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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

シリーズ 夢

常夜の森にて

作者: Fin

 夢で見た光景をふと、文にしてみたくなっただけ。

 そこまで面白くはないと思う。

「ふぁー。」


 大きなあくびをしながら体の凝り固まった部分を伸ばして行く。長い銀色の髪が、まとわりついてうざったいが、髪を纏めるものなんて持っていない、諦めるしかない。起きたのが久々で、立ち上がったのなんか何年ぶりだろうかというほどだ。ここに朝日なんていう便利な目覚まし用のツールはないし、そもそも起きる理由もないのだから仕方がないことだろう。

 この時間から切り離された世界で、生きること以外許されないわたしは、食べることも不要になってしまって寝ることぐらいしかやることがなかったのだから。


 久々に散歩でもしようか、と外へ出た。外に出てまず目に入るのは森だろう、うっすらと燐光を纏う植物がところ狭しと並んでいる。

 ここに来ることができればその雄大な自然に感動の涙を流すほどだろう。

 とはいえ、ここにわたし以外に人がいるなんてことはないし、今までいたこともないのだが。

 わたしも最初見たときは、人並みな驚きを覚えた。しかし、毎日見ていたとしたらそれになんの価値があるだろうか。感動は薄れていくものだし、人は飽きるものだ。

 わたしもとっくの昔、幾年月も前に忘れてしまった感覚だ。


 森林浴なんていうものも、前の世界にはあったがここで森林浴をしてもなんの意味もないだろう。

 なにせ、ここには太陽が出ることなんてまずないからだ。

 浴びるとしたら森の奥の滝の水か、どこからともなく湧いてくる霧くらいのものになる。


 わたしは、そんな光を纏った幻想的に過ぎる森へと歩きだす。

 森の中には木々が避けたかのように道ができている部分がある。

 別に同じ場所を歩き続けて道になったとかそういうのではない。この道はわたしがここに存在し始めたときからずっとあったものなのだ。

 わたしの前に誰かがここにいたのかもしれないし、もしかしたら神かなんかの力で意図的に作られたものかもしれない。

 まあ、今までそんなことを思わせるようなことは起きていないし、そもそも、ここでわたし以外の知能を持った生物には逢ったことがない。


「はぁ……逢えないかな、………誰でもいいのにな。」


 もし逢えたら、話したいこと、一緒にしたいこと、紹介したいところがとてもたくさんあるんだ。かなわない事だとは分かっていても、考えてしまうことは止められないのだ。

 きっと、ここに来ることができる種族は羽があるんだろう。そもそも、この森は陸に繋がっていない。

 この森の端まで歩くとそれが分かるだろう。代わり映えしない森の道が、段々とまばらになり、やがて、森の最前線までやって来た。

 そこは、木々がなくなっているだけじゃない。地面もなくなっていた。

 普通ならあり得ない光景だが、事実目の前にあるのは落ちる先のない断崖絶壁だ。

 いや、落ちる先はあるのかもしれない。が、霧に包まれたその先へと飛び込む勇気はわたしにはなかった。

 崖上から見える光景はなかなかに幻想的と言えるだろう。下は霧に包まれ、見上げると夜空の星ぼし、そしてそれに劣らないほど、キラキラと煌めく対岸の木々達、他にも色々なものがここからは見える。


 誰が何の目的で作ったのか、自然発生のものなのか、そして、何故わたしはここにいるのか。


 いつもの散歩コースはこれで終わりじゃない、道は90度曲がった方向にも伸びている。

 散歩はまだ続く、再び森の木々の中へと入って行く。目指す先は、対岸の森だ。

 

 さわさわと風が吹く、普段、ここに風はほとんど吹かない。風が吹くとだいたいろくでもないことが起きるのだ。前回吹いたときは、森が端から枯れていった。

 その時はしっぽを巻いて逃げた。しっぽなんてないけど……


 しばらく待ってみたが、何かが起こる様子はない。散歩を再開しようか。

 木々を抜け、目の前には再び崖が現れる。しかし、そこにはなにもないわけではなく、対岸へと繋がる橋が架かっていた。

 この浮いた島は、全部で9個ある。

 わたしがさっきまでいたところは、8個の島に囲まれた中心にある島のさらに中心、そこに建てられた小屋のような不格好な建物になる。

 わたしは今から、散歩ついでに泉で水浴びをしに行くのだ。これがいつもの散歩コースである。


「ふんふんふーん。っふふ、ははっ。」


 泉が近くなるにつれて気分も上がる、水浴びは大事だ。これは譲れない。

 できればお風呂、欲をいえば温泉が欲しかったというところだが。宙に浮いた島だ、温泉なんてあるはずもない。

 その場で作った歌を鼻唄で歌いながら、跳ねるように歩いて行く。


「みっずあび、みっずあび、ふんふんふーん。」


 泉を目の前にして気分は最高潮だ。きっと今わたしを邪魔したら、大変怒ってしまいますよ?

