第二十話:隠されたものたち、再び隠れようと
『隠されたものたち』、完結話
ああ、ロミオ、ロミオ、あなたはどうしてロミオなの。
by シェイクスピア「ロミオとジュリエット」より
バラは香水となってその香りを残してこそ、地上のしあわせを受ける。
by シェイクスピア「真夏の世の夢」より
慎吾は、二十年前の記憶を辿った。
(あの日……高校を卒業後、やけになって酒に溺れた深夜、愚痴ばっかりで、みすぼらしく駄目な自分を、敬子は受け入れてくれた。彼女の肌の温もりを、思い出してきた……)
左手を額に当てる。酔いの中、全てがつながっていく。
(麗子おばさんと自分、そして理沙………あぁ…)
彼女は覗き見るように、
「佐々木さんは、何型なの?」
震えを抑え、力の限りを尽くして、
「そっちのママと同じ……A型だよ」
しばらく間があり、理沙は大きく息を吐きだした。
「実は、もしかしたら、と思ってたけど……嘘は付けない純情タイプね」
理沙はバックからヘアーブラシを取り出して乱れた髪を整え、そそくさと部屋を出て行った。
慎吾は、部屋を片付けることを止めた。家の外を歩くが、この街で自分の足下が揺れていないことに気がついたからだ。自分の存在が、大樹のように地面と繋がっている感覚を受けた。そこからの何かが、体中に流れ込んでは出て行く感じである。快感だった。生きる事が嬉しいとも感じた。
翌日、
小さな男の子を抱えた母親を見かけた。泣きわめく鼻水や、涎を拭いている。全てを受け入れている姿だった。
〈ピピッ〉
理沙から携帯メールが送られてきた。
『お母さんの「出せなかった手紙」を、全て読みました。昨日、血液型、嘘ついたでしょ』
携帯電話に表示されている一文を見続け、まったく動けずにいる。瞬刻が鼓動に会わせるかのように過ぎ去っていく。
慎吾は母の位牌に向かって座した。
(お母さん、ごめん、やっと、今になって感謝できる。『ありがとう』)と、心で返事を送った。
これまでの事、これから未来も、彼は受け入れることができた。
理沙にもスマフォで返事を送った後、両目をしばらく閉じた。ゆっくりと一本の線香に火を灯した。
〈ピピッ〉
半時間ほどの間をおいて、返事がきた。
『もう、嘘つかないで……また、会ってくれる? あなたは、私の、……』
文字の続きを読んている時、手にするスマフォが震え、「ピピピッ、ピピピッ」と鳴った。電話が、かかってきたのだ。
理沙から。
了
PS.
過去と、現在が入り乱れて、複雑になりました。
時の流れ、把握が難しい感じですが、ひとまず完結です。
読んでいただいて、ありがとうございました。




