第7話~リプレイチェック そして有り難いご神託~
ふと気がつくと八木澤は、例の女神の間に居た。
「お?また死んだんかいの。死んだ気がせんのだが。王子、殴り倒して勝ちどきあげちょる隙に、誰ぞにカウンターでも入れられたんかのう」
いやいや。まだ今回は死んでませんよ。と女神がにこにこして言う。なにやら凄くうれしそうである。八木澤の記憶を引き継いだアルシオーネは、なかなかアルシオーネの枠から飛び出せずに百回位、横死していた。魂は八木澤そのものだが、表層の意識はアルシオーネのままであったからだ。
「死ぬ前にここに来るなんて初めてじゃないか、ええんかい?ならもっと早ようにこないして呼び出しゃあ、良かろうもんに。」
女神はなにかごちゃごちゃと言う。どうもルールがどうのと言うどうでも良い話のようだ。八木澤は考えることをやめた。どうせ、どうでもよい話なのだろう。こうして生きたまま、女神の間、神殿の聖域に居ると言うことは、アルシオーネの魂の枠を内側から食い破って八木澤が表層意識となったことにより、初めて可能となった…という話をしているらしい。
「さいで。それで今般はなんの御用で」
八木澤はとりあえず女神に問うが、自分の身体のチェックに余念がない。どうせこの女神の言うことなぞ、まともに実現したためしがない。それよりこりゃあ凄い。こっちのが大切じゃ。八木澤は自分の胸元をジロジロと見つめた。胸ぐりが深く、大きく開いたデザインからは白い肌、ならぬ青い肌が見え隠れしていた。
「見事な胸割じゃぁ。女の肌に刺青とは無粋じゃとおもっちょったが、これはこれでええのう」
慎みもなく、自分の胸をわしづかみにしては、刺青の入り具合をチェックしている。そのうち、女神から姿見とコンパクトを借りて、合わせ鏡で背中のチェックまでし始めた。ガマガエルの上に人が立っている。間違いなく、八木澤の自慢のガマの刺青である。
「やる気5割増しじゃぁ」
女神は何か言っているが、まぁ気にすることもないだろう。魂の形が少し変化した、ということか。ああ、女の形のまま、八木澤をやってるってことがすばらしいってことか。まぁ分かった。で、これからどうするのかそれをまず、そこを聞きたい。そこまでまずは女神の戯れ言と右から左に聞き流すことにする。
「女神様。子細承知いたしやした。ここから選択が三つあるということ、肝に銘じやす」
ふむふむ。大体、聞いた。後は適当に返事をして元の世界に戻してもらえればよい。止まった動画の先には、倒れ伏した王子とひっくり返った弟が白目を向いている。当のアルシオーネは両の拳を握り、そのまま天に突き出した姿勢で雄叫びを上げ固まっていた。プレイ中の一時停止画像か。これもあとで見られるよう保存してほしいな。そんな事を考えつつ、画像の中に一歩、足をふみだしたのだった。