 よし、と意味もなくガッツポーズする。

 服を脱ぐため近くの灌木に隠れる、いくら誰もいないと分かってても、恥ずかしいものは恥ずかしい。

 靴を脱いで近くの枝に掛けておく、この靴はここに来たときから履いていて、何でできてるのか全く壊れない。

 次は下着を脱いで枝に掛ける、皺にならないように延ばしておく。

 最後はワンピースだ。ノースリーブの白いワンピースはかなり気に入っているものだ。他に服はないけども。まあ、これも靴と同じで壊れたことがない謎物質だ。

 ワンピースも同じように皺にならないように枝に掛ける。

 これで水浴びできる、と目を輝かせた。


「みずあびー、っふふ。」


 ゆっくり足から水に浸けていく。数日ぶりの水浴びだ、ここは簡単にこられるほど近い場所にないのだ。

 そもそも日にちの感覚が合っているか分からない、ここには、1日というものがないのだ。太陽が昇らないのだから仕方ない。


「つめたッ!?っふふ、ははっ。」


 つけた足から伝わる温度に、思わず声が漏れる。その後もゆっくりと足から脚、脚から腰、腰から胸へと水に浸けていく。

 肌に水を乗せるように撫でていく、もともと汚れなんてないが、気分の問題なのだ。

 一通り撫で終わったら、あとは水遊びと変わらない。ばしゃばしゃとしぶきをあげて、舞うように泉の中を廻る。


―――さわさわさわ―――


 誰?

 森の方から音がした。草木に擦れる音だ。人がいるの?と困惑するわたし。しかし、相手は待ってくれないようで、気の影から男が出てきた。


「すまない、見るつもりはなかったんだ。」


 申し訳なさそうに言う男。何のことか?と首をひねりかけたところで、今、わたしは何を着て……まで考え、理解し、羞恥心が首から顔へと上がっていくのを感じた。

 人が現れたことに対する困惑で訳がわからなくなったところでこの仕打ちである。


「きゃーっ!!」

「うおっと!」


 そりゃあ、叫び声も上げる。ついでに平手打ちしておくべきか?うん、しておこう!

 ゆっくりと近づいていき、見せつけるように腕を挙げる。しっかりともう片方の手で胸は隠している。


バシンッ!!


 右手が男の頬を捉えた音が響く。茫然自失となった男を尻目に、さっさと着替えることにする。


「えっ?えっ!?」


 男は困惑しているようで、わたしについてこようとしたが、睨んで止めておいた。わたし、目付き悪い?


 手早く着替えを終え、灌木の間から出る。男はまだ困惑から回復していないようであたふたしている。

 声を掛けるべきか、ほっておくか。人に会ったのは、もうかなり昔だ。人間の国ができて、滅ぶくらいの時間は経っていると思う。

 この男、どうやって何処からここに来たのか。出来るならわたしも人のいるところに行きたいし、何よりおしゃべりしたい。


「ねぇ。」

「えっと、あれは完全に俺が悪くて、えっと、あーえと、どうしたら。」

「ねぇ、おーい。」

「えと、あっ!ごめんなさい!」


 勢いよく頭を下げられました。ビックリしたぁ。行きなり来るとは思わなかったよ。というか、久しぶりすぎて人との接し方が分からん。


「………」

「………」


 ちらっ、ちらっ、と目を向けてはそっぽ向くこと数回。先に話しかけたのは男だった。


「えっと、改めてごめんなさい。」

「あー、いえいえ、わざとじゃなかったんですよね。」

「もちろん!わざとやるわけないじゃないですか。」


 食いぎみに否定してきて顔が近い。久しぶりに見た人、男性。顔立ちは整っているし、服装は何処かの王子様みたいだ。王子様見たことないけどなっ。

 うわー、装飾たくさんだー。高そう、金持ちだわ、コレ。


「わざとじゃなければいいです。さっきのビンタで許します。」

「ありがとう。」


 にしても、綺麗な金髪だなぁ。地毛だね、染めた感じじゃない。コスプレにしてはクオリティ高すぎだよ。あっ、でも剣とか持ってるけど刃はあるのかな?たぶんないよね。銃刀法違反だもん。


「あのー、何処からきた、とか聞いちゃってもいいのかな?」

「はい、俺は王都ヴォロニスからきたんですよ。それより、ここはどこですか?ヴォロニスには近いですかね。」


 王都ヴォロニス、どこぞ?聞いたことないわ!ここがどこかって?わ た し が し り た い よ ! !


