第4話~侠、八木澤が行く~
八木澤の家は、もとは武藤の一族だ。裔の俺は今でも武人である。その一念で一生を送った。振り返れば武張った人生だった。何度も服役し、組のため、親分のために体を張った結果が、これだ。その人生には後悔はない。後悔はない。そう、後悔は無いはずだ。
横山組での俺の立ち位置は、どう考えても冷や飯食い。長期の服役をおえ、親不孝通りに戻った俺。弟筋の小林弘幸。あいつが若頭になり、親分の養子となり、横山組を継いでいた。あいつのために俺はまた体を張り、指をつめ、左手の小指をつめ、薬指をつめ、右の小指をつめ、左の中指をつめ、右の薬指をつめ、左の人差し指を詰めた。いつしか俺はポン中と馬鹿にされ、組の中にいて、組員ではなかった。
「ガマよぉ、いい加減、ロクにすんぞ、こら」
悲惨にも息が切れている。極道の風上にもおけない。焼きをいれてる側が音を上げるのか。八木澤は口角をわずかに上げる。ガマカエルのような唇が皮肉な笑みを浮かべる。しかし殴り手は気が付かない。やくざとしてあまりに未熟だ。息が切れてこの俺の安い挑発にすら気が付かない。
「ざまぁないな、ガマ。てめーがヤクをあつかってるんはわかってんだよ」
さらに蹴り付けられ、あばらが肺に刺さるのがわかる。しかし八木澤は顔色一つ変えない。どの道殺されるのだ。ガラをさらわれた時点で覚悟している。後ろにいるのは小林以外に居ない。横山組は覚醒剤は扱わない。一次団体の親分の方針がそうなのだ。三次団体以下の横山組が覚醒剤を取り扱っていたことが明るみになれば、問題だった。八木澤は使い手ではあるが、売らない。そもそも売る前に自分が使ってしまう。完全なるヤク中。組の中でも塀の中でも何年もモタ工扱いだった。
「てめーが何本指詰めようと、こればっかりはもう駄目だ。ゆるせねぇ」
「堅気の人に迷惑かけやがって、横山の恥だ」
最後の最後にみた物は、小林のにたりとした笑顔だった。組みふされたまま、背中からアイスピックが心臓を一突きした。
三度目以降は世界観の似た世界でも人生をやり直させました。でもこんな感じ。