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89話

今回、割と真面目に眺め。

不慣れな戦闘シーンですが、どうぞお楽しみください。

・・・・・というか、珍しくまともに書いたような気がする。

「ふしゅわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 物凄い息を荒くして、全身鎧の大男タイタニアは大きな斧を振り下ろしてきた。



 とはいえ、その動きは大振りであり、動きが見えていればかわしやすい。


 だが、ただかわすのでは芸がない。


「『スパークウインド』!!」


 魔法をルースはとっさに唱え、自身にかけた。



ずうぅぅぅぅん!!っと、重い音を立てて斧が振り下ろされた先には既にルースの姿はない。


「ふしゅー?」


 突然消えたルースの姿に、大男が体勢を立て直し、きょろきょろと周囲を見渡そうとしたその時である。



「背後から『バブルボム』!!」


ドッカァン!!ボッカン!!ドッカァン!!

「ふしゅわぁぁぁぁあ!?」


 背後からルースが強襲し、水と炎と雷で作り上げた魔法を炸裂させた。



「なっ!!いつの間に回っていたんだ!!」


 観客席でソークジの叫び声が聞こえたが、答えは簡単である。


 先ほどの魔法『スパークウインド』は、実は身体強化の魔法。魔法と言っても何も攻撃だけではなく、こういった身を強化するような魔法もあるのだ。


 そしてこの魔法によってルースの身体は風に押され、雷でちょっと無理をしない程度に筋肉を動かして瞬時に加速したのである。



 そしてその急加速の後に背後へ回って、魔法で強襲したのだった。


 何しろ相手は全身が鎧で包まれており、単純な物理攻撃では効果が薄そうだと予想が付く。


 魔法の対策がされている可能性もあったが、それを踏まえて、この魔法である。


 この「バブルボム」は以前、エルゼとレリアと一緒に協力して行った魔法の地震の改良・小型版で、爆風を与えるだけの魔法だ。


 その為、風圧で押されてバランスを崩し、自ら鎧の硬さによって中身がダメージを受けるようにとも思ったが。どうも効果はあったようだ。


 ふらふらと立ったからダメージはあるようだが・・・・鎧が傷ついていない。やっぱり硬い。



「ふしゅっ、ふしゅっ、ふしゅわぁぁぁぁあ!!」


 今の攻撃で怒ったようだが、ギリギリ理性はあるのか斧の柄の方を前に出すように持ち替え、突き出してきた。


 大振りで攻撃するよりも、細かな攻撃でまずは相手を疲弊させたほうが良いのだとでも考えたのだろう。


 そこそこ頭は回るようだが、こちらはその上を行く。


「『マッドウォール』!!」



 水と土属性を混ぜ合わせた泥の壁を作りだした。


 そこにタイタニアは斧の柄を連続で突くのだが、べちゃりべちゃりという音がするだけで、まったく効果がない。



 泥の壁の理由としては、普通に土や木の壁でも代用はできるのだが、ただ硬い壁ではいずれ限界が来て壊れてしまう。


 だがしかし、泥の壁であれば攻撃があったところを泥を追加して修復可能であるという利点があるので、いくら壊そうとしても修復の方が間に合うのだ。


 あ、でも考えてみたら木とかでも可能か?水魔法や光魔法を合わせて成長促進させて、覆う・・・・ちょっと再生が遅いかも。



「ふしゅじゅ!!ふしゅわぁぁぁあ!!」


 いくらやってもべっちゃべちゃと変化がないので、タイタニアはしびれを切らして一撃必殺のために大振りに切り替え、斧で泥を叩ききったが・・・・もうその壁の向こうにはルースはいない。


「『フレイムマッドストライク』!!」


 土の大きな拳を作り上げ、炎を纏わせて思いっきり背後からたたきつけた。



ドッゴォォォォォウ!!

「ぶぶじゅぅぅぅぅぅぅ!!」


 軽くタイタニアは吹っ飛び、地面にたたきつけて何度もバウンドする。


 何とか起き上るが、追撃の手は緩めない。



「『アイスボム』!!」


ドッカァァァン!!

「ぶじゅぶじゅぶじゅぅぅぅ!!」


 先ほどの炎の拳の後に、強力な氷の爆弾。


 中身はガッチガチに固めた土・・・ではなく岩であり、氷で覆った、いわば石入りの雪玉である。


 それが爆発四散するように魔改造したのが、この魔法であった。



 飛び散る意思がたたきつけられ、先ほど加熱していた部分に雪が触れるとじゅうううう!!っと音を立てる。


「『フレイムマッドストライク』!『アイスボム』!『フレイムマッドストライク』!『アイスボム』!『フレイムマッドストライク』!『アイスボム』!『フレイムマッドストライク』!『アイスボム』!」


 燃え盛る炎の拳で殴って加熱しては、石入りの塊をぶつけてはじけ飛ぶ雪で冷やし、それを繰り返す。


 それを繰り返していくと、温度の急激な変化に耐えきれなかったのか、鎧にひびが入り始めた。



ぴきっつ!!びきっつ!!ぴききききっつ!!


