真・摂政戦記 0027話 妥協
1941年下旬 『アメリカ ワシントンDC ホワイトハウス』
「これが、日本の要求なのか?」
国務省次官より日本の講和条件のリストを渡され、それに目を通したハーラン・フィスク・ストーン臨時政府代表の第一声には多分に疑惑の成分が含まれていた。
「そうです。代表、どうやら日本は第二、第三の満洲を造ろうとしているようです。フィリピン、ハワイは勿論の事、アメリカ本土にはメキシコ系、インディアン、黒人の傀儡政権を置くつもりでしょう。
もし、この条件を飲めばこの国の根底が揺らぐ事になります」
国務次官が意見を述べた。
「同意見です。他はともかくアメリカ本土で有色人種に国を造らせるなんてとんでもない。これらの州にも大勢の白人がいます。決して有色人種の国など認めないでしょう」
内務次官が国務次官に同意する。
「だが、日本に譲歩させる事ができるのか? 主導権は向こうにあるんだぞ」
労働次官が懐疑的な意見を述べた。
「他の条件で折り合いをつけるようにするしかないのでは? 賠償金を増額する代わりに本土内の独立国は認めないとか」
商務次官が代替案を示唆する。
意外な提案をしたのは農務次官だった。
「傀儡政権を造りたいなら造らせればいい。今は講和を纏め平和を取り戻すべきだ。そして国力を回復をさせる。その後ならば如何様にもできる。はっきり言えばドイツを見倣えばいい」
「ヒトラーを見倣えと言うのか。これまであの男のやり方を否定しておいて」
商務次官が驚きの声を上げた。
「つまり、日本との講和条約は表向きなものだと? 最初から反故にするつもりだと?」
労働次官も微かに驚きの色を見せて問い掛ける。
農務次官は頷いた。
「そうだ。あの特殊爆弾が日本にある以上、表立って歯向かう事はできない。なら長期的視野で計画を立てるべきだ。
ここは隠忍自重して国民を救い経済を回復させ密かに軍備を整え特殊爆弾を開発する。
時が来れば、有色人種の国ごと纏めて日本を叩き潰せばいい。
数年はかかるだろうがね。
いかがでしょうか代表?」
「諸君らはどう思う? まずは皆の意見を聞きたい」
代表は皆を見回した。
「数年先の事とは言え、これ以上、戦争をするのは私は反対です。
確かに、犠牲者の復讐をしたい気持ちは私にもあります。
しかし、あまりにも大勢の国民が亡くなりました。
これ以上、犠牲者が出るのを私は見たくありません」
商務次官が戦争はもうたくさんだという風に言う。
「だが、このままでは世界はファシズムに支配される。
それに、日本が黙って見ているだろうか。
そのうち再び戦いを仕掛けてくるのではないか。
その為の橋頭堡としてのメキシコ系、インディアン、黒人の傀儡政権ではないのか。
そして、ドイツやイタリアも我が国に食指を伸ばしてくるかもしれない。
いや、弱ったアメリカを必ず狙ってくる筈だ。
それを阻むためにも力を回復させなければ」
国務次官が商務次官の意見を否定する見解を述べる。
「降伏する事にしたのは大勢の国民が現在危難の立場にあるからだろう。
今は目の前の窮状に集中するべきだ。
それに今回の日本が出して来た条件は第一次世界大戦のオーストリア・ハンガリー二重帝国よりは遥かにましだ。あの国は解体され無くなった。降伏した場合は国が無くなる事さえあるんだ。今回の条件は軽い方だ。受け入れた方がいい。まずは国民を救おう」
労働次官がそう言う。
「国民を救うのは当たり前だ。しかし将来も大事だ。ここでの決断が未来に大きな禍になってはいけないだろう。メキシコ系、インディアン、黒人の傀儡政権は大きな禍となる可能性があるんだぞ」
内務次官がそれに釘を刺す。
この日、会議は長時間にわたった。
長い長い議論の後、一つの結論が出る。
どちらにしろ特殊爆弾という要素を日本が持っている以上、その力に今はアメリカは対抗できない。
将来、復讐戦を行うにしろ、行わないにしろ、今は自重して日本の講和条件を飲み国民を救う事に全力を尽くす事になった。
ただし、できるだけ交渉して講和条件をアメリカに有利にするように、ジョセフ・グルー駐日アメリカ大使に指示が伝えられたのである……
【to be continued】




