真・摂政戦記 009話 速報
【筆者からの一言】
KILROY WAS HERE (キルロイ参上!)
今回はそんなお話。
1941年上旬『アメリカ ワシントンDC ワシントン・ポスト本社』
「写真はまだか!」
主幹が目を血走らせて怒鳴っていた。
部下の一人があたふたと確認してくる。
「あと5分だそうです!」
「急げ! 何としても他社に先駆けて号外を出すんだ!!」
「「「わかってます!」」」
主幹は焦りの色を隠そうともせず部下に怒鳴り散らしている。
デスクに張り付いてタイプライターを打っていた記者たちも怒鳴り返す。
修羅場だった。
それも当然だ。
ルーズベルト大統領殺害がされたのだ!
しかも閣僚と上下両院の議員も全員死亡。
犯人は何と日本軍!
本日のトップ記事の予定はルーズベルト大統領による開戦演説と、その後に上院、下院においてそれぞれ行われる「アメリカ、日本の両国間に戦争状態が存在することを公式に布告する決議」についての投票結果になる筈だった。
その為に議事堂には記者が詰めていた。他社も同様だ。
ところが、突如、ワシントンDC上空に飛行船が複数現れ、夥しい落下傘を吐き出した。
その後は議事堂周辺に煙幕弾を投下しているので周辺一帯が白煙に覆われ何も見えない。
白煙の中からは銃声や爆発音、悲鳴があがっているという情報が入って来る。
そこで主幹は手隙の記者達を議事堂に向かわせた。
しかし、派遣された記者達も白煙の中から銃弾が飛んでくるため危険すぎて議事堂には近づけない。
駆けつけた警官隊も記者達や野次馬を危険だからと制止して近づけさせない。
そのうち白煙の中からトラックや車が何十台も突如現れたが、それには武装した東洋人らしき者達が乗っており、発砲しながら通り過ぎるので警官隊も制止できない。結局一台も停止させられずに逃してしまった。
そうこうしているうちに、ようやく白煙が薄まりだし視界がクリアになってきた。
警官隊が前進を開始した。
記者や野次馬は制止させられたが「記者はそんな事構ってられるか」「我々には何が起きているか知る権利がある」「市民に伝える義務がある」と制止を無視してつていいく。
段々と議事堂正面に近付いていく。
そこで警官隊や記者達が見たものとは……
並べられた生首だった。
それもルーズベルト大統領をはじめとする閣僚達の生首だった。
それが議事堂正面入り口に並べられている。
そして議事堂周辺、議事堂内部には夥しい死体がそこかしこにある。
あまりの凄惨な現場に思わず吐いた記者がいた。何人かの警官も吐いていた。
誰もが酷い惨状に言葉が無い。
生首の上で交差するように立てかけられているのは2本の日本の旗。
その横には机が横倒しにされ、一枚の紙が貼られていた。
紙には英語で
「Japanese army was here(日本軍参上!)」と大きく書いてある。
警官隊と記者達は、このとんでもない凶行の犯人を知った。
記者達は青褪めながらも幾人かが第一報を新聞社にもたらそうと駆け出した。
何人かはそのまま残り、詳しい状況を把握しようとつとめる。
戻った記者から報告を受けた各新聞社では騒然となった。
とんでも無い事件の発生だ。
この事態を一刻も早く全米の市民につたえなくては!
