第十九話:隠されたもの
二人は、ついに隠されたものに触れた。
俺は何を恐れているのだ? 自分自身をか?
by シェイクスピア「リチャード三世」より
理沙は酔いながらも、しっかりと立ち上がり、
「あなたも、お父さんと同じ。そんな目で私を見るのよ!」
「えっ……」
慎吾は戸惑い、目をそらした。
「お父さんは、弟ばかり大事にするのよ。『女はどうせ、もらわれていくんだろう』とか、『別の家族になるんだ』とか、ひどいのよ」
「…………」
「いつも言っていたわ。『もしかして、お前は俺の子じゃない』って」
「そんな……」
「『病院で間違ってしまった』とも、言うのよ」
「まさか」
「お母さんは、『そんなことは、ない』って。私はお母さんの子なの、何故って、凄く似ているでしょ」
「ああ、間違いないよ。クォーター、アメリカの血が入っている」
「なのに、お父さんは、『自分の子じゃないかも』って。『自分に似てない』って言うのよ」
慎吾は彼自身も母に実の子かと、問いつめたことを思い出した。その後、伯母や東京の祖父へ必死に電話をかけ続けた。『間違いない』と言う返事が帰ってくるが、どもる時もあった。『そっちの男女関係は知らん』という冷たい返事もあった。先日、麗子おばさんに直接訊いたが、うやむやにされたばかりだ。
それらに感情を奪われて、目の前の理沙を忘れた。
彼女は勢いよく立ち上がった。
「私、血液型を一度、調べたの」
「そっ、それで」
「私、O型なの、」
「…………」
「お母さんはA、お父さんは、」
「……お父さんは!」
と慎吾は声を荒げた。
理沙は次の一言を声に出す為に、体中の気力を振り絞るように。
「AB」
「まさか……」
「そうよ、私は、二人の子じゃないの! 父が違うの」