「や、やめろぉぉぉぉぉぉ!!こちら側に攻撃を与えないばかりか、追い詰める気かぁぁぁ!!」


 鎧にひびが入っていくことに、なぜかイヤに焦り始めるソークジ。


 とはいってもこれは決闘。降参か審判の判断でなければ止めないのだが・・・・



「ふしゅわぁぁぁぁあぁ!!」


 この火と氷の繰り返しにいら立ったのか、タイタニアはなんとか魔法をかわし、斧を構えて振り下ろす。


 そのコースは見事なまでに綺麗にルースを狙っており、通常であれば直撃コースなのかもしれないが・・・・



「残念、それは残像だ」


すかっ

「ぶじゅわぁぁぁ!?」



 水と火で発生させた水蒸気に、光魔法で調節してできた残像を空振り、相手は見事にからぶったせいで勢いそのままぶっ倒れた。


 要は蜃気楼に近いものを創り出しただけだけど・・・・まぁ、コレ実際は光魔法だけで可能らしい。


 だけど、ここに水と火で加えた水蒸気というスクリーンによって、より細かな投影をしたのである。


 あと、このセリフを一度は言ってみたかったというのもあった。




 そして、倒れ込んだところに容赦ない一撃を与える。


「『召喚タキ』!!」


 召喚魔法により、タキを呼びだしてとどめを刺す。


 まぁ、流石に命を奪うのはルール違反とも言えるので、ギリギリで加減してもらうように、前もって打ち合わせ済みである。


 その為の実験台に、なんど魔法で作った土人形が破壊された事やら・・・・・加減し損ねるとスリッパで潰される黒きGみたいになったからね。


【よっしゃ出番じゃあぁぁ!!】

「な、なんだあの大きなモンスターは!?」


 召喚魔法によってノリノリで出てきたタキにソークジが驚くが、もう遅い。


 一気にタキがその前足でタイタニアを鎧の上からばしんっと押さえつけた。


・・・・・一応加減はしたらしいけど、鎧が耐え切れずに崩壊した。



ビキビキッツバキンッツ!!


 これで勝負は決まったかと思われたが、鎧が割れると同時に、タキが怪訝な声を上げた。



【・・・・ぬ?】

「どうした、タキ?」

【これ、中身がないのじゃ】

「え?」


 見てみれば、鎧が無くなったタイタニアには・・・・・中身がなかった。




 確実につぶしたと思ったのに、その中身が見当たらない。


 鎧に包まれ、あの斧を振り回していたことを考えると筋肉マッチョな大柄の人物が詰まっていそうなのだが・・・・・中身がない。


【っ、この臭いは!!】


 すばやくタキが足を離し、バッと身をひるがえして勢いよく離れた。


 その数秒後、なにやら砕けた鎧の周囲に靄のようなものが立ち始めた。


「な、なんだ・・・・?」




 ずずずずっと集中していき、ヒトの形をとる。


 いや、そのまま肥大化していき、その色はまるで不気味な・・・・何色とも言い表せない、もはや何度も遭遇したことがある色合い。


 靄が圧縮され、一気に霧散する。


 そして、その中から出てきたのは・・・・・



【ブ、ブブブブブシュワァァァァァァァァア!】


 全身が目玉と口だらけであり、体表が不気味な色合いをした化け物であった。


 目が血走り、口はドロドロと汚いよだれのような者を垂らし、それが幾重にも存在しているのだから、余りの不気味さに観客席では失神者が続出する。


『おおおおっと!!タイタニア氏が、何やらやばそうな化け物に変貌したぜベイベー!!』


 審判、こんな時でも兼任している司会者魂か恐れることなくこの状況を実況する。


「な、な、な、なんだあの化け物はぁぁぁ!?あんなものになるなってわたしは聞いていないぞぉぉぉぉぉ!?」


 なにやら腰を抜かして驚愕しているソークジ。


 どうも、代理人として雇ったのはいいけれども、あんな化け物だったとは聞いていなかったようである。




 観客席の方では見ていた観客たちが逃げ出し、エルゼたちがその誘導を行って無事に避難させているようだ。



 一方、ぎょろぎょろとタイタニアだった化け物はその数多くある目を動かし、ルースの方へ一斉に向けた。


キラン!!

「っ!?」



 一瞬目が光り、とっさの判断でルースは魔法を発動させた。


「『リフレクトミラー』!!」


 水と光、そして氷で氷の分厚い壁をつくって鏡のようにする魔法。


 出来上がると同時に、タイタニアのすべての目から一斉に怪光線が放たれた。



びびびびびびびびびびびびびびびびび!!

