真・摂政戦記 006話 侵攻
【筆者からの一言】
飛行船のお話の続きです。
1941年12月10日 『アメリカ本土』
開戦と同時に行われた「桜華」部隊によるアメリカ本土強襲作戦は全て成功していた。
「桜華甲班」による中小規模の港での無差別殺戮作戦と港湾設備の破壊。
「桜華乙班白桜隊」による内陸主要30都市での無差別殺戮作戦。
「桜華乙班黄桜隊」によるメサビ鉱山、巨大ダム、五大湖周辺の軍需工場の破壊。
「桜華乙班薄桜隊」によるフォート・ノックスでの金塊奪取と基地の占拠。
「桜華乙班薄桜隊」によるデンバー造幣局からの金塊奪取。
「桜華丁班」による西海岸の四港、クーズ・ベイ、ノースベンド、クレセント・シティ、ユリーカの占領。
「桜華乙班紅桜蕾隊」と「第零東遣航空艦隊」による政府閣僚及び上下両院議員の殲滅と陸軍省と海軍省の制圧。
また「桜華丙班」による気球によるアメリカ本土強襲作戦が開始されている。
そして日本本土より遥々太平洋を横断した「第一東遣航空艦隊」と「第二東遣航空艦隊」の24隻の巨大な飛行船は既にアメリカ本土奥深くに侵攻していた。
飛行船の長所は航続距離が長い事である。
1929年にドイツの飛行船グラーフ・ツェッペリンは世界一周旅行に旅立つが、ドイツから日本までの約1万1000キロを無補給、無着陸で飛行している。
更にその後、太平洋を横断するが途中でハワイに立ち寄る事無くそのままロサンゼルスに向かっている。
メーコン型飛行船ならば約1万6000キロを飛行できる。
日本からアメリカの大西洋岸、つまりニューヨークのある東海岸までの距離は約1万2000キロ。
それは日本から片道ならば無補給でアメリカ本土全域を攻撃範囲にする事が可能という事でもある。
しかも太平洋の横断には4日しかかからないのだ。
現在、アメリカ本土西海岸のレーダー網は沿岸大都市での核テロ攻撃によりズタズタだった。
「ウラン爆弾(原子爆弾)」の爆発により強力な電磁力が発生するEMP効果が発生しており、レーダーや無線の内部部品をダメにして使えなくなる事態を引き起こしている。
今や西海岸の警戒網は完全ではなく穴だらけだった。
「第一東遣航空艦隊」と「第二東遣航空艦隊」の飛行船艦隊は、肉眼で発見されにくいよう、戦闘機に迎撃されないように、アメリカ西海岸到達時刻を夜間の時間帯になるよう調整し太平洋を横断した。
飛行経路はアラスカとハワイの中間あたりで一番、警戒が薄い海域だ。
飛行船艦隊のこの飛行は成功しアメリカ軍に発見される事なくアメリカ本土西海岸に達し海岸線を夜間に突破したのである。
海岸線を越えたアメリカ本土内陸部の地域ではアメリカ軍の警戒は手薄だった。
元々アメリカ軍の基地や駐屯地は偏っている。
歴史的に隣国のメキシコとは紛争や戦争が起こり、メキシコ自体も内乱が多い。
その為、陸軍は常にアメリカ南部に大きな兵力を置いている。
第一次世界大戦後、次にアメリカ軍が戦う事になるのはメキシコだと想定していたアメリカ軍人も多かったぐらいである。その中にはジョージ・パットンの名前もある。
そして海軍が西海岸、東海岸という海岸線を守り、また緊急に海外派兵する為の兵力が配置されている。
つまり、国家の防衛態勢において東、西、南に兵力を重点配置している。
内陸国家に置き換えるなら国境線沿いに軍を配置しているのと同じ展開状況だ。
逆に言えば内陸部は外敵の脅威は低い。
その為、基地や部隊は少ない。
今や「第一東遣航空艦隊」と「第二東遣航空艦隊」の飛行船艦隊は、そのアメリカ内陸奥深くのアメリカ軍の手薄な地域にまで入り込んでいたのである。
夜間に海岸線を突破し内陸に入り込んだ飛行船団は、朝や昼になると大勢のアメリカ民間人の目にとまった。
しかし、それが何を意味するかを理解している者はいない。
飛行船が国籍を表す日の丸を付けていない事もその理由の一つであるが、まさか外国の飛行船が多数、アメリカ国内奥深くを飛んでいるなど、アメリカの民間人は誰も思わなかったのだ。
その隙をついて飛行船艦隊による攻撃作戦が始まろうとしていた。
「よしっ! 全巻艦に信号。N作戦を開始せよ!」
艦隊司令官より命令が発せられる。
発光信号により各艦に命令が伝えられる。
各艦は受信完了を発すると共に、それぞれ予め定められた目標に向け針路をとる。
24隻の飛行船は散らばりながらアメリカの大空を飛翔する。
それをまだアメリカ軍は知らなかった。
【to be continued】
【筆者からの一言】
次回、飛行船艦隊が〇〇〇します。