真・摂政戦記 004話 崩壊
【筆者からの一言】
ルーズベルト大統領は……
1941年12月9日 『アメリカ ワシントンDC 連邦議会議事堂』
うつろな目をしていた。
その瞳にもはや光は無い。
今やその瞳は何も映してはいない。
それもその筈、死体の瞳だからだ。
いや、その表現は一部しか正しくはない。
それは死体の一部。
顔だけだ。
正確に言うなら切り離された首だ。
「剣聖」中山博道がその首だけとなった者の髪を掴み持ち上げた。
「ふむっ。間違いない。写真で見た通りの顔をしておる。こやつがルーズベルト大統領だな」
「師匠。やりましたな。一番手柄ですぞ」
刀を鞘に納めつつ歩みよるのは弟子の羽賀準一だ。そま顔には笑みを浮かべている。
「なーにたまたま首を刎ねたのが敵の首魁だっただけの事。偶然、偶然。幸運だっただけよ」
「かっーーーーーーっ。やられたか、俺様が仕留めようと狙っていたのに! 先を越された!」
そう言って刀を肩に担ぐように歩んで来たのは国井善弥。心底悔しいという顔をしていた。
「ほっほっほっ。これも神様のお導きですな」
本部朝基がにこやかに話す。
他の十二神将も徐々に集まり始めていた。
皆でにこやかに話しているが、周辺はアメリカ人の死体だらけだ。
その周辺だけではなかった。
議会議事堂の中も外も夥しい人の死体で溢れていた。
それも斬殺され、殴り殺され、叩き殺された死体が山のようにある。
首や手足が胴体から切断されている死体もある。
血しぶきがそこらじゅうに飛び散り、そこかしこに水たまりならぬ血だまりができている。
どういう殺され方をしたのか両眼、両耳、鼻、口から血を吹き出して死んでいる者もいた。
血の臭いが濃く漂っていた。
気の弱い者が見たらそれだけで卒倒してしまうような光景だ。
だが十二神将にそれを見て吐いたり気分が悪くなったりするような柔な者は一人もいない。
いつものように自然体で会話していた。
そこに血桜隊の狗の一人が報告に来た。
「生存者はおりません。全員にとどめを刺しました」
「よしっ」
「剣聖」をはじめ十二神将全員が満足そうに頷いた。
日本軍の強襲作戦は成功した。
議会議事堂にいた者達は全員が死んだ。
攻撃が開始されてすぐ、議会議事堂が煙幕に包まれ建物内部にも煙が侵入した為、視界が悪く外の状況がわからない事から護衛達は要人を建物から出さず、応援が来るまで籠城しようとした。
しかし、結果的にはそれが仇となる。
扉や建物の壁が爆薬で吹き飛ばされ、次々と狗達が侵入し十二神将と共に各部屋を制圧していった。
護衛も懸命に戦ったが敵わなかった。
降伏しようとした議員や職員もいたが情け容赦なく殺される。
ルーズベルト大統領は死んだ。逃げようとしたところを「剣聖」に首を刎ねられて。
護衛など「剣聖」の前には案山子も同然だった。
ルーズベルト政権の中枢を担っていた者達も皆、殺された。
ヘンリー・アガード・ウォレス副大統領
ヘンリー・モーゲンソウ財務長官
コーデル・ハル国務長官
ヘンリー・ルイス・スティムソン陸軍長官
ウィリアム・フランクリン・ノックス海軍長官
全員が殺害されている。
他の閣僚も死んだ。
これが現代ならば一ヵ所に政府閣僚が全員集まる事などなかった。
冷戦における核戦争の恐怖に晒された時代から一ヵ所に政府要人が集まり全滅する可能性が危惧され、何らかの集まりがある時でも閣僚の誰かは別の場所にいるよう法で定められているからだ。
しかし、この時代にはまだその法は存在しない。政府閣僚が一度に全員失われるという可能性など考えられていなかった。
だが、この日、それが起こったのだ。
上院議員も下院議員も誰一人生き延びる事はできなかった。
日本最強個人戦力たる十二神将はその任務を全うした。
「計画通り、大統領と閣僚達の死体を写真に撮れ。急げ。直ぐに撤収するぞ!」
「はっ」
「剣聖」の指示に狗が頭を下げる。
同時刻、同じ市内にある陸軍省と海軍省も陥落し全滅していた。
ワシントンDC強襲作戦は目的を達成したのである。
後は逃げるだけ。
飛行船は既にワシントンDC上空から飛び去っている。
代わりに議会議事堂前には「桜華乙班紅桜蕾隊」の狗達がトラックや車を乗りつけている。
それらの車両で撤退するのだ。
彼らの逃避行はこれから始まる。
こうしてアメリカ連邦政府は壊滅した。
大統領も、大統領継承権を持つ閣僚も、上下両院の議員達も誰一人助からなかった。
アメリカ連邦政府はここに崩壊したのである。
【to be continued】
【筆者からの一言】
日本の剣聖がアメリカ大統領を斬殺!
「小説家になろう」で剣聖が活躍するのはいつから時代劇作品やファンタジー作品だけだと思っていた? みたいな感じで一つよろしくというお話でした。
「小説家になろう」でIF戦記を書くにあたり、常に右斜め上の成層圏の彼方を目指す作者。それが死の商人S