「どわぁぁぁあ!?」


 間一髪というか、ああいった化け物の攻撃手段をとっさに予想できたおかげで、何とかルースはその攻撃を防ぐことができた。


 怪光線は全て反射され、一気にタイタニアに返っていく。


 だがしかし、どうやら自分の攻撃では傷つかないとばかりに堂々とタイタニアは構え、全ての光線を受け切り、発生した土煙がはれると無傷の身体を見せびらかした。


【ブッシュワァァァァァァ!!】



 叫び、そして全部の目を再びこちらへ向ける。


 物凄く気持ち悪いというか、かなり嫌な視線だ。


【召喚主殿・・・・これまたあれじゃ。以前の怪物たちと同じじゃ】

「フェイカー製の怪物ってことか」


 今まで何度も対峙してきたから分かるが、相手の色からして確定である。


 タキの鼻でも同じようの臭いを感じるらしいが、今までのものに比べて言うなれば・・・・・”完成度”という点で見ると高い方らしいのだ。


 何しろ、今までのは液体、ちょっとドロドロの液体と固体の中間、やや体液を漏らす固体と言った相手が多かったのだが、今回のは明らかな固体。


 目や口がはっきりしているし、これまでの奴ら以上の完成度の高さがあるのだろう。





 何にせよ、このまま放っていい代物ではない。


「タキ!これを投げつけてしまえ『ビッグアイスロック』!!」

【分かったのじゃ!!】


 ルースが素早く凍った岩の塊を魔法で空中に作り上げ、タキがまるでバレーのレシーブのごとくそれを尻尾でたたきつけ、タイタニアの下へふっ飛ばした。



ドッガァァァァアン!!


 命中し、砕け散ったが・・・・・・ダメージはない様だ。




びしゅるるるるるるるるるる!!

「っ!?」


 と、いきなりタイタニアが目と同じぐらい多くある口を開けると、一気に長い舌が大量に出てきた。


 そして、一斉にルースへ向けて伸ばしていく。


「ちょっと待てぃ!!そういうのは男の俺にやっていいもんじゃないだろ!!」


 流石にいろいろと不味そうなので、慌ててルースは「スパークウインド」の魔法で身体強化し、一気にかわす。



【こういうのは勘弁じゃ!!】


 タキもその舌には嫌悪感を表し、爪で切り裂いたり、絡まれないようにかわしまくる。



 だが、ここで油断というべきか・・・・・ルースはやらかした。



ぐきっ!!

「いっ!?」


‥‥‥何度目かの回避で、足首をくじいた。

 

 魔法で身体強化したとはいえ、やらかすときはやらかすものである。


 意図していなかったとはいえ、その隙をタイタニアだった怪物は見逃すはずもない。



しゅるるる!!

「どわぁっ!?」


 足をくじき、体の動きが鈍ったルースめがけて一気に舌が足に絡めとられ、引っ張られた。


 その向かう先は・・・・・・奴の目玉の数と同じぐらい多くある口の一つだ。


【し、召喚主殿!!】


 ルースの状態に気が付いたタキは、慌ててルースを助け出そうとした。


 だがしかし、そうは問屋が卸さないとばかりに再びタイタニアの目が全部輝いて、タキに怪光線を発射した。


 それを彼女は何とかかわしたが、それだけでもルースをタイタニアが飲み込む時間は十分であった。





 迫りくる大口、底が見えず、真っ暗であり、牙があるようだがかまれることはなく、丸のみにされる。



 中に入れられ、口が閉じる。


 一気に周囲は暗くなり、辺りがじめじめと嫌な空間へと変る。



「くそっ!!この野郎出しやがれ!!」


 ルースは魔法を使って中から攻撃しようとしたが・・・・



ぶじゅわぁぁぁぁ!!

「ぐっ!?」


 なにやらものすごい臭い息が吹きかけられ、気が遠くなった。


‥‥‥どうもこの怪物、口臭が超臭い。


 あまりの臭いに、ルースは倒れ込んだ。


 下の地面の感触はぶよぶよのぐにゅぐにゅで気持ち悪く、段々何か液体が垂れてきているのが見えた。


 消化液かもしれないが・・・・・毒でも含んでいたのか、あの激臭でやられて力が出ない。


(ぐっ・・・・・こんなところで・・・・・)

 


 薄れゆく意識の中、ルースは最後の抵抗を試みようと、手を動かし、顕現していた魔導書(グリモワール)に触れる。


 だがしかし、そこでルースの意識は途切れたのであった…‥‥


怪物へと変貌したタイタニアに飲み込まれたルース。

気を失い、迫りくる消化液などのタイタニアの内臓たち。

もはや絶体絶命かと思われるのだが・・・・・

次回に続く!!


・・・・なお、このままもしルースが逝ってしまえば、破壊神が降臨しそう。津波とか、水の大量の槍とか、どう考えてもタイタニアに対して絶望の未来しかないなこれ。


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