのように刃を回避する。


「馬鹿が! 俺が何年テメエと行動を共にしていたと思ってんだァ?」


約五百年、ザッハークはファフニールに従ってきた。


その間、ザッハークは全てを見てきた。


ファフニールの戦闘、能力、戦いの癖など、その全てを。


レギン自身に覚えは無いが、その戦い方などザッハークは既に飽きるほど見ている。


「記憶も完全に戻っていないテメエの浅知恵が! この俺に通じると思うなよ!」


「…ッ」


ザッハークはレギンの能力をレギン以上に理解している。


今のレギンがどんなに知恵を振り絞った所で、ザッハークの理解を超えられない。


「『屠竜一閃とりゅういっせん』」


隙を突くようにフライハイトの斬撃が再びザッハークの首を刈り取る。


宙を舞うザッハークの首が、フライハイトを見下ろした。


「効かねえよ、雑魚が」


その攻撃を読んでいたザッハークの身体が動き、フライハイトの腕を掴む。


傷口から噴き出す毒血が、フライハイトの体を穢した。


「『フェアフルーヘン』」


ザッハークの竜紋が鈍く光る。


黒く染まった血液はフライハイトからあらゆる力を奪い去り、無力化する。


「『屠竜棘矢とりゅうきょくし』」


「…何?」


フライハイトの魔剣が赤く染まり、ザッハークの肉体を貫く。


その剣先は狙い違わず、ザッハークの心臓を刺し貫いていた。


「『屠竜一閃とりゅういっせん』」


それでも手を休めることなく、フライハイトは次の技を放つ。


ザッハークの鱗を破り、その身体に大きな傷跡を付ける。


(何故、呪いが効いていない…?)


フライハイトの動きが止まらない。


攻撃する度にザッハークの毒血を浴びている筈なのに、力が弱まらない。


その原因を探ろうと視線を巡らせるザッハークは、少し離れた所に居る女に気付いた。


(ヴィーヴル…!)


竜化したヴィーヴルは何やら手をフライハイトへ向けていた。


ヴィーヴルの能力は物体の強度を操ること。


そしてヴィーヴルの鱗は六天竜でも随一の強度を持つ。


(見えない鱗でこいつらを覆い、俺の呪いを防いでいるのか…!)


無生物だろうとザッハークの毒血は弱体化させるが、ヴィーヴルの能力と拮抗している。


「滅竜術『紅剣脈動フルンティング』…レベルⅤ」


フライハイトの魔剣が更に一回り大きくなる。


今までの最大であったレベルⅣを超える強化。


ヴィーヴルの宝石で作られた剣は過剰に注ぎ込まれた魔力に耐え、唸りを上げる。


(アレは、マズイ…!)


その剣に満ちる魔力を見て、ザッハークの顔から余裕が消えた。


毒血を浴びせる為に近付きすぎた。


早く、早く離れなければ…


「フライハイト!」


ザッハークを観察していたレギンは、大声で叫んだ。


「そいつの全身を攻撃しろ! 出来るだけ広範囲に!」


レギンは斬られた首を再生するザッハークを注意深く見つめる。


ザッハークは急所である心臓への攻撃は避けなかったが『大技』は全て回避していた。


ジークフリートとの戦いも、広範囲の攻撃だけは必死に躱していたように見える。


心臓を壊されることは恐れず、全身を攻撃されることは恐れる。


その理由はきっと…


「『屠竜万棘とりゅうばんきょく』」


瞬く間に放たれる真紅の連続突き。


その名の通り、万の棘を思わせるそれは、ザッハークの全身を穿ち抉る。


手足、胴体、そして、首。


「が、ああああああああァァァァァ!」


フライハイトの突きが右肩から生える首を貫いた瞬間、ザッハークは絶叫した。


「コレは…!」


魔剣から伝わる感触に、フライハイトは目を見開く。


「心臓だ! 本体の心臓とは別に、肩から生えた首の中に『二個目の心臓』がある!」


「やはり、か!」


レギンは自身の推測が当たったことを確信する。


竜の肉体は心臓から魔力を送ることで再生する。


故に、心臓だけは再生することは出来ず、竜の急所なのだ。


だが、仮に心臓が複数あった場合は話が変わる。


メインの心臓が破壊されても、スペアが残っている限り自己修復することが出来る。


それこそがザッハークの不死の正体。


本来一つしかない筈の心臓を、複数持っている異常性こそが。


「ああああああァァァァァ!」


ザッハークは絶叫しながら、フライハイトから逃れようと体を動かす。


魔剣は半ばまで刺さっているが、心臓を完全に貫いてはいない。


「くそ…!」


ザッハークの首が泥のように変化し、剣を呑み込んでいく。


底なし沼のような肉体から剣を引き抜くことが出来ない。


「キ、キヒヒヒ! 死ぬのは、テメエの方だァ!」


剣の柄を握り締めたままのフライハイトへ、ザッハークは爪を振るう。


武器を失った人間を切り刻むことなど、簡単なことだ。


「『屠竜とりゅう…」


フライハイトは柄を握っていない方の手を振り上げる。


その手に、黄金の剣が握られていた。


(二刀流…!)


「…比翼ひよく』」


十字型に走る軌跡。


宝石と黄金の刃は、隠された第二の心臓をその首ごと断ち切ったのだった。

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