編集部は慌ただしく動き出した。
新聞社の中にはこのあまりに衝撃的なニュースをマスコミの判断で流していいものか悩む所もあった。
しかし、自分の所が流さなくても他の社が流してしまうかもしれない。
新聞業界も生き馬の目を抜く世界なのだ。
結局、どの新聞社も号外を出す事に決めた。
史実において、アメリカのマスコミは現代日本ではよく「自主検閲」をしていたとの声を聞く。
「自主検閲」と言うと、まるで出版社などが自主的に検閲していて、アメリカ政府は何も規制していないようにも思える言葉だが、そうではない。
アメリカも「検閲局」を設け報道してはいけない事を規則で定めていた。
日本との戦争開始から約1ヵ月経った1942年1月15日には、アメリカの「検閲局」は「戦時規定」をマスメディアに向け告示している。
これは報道してはいけない項目を定めたもので、次の8項目からなる。
1.軍隊の移動について
2.艦船の情報について
3.飛行機の情報について
4.沿岸警備状況について
5.工場での生産状況について
6.気象情報について
7.写真と地図について
8.軍隊の被った被害状況について
こうした「戦時規定」の項目は戦局悪化と共に次々と追加され17項目にまで増えている。
戦局が好転すると項目も減らされているが。
そこらへんは実にアメリカらしい対応だ。
アメリカの「検閲局」は、ただ告示してマスメディアが「戦時規定」を自主的に守るようにしていたわけではない。
「検閲局」は1万人以上の職員で、新聞、雑誌、ラジオ局等で書かれている事、報道している事をチェックし、「戦時規定」が守られているか監視している。
だからアメリカの場合「自主検閲」とは言っても、必ずしも全ての事柄についてマスメディアが自主的に判断し自主的に検閲していたわけではないのだ。
そして、今回の歴史ではまだ「検閲局」は始動していなかった。
その為、ワシントンDCに本社や支社を置く新聞各社は競って号外を出す事になる。
だが、それ以前に既にラジオ局がルーズベルト大統領を含む閣僚達の死を伝える第一報を流していたが。
アメリカ連邦政府の全滅。幾つもの大都市の壊滅。
その報が直ぐに全米に伝わる事は無かった。
アメリカの新聞は地方紙的色合いが濃い。ワシントン・ポストもワシントンDCか中心で全米にあまねく販売網があるわけではなく、地方での販売部数は少ない。
一流紙のワシントン・ポストでさえそうなら他の新聞も後は推して知るべしである。
ラジオ局にしても大手ラジオ局はCBSやNBCのようにニューヨークのような大都市に本社があった。
しかし、核攻撃で消滅している。
大手ラジオ局は大混乱だ。
そうなるとラジオも地方局が頼みの綱だが、地方局だから当然の如く、大手のように全国ネットワークは無い。
地方局から地方局へ徐々にニュースが伝わる事になる。
新聞はもっと遅い。
当然、情報伝達の速度は落ちる。
しかも地方に行けば行くほど、ニュースを聞いた人、特にラジオを聴いた人達は半信半疑となった。
3年前に一つの事件があったからだ。
「宇宙戦争事件」
1938年にCBSのラジオ番組においてドラマを放送した。
内容は小説家H・G・・ウェルズのSF小説「宇宙戦争」
それを実況中継風に放送した為、この番組を聴いていた人々はニュージャージー州に火星人が攻めてきたと思い込みパニックが起きたと言う事件である。
これは新聞でも大きく取り上げられた事件だった。
そうした前例が3年前にあったが故に、今回もまたラジオがルーズベルト大統領が死亡したとか、首都ワシントンDCが日本軍に襲われ連邦政府が壊滅したと放送しても、また何かのドラマか質の悪い冗談を流しているのだろうと、本気にしない人々も少なからずいたのである。
こういう人達が信じる気になったのは自分達の読んでいる地方紙の新聞が情報を伝えてきてからであった。
それでも徐々にニュースは全米に伝わっていく。
人口20万人を超える大都市は軒並み壊滅したが、人口10万人クラスや数万人クラスの都市、それより小さな町や村は全米にまだまだあるのだ。
その為に首都ワシントンDCは核攻撃の対象から外された。
核攻撃によりアメリカ連邦政府を壊滅させたとしても、それを日本が宣伝したところで、宣伝工作と疑われる。事実確認には時間がかかるだろう。
しかし、敢えて首都を残せば、そこに生き残っているマスコミは当然の如くニュースを伝えるだろう。
全米のアメリカ人に、首都で何が起こったのか真実を知らせるのは同じアメリカのマスコミの方が信頼されるだろう。
そして、ニュースを知ったそうした地方都市、町、村に生きる人々は、アメリカの行く末と自分達の生活の今後を思い不安と恐怖に苛まれていく事になる。
【to be continued】
【筆者からの一言】
今明かされる本音。
飛行船から落下傘降下ではなく兵士をカタパルト発進をさせたかった……
幾ら何でもそりゃやり過ぎだと、泣く泣く諦める事に。
でも、いつか書きたいなぁ。