第四話:悪ガキどもの知恵
ゲームをやり続けるには、それがうまくなるか、軍資金を集めるか、それ以外に、どうしたらいいのか。……悪知恵を駆使するしかなかった。禁断の果実へと、暴走し始めた。
生きるか、死ぬか、それが問題だ。
by シェイクスピア「ハムレット」より
13発目にUFOを撃ち落とすと300点が得られることに、慎吾は気がついた。最高点だった。
その秘密を敬子に話すと、とても楽しく感じたのか、笑顔がとびきり可愛く輝いた。
それが彼の気持ちに火を付け、やり甲斐になった。
那覇の繁華街の一角にある規模の大きなゲームセンターへと出かけ、ハイスコアーを競い合った。自分の名前をアルファベットで入れこむのである。『HI-SCORE 32100-S.S』 とする。全てのゲーム台に自分の名前を残そうと、空いたのを見ては飛び移った。
ナンバー2の名前も覚えてきた。『R.O』という名だ。そこでは自然と顔見知りが増えてくる。同じ中学の遊び仲間、不良グループだ。話す会話もゲームの内容より、その遊び金の集め方に皆の知恵が収集された。
その中で一番図体のがっしりとした男がいた。大城だ。
下の名前を聞いた途端、(こいつか、二位は)と思った。
彼は、フロアーをしきり始めた。刈り上げられた頭に、凹んだ三日月のハゲが目立つ。長く伸びた形は、バナナと言うより、サトウキビを刈る釜であり赤錆が付いている。右腕の肘には四、五針縫ったような傷跡もある。ゲーム中、それが上下に動くのだ。宇宙人と実戦を交わしたのではと思わせるほど不気味だった。
大城が背中を曲げてやや前屈みに歩く格好は、ゴリラに似ていた。それで「ゴリー」と呼ばれていた。番長としてのニュアンスも含まれている。
ゲームセンターは猿山だった。そのゴリーは軍資金の集め方を提案してきた。自動販売機の下に転がったコインを拾うというものである。割り箸で挟み込むように、販売機と地面との隙間を探るのである。殆どが十円玉だが、極たまに百円玉が割り箸の先にひっかかり、手前に出てきた。
苦労してつかみ取った瞬間、猿達は地球を再び防衛出来る喜びに満ちあふれた。やがて、そのお金をかき集める自分の姿、割り箸を両手に持ち、販売機の前で覗き込むのが格好悪いと感じるようになった。
進化した猿、慎吾は考えついた。禁断の果実をかじってしまったのだ。その自動販売機の『おつり』が出てくる穴、『返却口』と書かれた小さな蓋を外す。いや、壊すに近い。そのトンネルの見えない奥に、ガムテープで開かずの扉を作ってはどうかと。一日に一回、深夜にガムテープの内側に溜まっていくものを、取り出せばいいのである。
実際、テープをはいだ途端、ザーッと出てくる貨幣の滝は快感だった。それは電話機にも応用できた。あまり時間をおくと、貨幣の重みに耐えきれなくて落ちてしまうのだった。不運にも、そこに居合わせた客に総取りされることもある。
指先に剥がれたガムテープが触れたとき、
(しまった)と悔しさを感じた。