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息子の話

作者: A弐

第一巡、選択希望選手、中日ドラゴンズ。

A.S。投手。K高校。


無機質な男の声がテレビから聞こえる。更に、A.Sの名前は繰り返し呼ばれる。10球団の責任者が、順番に抽選クジを引く。当落を確認すべく、一斉に封筒を開ける。一人の男が破顔、拳を高く突き上げる。その瞬間、ワッと歓声が上がる。私もまた、渾身のガッツポーズをする。その手をSが取る。何度もマメが潰れた硬い、それでいて優しい手。

18年で手の感触は逞しく変わった。が、この子の優しさは変わらない。

私は初めてこの子に出会った時からこの瞬間を分かっていたのだ。高校1年、甲子園で鮮烈デビュー。都内の激戦を勝ち上がった都立の進学校は、甲子園初出場ながらベスト8進出。高校2年の夏はベスト4へ。そして高校3年で悲願の初優勝。毎年日本の夏はSで湧きに湧いた。

容姿端麗、文武両道。正に才気煥発。周囲からは大学進学を進める声もあった。当然、最難関私立大学も特待で迎え入れると準備をしていたし、あらゆる国立大学に自力で入る学力もあった。しかし、Sの選択はプロ野球への挑戦。

「大学はいつでも行ける。このまま本当の日本一、世界一を目指したい」

その言葉をマスコミは一斉に取り上げた。実際、2037年は大学生の3割は社会人を経験してからの学び直しで入学している。高卒でプロ野球に進んだ選手が引退後、優れた指導者となるため、或いは新たな道を求めて大学院進学、という事例も数多い。

とは言え、甲子園の大スターを来年からは夏だけでなく、1年の半分観られると野球ファンのみならず、国民が歓迎した。そのような状態だったから、14球団の内、7球団が事前にドラフト1位指名を公言したのも無理からぬことだ。そして実際には球団数が増えたとは言っても、史上初となる10球団競合の末、見事に中日ドラゴンズがその交渉権を獲得したのである。

さあ、これからやっと、私の知らないSの物語が始まる。私の主人公から、世界の主人公として歩み始める物語が。


息子よ、世界を変えろ。お前にはなんだってできる。

息子が産まれた50日記念に。ちょっとした夢を残しておく。本当になった時、18年前から予言されていたら凄いからね。

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