第三話:駄菓子屋の娘
慎吾の中学の頃のゲームの記憶は、同級生の彼女のことを、思い出させた。
応援してくれたその笑顔が、忘れられない。
「素晴らしい新世界! そこにはこんな人々が住んでいるのね」
by シェイクスピア 戯曲「テンペスト」より
『敬子さん』は、インベーダーゲームに全く興味が無い訳ではなかった。
那覇市の北側に位置するT町、そこに彼女の生家があった。三階建て、その一階は駄菓子屋を経営していた。最近、祖父がゲーム機を一台入れたと話していた。子供にお菓子を選ばせている間、大人が百円玉をどんどん入れて遊んでくれると。おじいさんからのこずかいが増えて服が買えた、とも話していた。
「敬子さん、そのゲーム、やったことありますか?」
「私は、しないけど、店の番をしているとき、遠くから、しっかり見てるわよ」
「じゃ、良く分かるんだ!」と、意気込んだ。
「私、一度、試したことあるけど、難しいわ。それに、何が面白くて、あんなのに、はまっているのか、理解できないのよ。でも、あの蟹みたいなものに、すぐやられちゃう客だと嬉しいの」
「えっ、どうして?」
「だって、どんどん、お金を入れて遊んでくれるもん。おじいちゃんもそう言ってた」
彼女は少し間を置いて、小声で、
「でも上手になったほうが、カッコいいとは思うよ。慎吾君! ――ゲームだけど、その視線は真剣だし、振り上げたその目に合ったとき、私、たまにゾクッとする」
と、右手を自分の胸元に当てた。
「そうだよね!」
と、元気のいい返事を返した。
「この前、閉店後に従兄弟が遊びにきて、鍵を使って、ゲームの蓋を開けたわ。カチカチっと、何かに触って、ただでゲームをやっているのよ。おじいちゃん甘いから、『ずーっと』させてるの。さすがに、十時過ぎまでやっていたときは、お母さんにもう、家に帰るって、怒られてたわ」
「いいよなー」と、彼は頭を掻いた。