「ごめん、ヴォロニスとか聞いたこともないです。スイマセン。」

「いえいえ、おきになさらず。……しかし、王都を知らないとなると、この娘は一体。」


 この男、どうやら一人で考え込む癖があるようで、また思考の渦にはまっていってしまった。しばらくは戻って来なさそうだね。剣でも見せてもらおうかな。本当に戻って来ない、ちょっとだけだしいいよね。

 腰に装備された剣を、ひょいっと盗って抜いてみる。磨き抜かれた美しい刃が現れた。


「おお!キレーだ。剣とか初めて見た。」


 刃はあるのかな?試しに腕に宛がってみることにする。剣を右手で支えながら、左手を前に出して刃を腕に添える。そのまま引くとすぅっと肌が斬れていった。

 斬れたところから血が滲む。


「いつッ!」


 痛い、思ったより斬れちゃったよ。それより刃あったよ、おーい銃刀法!仕事しろや!あっ、ここ日本じゃなかった。

 どうしよう、ここで怪我なんてしたことないし。まあ、このくらいなら放置でもいいかな。


「あれっ?剣は。」


 男が気づいた見たいで、辺りを探す。わたしはイタズラをした子供みたいに剣と、血の出ている左腕を隠した。もちろんそんなことしたらそこにあると言っているようなもので。


「あのー、剣、持ってますよね?」

「……(いやー、そんなことないんじゃないかな。)」


 つとめてポーカーフェイスを保つ!そんなに見られても困るよ……


「ほら、やっぱり持ってた。」


 うぐっ、普通に腕を取られた。いとも容易く剣が回収される。そして、剣の確認を始めた男だったが、その剣にはもちろんのことながらわたしの血がついている。


「腕を見せてください。」

「いや、別に見せるようなものでは……」


 再び腕を取られる。腕から滴る血を見てひとつため息をつく男だった。


「女の子が剣で遊んではいけませんよ。危ないですから。」

「はい、すみません。」


 ぐうの音も出ないね。どう考えてもわたしが悪いもん。怒ってるかなぁ。ヤバい、まだ話したいことあるのになぁ。

 そう考えたら目に熱いものが込み上げてきた。


「ええッ!どうしたんですか!?」

「ううっ、っいや、なんでもない、です。」


 どうしよう、驚かせちゃった。涙止まらないよ。泣きたくないのに、どんどん涙が出てきてどうしたらいいかわかんないよ!


「大丈夫!?傷が痛むんですか!?すぐ治します。」

「ちがっ、くて、嫌われたく、なくて。ううっ、もっと、はな、したいこと、あるからぁ。」


 ああ、考えが纏まんない。心配してくれてるのに泣いてばっかでわたし、言葉もまともに話せてない。


「こんなことで嫌いになったりしませんよ!まず治療しましょう。」

「うん、分かった。」


 これじゃあ完全に子供だ。親に叱られるのが怖くて泣きじゃくる子供じゃないか。

 でも、彼は根気強くこんな面倒くさいわたしと向き合ってくれている。応えなきゃ。


「腕を出して。」

「はい。」

治癒(ヒール)、おっと。女の子の肌に傷が残ってはいけないからね。」


 わたしの腕を光が包む、傷口がしゅわしゅわっと音をたてて塞がっていくのが見える。

 Ohなんて異世界。


「これでよしっと、痛みはありませんか?」

「うん!大丈夫。」


 すごい、魔法だ。傷痕も残さずピッカピカだ。コスプレイヤーとか思ってごめんなさい。

 腕を閉じたり開いたりして確認していると。


「あっ!名前。」


 そうだ、お互い名前知らないじゃん。知りたい、彼の名前聞きたい。

 まだ王都の名前しか聞いてないもん、聞いてもいいよね。


「名前っ、名前教えて。」

「あっ、はい。俺は、アルフリード・レヴォルトといいます、一応レヴォルト家の次期当主ですね。アルでいいですよ。知人はだいたいそう呼びます。あなたは?」


 アルくん!アルくんっていうんだぁ。わたしの名前聞かれてる。答えなきゃ。


「わたしは、わたし?わたしの名前?……思い出せない?なんで。」

「どうしました?」


 名前が、思い出せない、どうして?

 ()()()()()()になる前?


「思い出せないんですか?」

「うん、名前があった気はしてるんだけど……」

「どうしましょうか、名前がないと不便ですし。」


 確かに不便だ、わたしは呼べるけど彼がわたしを呼べない。どうしようかな。

 あっ!そうだ、ないならつければいいじゃない。


「アルくんがつけてくれない?」

「な、なにをですか。」

「名前!わたしのー。」


 いいですけど、と言ってまた考え込むアルくん。アルくんがつけてくれる、アルくんが名前をつけてくれるっ!


「名前つけるの得意じゃないですから、期待しないでくださいね。」


 え?無理、絶対期待する。じっくりと考え込みながら、時々ちらちらっとこっちをみているのが分かる。

 やがて、彼がこっちを向き直った。


「決まりましたよ、君の名前は……」


 わたしの名前は……


「アルジェ。」

「アルジェ……これがわたしの、名前。」


 アルジェ、わたしの名前。しっくり来る。アルくんにつけてもらった名前。これからわたしはアルジェだ。


「うん、気に入った。」

「よかった、愛称はアル、かな?」


 イタズラが成功したような顔をしてウィンクをわたしにしてきた。ああ、最高のサプライズだともさ。アルフリードとアルジェ、二人とも呼び方は今後″アル″だろうなぁ。っふふ。


「よし、行こうかアル!」

「うん!行こう、アル!」








―――こうして二人は霧に消えた。その後を知るものはいない。―――

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